田名部宗司作品の書評/レビュー

シャロン (2) 死者は愛を求めない

女探偵の奮闘
評価:☆☆☆☆☆
 19世紀末のパリで遺体修復師を営むシャロン・ベルミリオは、父親のディオスにより聖遺物の心臓を埋め込まれ、不死の肉体を持ってしまった。聖遺物が生み出す怪物が犯した罪を悔いながら、父親の情報を求めるシャロンの前に、サクレ=クール教会の隻腕司教ドミニク・セルネイの紹介状を持って、フランソワ・ヴィドックの孫の女探偵ナタリア・ヴィドックが訪れる。
 ナタリアの依頼を何とかして断りたいシャロンだったが、彼女の執念深さに降参し、依頼を受けることになってしまった。その依頼とは、惨殺された水晶座の元看板女優エヴァ・リニエールの検視だ。本来、検視はパリ警視庁の仕事ではあるが、彼女は社交界の貴公子シメオン・ロシュトゥーやマリユス・ラフォンとの付き合いがあり、さらに、遺体の第一発見者がマリユスの執事スティード・バローだったことから、警察は真相を究明する気が無かったのだ。

 ところが検視を前に死体は消え失せてしまい、さらに、シャロンの前にディオスと腹心のラシード・ウッディーンが現れ、彼に依頼を押しつけていく。それは消えた聖遺物の一部を探すというものだった。
 発見された遺体の痕跡から、珍しい生物の牙が凶器に使われた可能性が浮かび上がり、盲目の退役軍人ミシェル・ギーバルシュ大佐や女装メイドのジル・オルメス中尉の協力を得て、真相に近づいていく。しかし…。

 アレジア通り「ル・プティ・ビストロ」の看板娘のニーナとのラブコメはちょっとだけ。今回の主役は徹頭徹尾、ナタリアという感じだ。シャロンとナタリアの関係がどうなるかは見物。物語の方向性も定まってきたようなので、次巻以降も楽しみだ。

シャロン―死者は神を語らない

終盤の転調が印象的
評価:☆☆☆☆☆
 19世紀末のパリで遺体修復師を営むシャロン・ベルミリオのもとに、盗掘屋のティエリ・ゴセックから銀髪美少女の死体が持ち込まれる。貧民窟で発見されたそれは、最近頻発している少女行方不明事件に関与しているように思えた。
 サクレ=クール教会の隻腕司教ドミニク・セルネイから秘密裏にその事件の調査を依頼されていたシャロンは詳細に少女の遺体を調べるのだが、実はその遺体は仮死状態になっていただけだった。

 記憶喪失だというその少女にリュシーと名付け、事件の犯人をいぶり出す囮として利用しようという思惑を持ちながらも、天真爛漫なリュシーに振り回され、彼女の身許を明らかにするために、刑事のローラン・ピレスやティエリ、盲目の退役軍人ミシェル・ギーバルシュ大佐やその世話をする女装メイドのジル・オルメス中尉の助けをかりて、情報を集める。
 だがそれは、アレジア通り「ル・プティ・ビストロ」の看板娘のニーナの嫉妬を招き、事件から遠ざけたい彼女を事件の渦中に巻き込む結果にもなるのだった。

 そして、彼自身が抱える問題、父親ディオス・ベルミリオが率いたイェルサレムでのキリスト墳墓調査団が発見した聖遺骸が引き起こした悲劇の結果は、彼に事件を解決するための力と、善良なる人々から彼自身を遠ざける負い目ともなっていく。

 パリの街で起きる猟奇事件と、その解決に少しだけファンタジー要素が絡む。終盤でのどんでん返しがばっちり決まった印象だ。ほのぼのラブコメに浸り過ぎると、びっくりすることになるかもしれない。最後は結構血みどろなので。

幕末魔法士 (3) The eastern beast

狙われる能力
評価:☆☆☆☆☆
 蛤御門の変の影響で長州藩の人間は大阪でも動きづらくなってしまった。長州出身の久世伊織も適塾にはあまり顔を出さず、魔道書の翻訳で日銭を稼ぐ毎日だ。そして彼女から離れない失本冬馬は、下宿先の女将に気に入られ、見合い話まで来る馴染みようだ。
 だが、伊織は公儀隠密の八巻礼蔵が手配してくれたおかげで、普通の長州藩士よりは動きやすい。しかし、あまりに彼に借りを作りすぎるのも気持ち悪い。そんなわけで、彼の頼みを引き受けることになった伊織は、その協力者として坂本龍馬に引き合わされる。彼は桶町の小千葉道場で冬馬とも旧知の仲だった。

