高遠豹介作品の書評/レビュー

今日からかけもち四天王! (2) ~勇者陥落と革命の日~

嫉妬の矛先
評価:☆☆☆★★
 男子に対して目立っている宇留野麻未は、水沢秋乃や黛百合子のグループに目をつけられ絡まれる。そこに乱入した初島理央は、水沢秋乃や黛百合子から敵視されることになってしまう。決着は体育祭だ。
 時を同じくして「勇魔戦争オンライン」では、勇者排斥が巻き起こり始める。宇留野麻未が操る勇者の生存期間が長く、他のプレイヤーが勇者になれないことが不満を生じさせ始めたのだ。しかし、魔王であることを隠している早坂亜梨沙とは親交が深まるようになり、暗殺者ハイネと料理人リオとして魔王と勇者陣営どちらにも顔を出す初島理央は安堵する。だがその結果、二人の女の子が初島理央の家で鉢合わせするという事態が起きてしまうのだった。

今日からかけもち四天王! ~ネトゲの彼女はボスでした~

こうもり少年がんばります
評価:☆☆☆☆★
 高校生の初島理央は、学園のアイドルの宇留野麻未と親しくなるため、彼女がはまっているオンラインゲーム「勇魔戦争オンライン」を行うために、バイトをしてパソコンを購入した。
 そして目論見通り、ゲームの中で唯一のキャラである勇者をやっている宇留野麻未と出会い、料理人リオとして彼女の親衛隊に加わることになった。

 ところが、幼いころに引っ越していなくなってしまった幼なじみの早坂亜梨沙が戻ってきたことから、話は複雑になっていく。実は彼女は、勇者に敵対する魔王のキャラを操っているという。
 教室では勇者陣営の会話が繰り広げられるため、スパイの様な事をしたくない亜梨沙は友人も作れない。その状況を何とかしたいと思った理央は、複アカで暗殺者ハイネとなり、誰にも秘密で魔王の四天王に潜り込むことに成功した。

 勇者と魔王はゲーム内で殺されればアカウント削除の憂き目にあってしまう。近づく勇者軍の攻勢を前に、理央は悲しい結末を避けるため、敵味方のキャラを操って奮闘する。
 こうもり少年がんばります!

三井澄花と四角い悪魔 (2)

現実とぶつかる理想
評価:☆☆☆☆★
 大学生だった菱見勇司は、友人と思っていた人たちに騙されて借金を背負わされ、その借金を肩代わりしてくれた三井澄花に誘われて、関東特区銀行系列のKTカードに就職した。
 彼が配属されたのは、三井澄花が班長を務める個別対応班。回収が困難な債権者を相手にする部署なのだが、実は頭取の孫である澄花を隔離するためにつくられた部署でもある。だが、同僚の斎田莉奏奈は、STG(スーパー定時帰り)を習得した、有能で魅力あふれる女性であり、そんなに悪い居場所ではない。

 高校生の遠藤織子の債権回収をこなし、少し早い社会人としての第一歩を踏み出した菱見勇司だったが、最近は債権回収の難しさを体感していた。自分の意志で金を借りたのに期限までに返さない。督促すれば盗人猛々しく怒鳴る。そんな債務者に嫌気が指し始めていたのだ。
 そんなときに彼の担当となった債務者・穴岡翔は大学生だ。ショッピング枠を現金化し、30万円以上の滞納をしているものの、何に使っているかを語らない。そうこうするうちに、彼の妹の穴岡舞瑠が会社に乗り込んでくる。

 自分を救ってくれた澄花に諭された様に、そして織子が頑張った様に、取り立ては債務者の救済になるとの信念のもと、今日も取り立ての電話をする勇司だったが、債務者たちの現実に、その理想にむなしさを感じ始める。それは数字にも表れ、澄花の期待に応えられないというプレッシャーになっていくのだ。
 そんな中で行われる、織子とのデート。ぎこちない二人の関係も敬語が取れて来て少しは近づいたかと思いきや、デート中に勇司は大失敗を犯してしまう。そして上司の澄花とは、仕事とプライベートのバランスが上手く取れていない。そのぎくしゃくさは、仕事のモチベーションとなるのか、あるいはデモチベーションされる結果となるのか?

 だけど澄花は、なんで勇司を気に入ったのかなあ?

三井澄花と四角い悪魔

悪魔どころか天使しかない
評価:☆☆☆☆★
 まずはタイトルの四角い悪魔というのが何か、ということですね。これは財布の中にはいっている悪魔、クレジットカードのこと。ボクはよく使うから、悪魔というよりは天使だと思っていますけれど。
 大学二年生の菱見勇司は、儲かるという詐欺話に騙され、一千万円以上の借金を作り、せっかく入った大学も辞めざるを得なくなってしまった。しかし彼は、支払能力はなくとも、返済しようという誠意だけはなくさない。その、債権者とのやりとりを聞いていた三井澄花は、彼の借金を肩代わりし、代わりにクレジットカード会社の契約社員として、自分の下で働くように条件を出した。

 それは菱見勇司にとって上手すぎるくらいの話。また騙されていると思うかもしれないが、そんなこともなく、そこは一流企業で、同僚の斎田莉奏奈も含め、彼女たちは取り立て困難な延滞者の督促を担当する部署で働いていたのだ。
 彼が初めて担当することになったのは、アイドル顔負けの女子高生・遠藤織子。十万円超の滞納をしているらしい。実際に会ってみたところ、彼女は大人しくて真面目で、しかし返済能力がない。疑問に思った菱見勇司は、その背景を調査してみることにする。その結果分かったのは…。

 四角い悪魔と銘打っているのだけれど、どこに悪魔がいるのだろう?上司はメチャクチャ優しいし、丁寧に仕事を教えてくれる。とても採算ベースにのる仕事のやり方とは思えないけれど、とある事情があってそれでも問題なし。そして取立てに行く菱見勇司は、債務者に同情して、債権者の枠を飛び出しかねない献身を見せるのだ。
 実際、リボルビング払いの話や詐欺の話を考えれば、ネタとしてはとても怖い世界を扱っているはず。それなのに、描かれる世界は明るくて健康的。物語としてはそれで成立しているし、面白いのかも知れないが、これで逆にクレジットカードを甘く見る読者も現れてしまうのではないかと、少しだけ心配。余計なお世話なんだけどね。

 怖いところは怖い。痛い目を見る人間はしっかりと痛い目を見る。それでいて誠意ある人間に救いが用意されるという構成にした方が、現実を踏まえつつ、エンターテインメントとしての要件も満たせるのではないだろうか?

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