高岡杉成作品の書評/レビュー

こわれた人々

理解とは型にはめること?
評価:☆☆☆☆★
 倉橋美冬は登校中にクラスメイトの向井城介の頭を自転車で轢いてしまった。しかし相手の城介は、美冬に目もくれずに去って行ってしまう。何だかよく分からないまま、とにかく彼の落した生徒手帳を返そうとするのだが、彼と小中学校が一緒だったという土屋亜希子から、彼には関わらない方が良いと忠告される。
 なぜなら彼は、普通では理解できない、何かが違う人間なのだという。小学生の時、同級生女子のパンツを大量に盗み体育館に並べていたという逸話から、単純に変態とくくれそうで、やはりそうは言い切れない、とにかく不安定な人間なのだ。故に関わらない方が良い。

 だが、倉橋美冬は、故人である母親が、彼女に何かを隠したまま逝ってしまったように感じていて、相手のことを理解できないということが気持ち悪い。だから、向井城介を理解しようと彼に接触を試みる。
 一方、向井城介は、周囲が思うように不安定な人間ではなかった。従姉の木村時江の家に下宿しながら、中学生の小島花澄にアドバイスをもらいつつ、ウラビトという、サーフィスのオモテビトから生まれた、ボトムの住人たちと日夜戦う勇者だったのだ…なんてね。


 第6回小学館ライトノベル大賞優秀賞受賞作品。ガガガ文庫の新人賞作品らしく、精神的な要素が中核をなしている作品に見受けられる。しかし、それにしては毒は薄め。悩めるヒーローというのはある意味定番だし、ヒロインに善意という名の毒が仕込まれてはいるが、思春期という言葉で許容できる程度。そう、大体、思春期と言ってしまえば納得できてしまう作品だともいえる。
 そこを突き抜けるには、もう少しとんがらせた方が良い気がする。人の心の裏側をテーマとするならば、もっと徹底的に、思わず眉をひそめてしまう様な、しかし暴力的ではない壊れ方をさせた方が、より際立ったのではないだろうか。もちろんそうなれば、読み手を選ぶ作品になってしまうことは否めないのだが…。

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