滝川廉治作品の書評/レビュー

MONUMENT あるいは自分自身の怪物

評価:☆☆☆☆☆


テルミー (2) きみをおもうきもち

生きている者には明日が続かなければならない
評価:☆☆☆☆☆
 修学旅行中、バスの転落事故で死んでしまった二年三組の24名の生徒たち。事故に巻き込まれてただひとり生き残った鬼塚輝美は、死んでしまった彼らの魂をその身に宿し、成仏してもらうために彼らの最後の瞬間の願いを叶え続ける。もうひとり、修学旅行に行かずに生き残った灰吹清隆と共に。
 柘植忠明は祖母との約束のために。園芸部部長の西川武夫は、三隅理沙に伝えたかった言葉を薔薇と共に伝えるために。夏来朱莉と渡瀬信弥は、女優と脚本家という夢に区切りをつけるために。輝美と清隆は、死者の想いを叶えると同時に、残された人々の心に区切りをつけ、新たな一歩を踏み出させる。

 これは死によって始まる物語。しかし、残された者には明日が続いていく。ゆえに、彼らは死者の望みをかなえるだけでなく、生きているものを絶望の淵からよみがえらせ、希望を与えなければならないのだ。そしてこの生きているものには、彼ら自身も含まれなければならない。

 ラノベのレーベルから出版されているからという理由でこれを読まないヤツは、本読みではないと思う。

テルミー きみがやろうとしている事は

停止から始まる変化の物語
評価:☆☆☆☆☆
 修学旅行中の月之浦高校二年三組の生徒26名は、突然の土砂崩れに巻き込まれて死んでしまう。生き残ったのはただ二人。奇跡的に事故から生還した鬼塚輝美と、旅行前のアクシデントでバスに乗れなかった灰原清隆のみだ。
 クラスメイトと、そして恋人だった桐生詩帆と運命を共に出来なかったことに罪悪感を感じ、生きる気力をなくしていた清隆は、合同葬儀で再会した鬼塚輝美に違和感を感じる。これまでまともに会話したこともなかった彼女が、まるで詩帆の様に見えたのだ。そんな違和感を裏付ける様に、今度はケンカ好きの高畑哲郎の雰囲気を纏った彼女は、月之浦高校の番長と決着をつけるためにタイマン勝負を始める。

 その後、桐生詩帆となった鬼塚輝美の告げる詩帆の最後の言葉に救われた清隆は、輝美の中に死んだ24名の想いが生き残っていることを知る。そして、彼女が彼らの最後の想いを実現するため奔走していることを知り、彼女の手伝いを申し出るのだった。

 他の全員が死んだ中でただ一人生き残った少女に遺された、死んだ少年少女の最後の望み。この巻で明らかにされるのは、ライバルとの決着をつけることにこだわった高畑哲郎、恋人に悲しんで欲しくなかった桐生詩帆、家族に誤解されたくなかった松前孝司、母親に感謝を伝えたかった湯坂絵里、最後のライブをやり遂げたかった檜山蘭の願いだ。
 そんな想いを託された鬼塚輝美自身は、実家に問題を抱え、誰とも関わらないために月之浦へと出て来た人間だ。しかし皮肉なことに、そんな彼女が普通の誰よりも深く人間と関わり、自身を変えられていく。

 死んだ人間は決して生き返らない。そして突然若くして死んでしまうことは、本人にとっても不幸だが、それによって欠けた人間関係を抱えなくてはならない親しい人々にも不幸をもたらす。
 この本で描かれる物語は、全ての希望が断ち切られた場所から始まる。しかし普通と違うのは、そこからの最後のアンコールが許されることだ。そしてそれが許されることで、死んだ者も、残された者も、心の区切りをつける時間を与えられれることとなる。

 この停止から始まる変化の物語。きっちりと描き切るチャンスが与えられることを祈る。

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超人間・岩村

絶望を否定し続ける男
評価:☆☆☆☆☆
 妙見宮高校には超人間と称される生徒、岩村陽春がいる。普段はアメコミ同好会の会長だが、「無理だ」「不可能だ」というセリフを耳にすると、無理であることを確かめるために他の全てを投げ出して、アメコミ同好会の仲間である多村豪や紳一郎・マルカーノと共に、その無理難題に挑む。そして必ずやり遂げる。
 新聞部部長の高津初美の妹、五月は、アメコミ同好会への潜入取材を命じられる。そのパートナーは新聞部の優秀な先輩であり、それにも拘らず煙たがられている杉浦夜那だ。二人が仮入部してからしばらくは平和な時間が続いていたのだが、生徒会の方針により廃部寸前の演劇部の川崎八枝の奮闘を知り、岩村が動き出す。

 大変だったり難しかったり、失敗したら恥ずかしいと思ったりして、やる前から諦めてしまう事も多い。諦めても自分の人生に致命的なことは起こらないと思っているからだ。しかし岩村はそうは思わない。無理だと思われていることに絶望したり、あるいは挑もうとしている人間がいれば、何をおいても駆けつけて、何も聞かずに手助けをする。
 そんな岩村をいささか疎ましく思っている生徒会。会長の森直規は、無駄に多い部活動を整理し、実績のないところを廃部にすることで、予算の合理化を進めようとしているのだ。その配下の秋山守孝や伊藤信幸は、森の思想をさらに直接的に進めようとする。

 この本の主人公は、岩村の他にももう一人いる。それが高津五月だ。彼女に岩村のような積極さはないが、出会った人に虚心に接し、その人の本質に触れ、たとえそれに同意できないにしても尊重する。そんな目立たない強さがある。
 これに対して岩村陽春の手法は、ある意味では自分の思想を相手に押し付ける面もあるわけで、そこには否定されることへの弱さが見えなくもない。彼がどうしてこの様になったのかは、おおよそ最後まで明らかにはされない。しかし、どこか悲観的でありながら、異常なまでに前向きな彼の生き方は、否定できるものではないだろう。
 そしてこの本の本質をあらわすセリフをひとつ。「絶望とは人生で一度も遣わなくて良い言葉の一つだ」

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