 八巻の依頼には、先日、桂小五郎に扮して伊織をだました男も関わっているらしい。そして、その男は金峯山寺から小夜という娘をかどわかし、何かに利用しているという。彼女を追ってきた行者の少年・法鷲とも協力し、その男を捕まえようとするのだが、そこは魔人とも深く関わる企みが行われていた。

 だんだんとキナ臭い話になってきたし、今回はかなり悲しいお話になってしまった。次巻は早めに出してもらわないと、この沈んだ気持ちの救いどころがなくなってしまう気がする。
 もうひとつ気になるのが、敵・味方共に強さのインフレーションが起こり始めているのではないかな、ということ。このまま進むと、世界の運命をかけて世紀の一戦が繰り広げられる展開になりそう。

 どんどん強くなるとか、どんどん仲間が増えてくるとか、少年漫画の王道展開みたいです。

幕末魔法士 Mage Revolution (2) 大坂鬼譚

慈善活動か、あるいは犯罪か?
評価:☆☆☆☆☆
 松江から大阪・適塾へと帰還した久世伊織と、彼女にくっ付いてきた失本冬馬だったが、なぜか適塾は竹矢来で囲まれており、塾生は同心に追われていた。塾生の一人、笠原来青が魔法薬の実験で商家の娘を鬼に変じさせたと疑われていたのだ。そして、塾長の緒方洪庵も行方不明となってしまっていた。
 適塾に水売りに来ていた少女、冴から事情を聞いた伊織と冬馬は、洪庵と来青の行方を追い、鬼の真相を調べることになる。しかしその過程で、壬生浪士組の沖田総司や土方歳三と敵対することになり、二人は囚われてしまう。

 調べれば調べるほど、笠原来青が魔法薬の治験で多くの犠牲者を生んでいた事実が明らかになり、伊織の心象は悪化するばかり。そんなとき、伊織の元に桂小五郎からの使いが来て、帰参の誘いを告げられる。大阪の現状を放置して京に向かうべきなのか、あるいは?

 1年ぶりの続巻ということで、作者もあとがきで述べているように、営業的には期を逸した感がなくもない。しかしその分ボリュームはアップ。幕末で魔法物という設定を生かしながら、引き起こされる事件とその裏側で進む維新という二重構造で、ミステリーっぽく仕立て上げられている。
 特に、前半で一度使い、種を明かしたトリックを、後半で上手く再利用して伏線を張るのに利用するところは、フェアで好感が持てる。ただ、そのネタ晴らしが分かりづらいところは少し残念に思った。

 まだまだ魅力的なキャラクターが登場する余地はあるし、時代設定的には面白いところなので、続巻の展開が楽しみなところだ。

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幕末魔法士 Mage Revolution

メイジがおこす明治維新
評価:☆☆☆☆☆
 明治維新前夜の日本。産業革命を魔法革命に、近代兵器を魔法に変えたような世界。
 父の汚名を雪ぎお家再興を目指して勉学にいそしむ若き俊英、久世伊織は、松江藩の執政神藤治部少輔の依頼を受け、魔導書の翻訳に赴くことになる。そこで出会うのは、日本の魔法士の祖であるシーボルトの孫、失本冬馬。開けっぴろげで人懐っこい性格の彼に、久世は戸惑いを覚えつつも徐々に惹かれていく。

 読み終わって思ったことのひとつ目。これはイラストと一体になった作品だということ。このイラストがなかったとしたら、最後の方の展開は納得いかないものになっていたかもしれない。
 二つ目は、誰が主人公だったっけ?ということ。裏主人公はこの世界の根幹にかかわるような大きな存在になってしまうし、脇役がいい味を出してしまうので、本来の主人公が全く目立たない。RPGで言うと勇者や戦士というより回復役、ギャグで言うとツッコミ要員みたいになってしまっていると思う。まあ彼らが決して悪いという訳ではないが、バトル展開で見せ場がないなんて、主人公としてかわいそう過ぎる。

 おそらく投稿作から修正したのだろうが、次以降への謎をたっぷり残した終わり方になっているので、たぶん続巻が刊行されるのだろう。

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