高橋慶作品の書評/レビュー
輪るピングドラム 下(幾原邦彦)
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多蕗桂樹が時籠ゆりの名前を使って高倉陽鞠を拉致し、高倉冠葉に高倉剣山と高倉千江美を連れてくるように迫った事件は終わった。荻野目苹果も交え、高倉晶馬と冠葉、陽鞠という家族の日常が戻ってきたかに見えた。しかし、それは仮初の幻想にしか過ぎない。
渡瀬眞悧から陽鞠がもはや治らないと宣告された冠葉は、彼女を助けるために企鵝の会の活動の深みにはまっていく。陽鞠の許には夏芽真砂子が訪れ、これまで高倉家が忘れようとしていた真実を暴きだし、家族が崩壊していく。そしてそれを晶馬は見ていることしかできない。
だが、荻野目苹果は彼らの家族が崩壊していく様を見ていたくはなかった。姉の桃果の運命の日記を取り戻し、運命の乗り換えによってやり直したいと思う苹果。そのためならどんな犠牲を払っても構わないと思うのだが、今後は晶馬がそれを許すわけもなかった。
仲の良い食卓が崩壊していく過程を、それを押しとどめたいと思っても、どうすることもできない。無力感にさいなまれてそのまま潰れてしまうのもひとつの道だろう。しかし、それでも希望を求めてあがき、残したいものがある。それはどれほどの代償を支払っても悔いのない想いなのだ。
輪るピングドラム 中(幾原邦彦)
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高倉陽鞠の命を助けるのに必要な、ペンギン帽子が示すピングドラムを手に入れるため、それに関係するという荻野目苹果に付き添う高倉晶馬。その苹果は、亡くなった姉・桃果の日記に書かれていた未来を実現すべく、晶馬たちの担任である多蕗桂樹と結ばれるように画策していた。
しかし、自分自身を捨て姉になりきろうと行動する苹果に対し、晶馬は苛立ちを隠せずに厳しい言葉を投げつける。それにショックを受けた苹果はふらふらと道路へ飛び出してしまい、結果、それを助けようとした晶馬は怪我をし、一方、日記の半分も何者かに奪われてしまった。
高倉冠葉と夏芽真砂子の関係、時籠ゆりと桃果の関係、全ての謎は16年前の出来事につながっている。その運命に翻弄される、様々な人と人の結びつき。それは血縁であったり、友人であったり、恋人であったり、仇であったり。失われた過去を取り戻すため、未来を質に入れたかのように行動する人々にとって、その関係はとても重要なのだ。
TVアニメ「輪るピングドラム」の原作本。第10話〜第18話に相当する内容と思われる。アニメで描写された場面もあれば、省略された場面もあり、地の文があるおかげでキャラクターの行動背景がよく分かる。
輪るピングドラム 上(幾原邦彦)
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高倉冠葉・高倉晶馬・高倉陽鞠は、小さな平屋の一軒家で、3人きりで暮らしている兄妹だ。つつましやかな食卓に供せられる朝食は質素だけれど、幸せに満ちている…はずだった。
しかし、退院した陽鞠を連れて出かけた水族館で、陽鞠は倒れ、運び込まれた病院で死んでしまう。そして霊安室で嘆き悲しむ冠葉と晶馬が聞いたのは、「生存戦略!」という叫び声と、水族館で買ったばかりのペンギン帽をかぶった陽鞠が生き返った姿。そして、姿は陽鞠でありながら、中身は別物になったペンギン女王は、陽鞠の寿命を延ばす代わりに、ピングドラムを手に入れて来いと彼らに言う。
その指示に従い彼らが接触したのは、荻野目苹果という少女。彼女がピングドラムを持っているらしい。その彼女のあとをつけ、行動を監視した冠葉と晶馬は、彼女が彼らの学校の担任である多蕗桂樹のストーカーであると知る。
アニメ「輪るピングドラム」の原作本。アニメとは異なる視点で描かれている部分や、アニメよりもシリアスな展開になっている部分もあり、かなり補完的な内容と言える。
アニメでもまだ全貌が分からないけれど、上巻(おそらく9話まで)だけ読んでもまだ全貌が見えてこない。いまのところは苹果が主役の様だけれど、実は陽鞠も同じくらいの主役になるようだ。
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