高樹凛作品の書評/レビュー

明日から俺らがやってきた (2)

過去の傷口を刺激する
評価:☆☆☆★★
 桜井真人は、未来からやって来た自分自身である「推薦」と「受験」の後押しを受け、クラスメイトだった高瀬涼を不幸になるはずの運命から救い、そして彼女と付き合えるようになった。そして共に同じ大学に進学し、幸福な未来が訪れたにもかかわらず、「推薦」と「受験」は未だこちらの世界に居座り、さらには高瀬涼を好き過ぎる「変人」まで未来からやってきてしまう。  「変人」の悩みは、かつて高瀬涼を氷の女王にしたきっかけ、小学生時代にわだかまりを持ったまま別れてしまった友人の香坂伊織と、大学時代に再会し、決定的に破局して、高瀬涼を傷つけてしまったということだった。そしてこの世界でも、香坂伊織は他者を寄せ付けない暴風のような気質の美人として、桜井真人の同級生になっていたのだ。  高瀬涼の過去の傷を癒すため、香坂伊織との和解をセッティングしようとする桜井真人だが、なぜか彼女は彼以外とはまともにコミュニケーションしようとしない。その結果、彼女と二人で行動することが多くなり、それは噂となって大学内を駆け巡り、高瀬涼の耳にも届いてしまう。  過去の贖罪のために桜井真人と別れようかと思い悩む高瀬涼に、彼はなすすべもない。いっそ、香坂伊織を切り捨ててしまおうとも思うのだが、藤宮ゆき子から聞いた彼女の優しさに触れ、三人で至るハッピーエンドを目指すことにするのだった。  抽象的にいえば、60点を目指して60点を取った感じの作品だ。設定に基づく構成に不満はなく、目指した所からは100点を取っているはずなのだが、そもそも目指した所が低いので満足度が低いという印象を受ける。同じ結末に至るにしても、多くの人を関わらせているのだから、もう少し複雑な構成を目指した方が、満足度は高くなったかもしれない。  使い古された設定で、萌要素を追求するだけでは、十把一絡げに扱われる作品にしかならないだろう。そこを乗り越える構成があれば、ありふれた設定でも面白くなるとは思うのだが…。

明日から俺らがやってきた

未来の自分が進路指導!
評価:☆☆☆★★
 第18回電撃小説大賞電撃文庫MAGAZINE賞受賞作、高樹凛「明日から俺らがやってきた」。

 桜井真人は進路に悩む高校生だ。望めば大学に推薦入学も出来る。ただしそこは、不純異性交遊学部などと揶揄されるチャラい大学だ。将来のことを考えれば不安もある。なら受験をして、一つ上のレベルを目指し、一流企業に就職すべきか…。そんな悩みを抱え、進路調査票を前に固まる真人の許に、6年後の自分が二人やってくる。彼らは受験をした未来と、推薦をした未来だった。
 受験を選んでも、推薦を選んでも、どちらも主観的には不幸な人生になる。そう宣言されてしまった真人は、一層、どちらを選ぶかで悩むことになる。そんなとき、同じ様に進路調査票を提出していない、氷の女王と呼ばれ敬遠されている美人の高瀬涼と話をする機会を持つことになる。そして彼女の意外なほどのお人好しぶりを知り、未来の自分から彼女が悪い男に騙されることを伝えられた真人は、彼女が将来不幸にならないよう、彼女が相談できる友達を作ろうとする。

 気の良い友人の寿ゆかりの助けを借り、未来の自分からアドバイスも受けながら、涼の妹の高瀬優も紹介してもらえるほど仲良くなった真人だったが、突然、涼が真人とゆかりを避ける様になる。一体何があったのか?

 あの時に戻ってやり直したいという願望を持つ人は少なくないだろう。でも普通はそれが実現することはない。しかし真人にはそのチャンスが与えられた。厳密には、失敗した未来の自分が、失敗する前の時点に訪ねてくる訳だが。そして失敗を回避しようとする。
 だが、未来を知れば幸福な未来を選べるとは限らない。知っている未来から変化すれば、その先にあることは文字通り未知だ。結局、そこで選択をするのは自分でしかない。望む未来を引き寄せるべく努力をして諦めないことが、幸せを呼びこむ王道のやり方なのだろう。

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