高遠るい作品の書評/レビュー

ボイス坂 (2) ~あたしもそろそろ誉められたい~

プロとの隔たり
評価:☆☆☆★★
 声優を目指して上京したミーハーオタクの藤林沙絵は、声優専門学校で鉢屋出雲という才能の塊に圧倒され、引き籠りニートと化していた。しかし、やけっぱちで受けた声優超新星オーディションで、モデル女子高生の楯岡未知や、ツキノワグマの仔に乗るマタギ娘の百地狸子と共に、プロダクション社長の中司周馬になぜか認められ、声優としてデビューすることになった。
 だが、中司周馬の育成方針は、基本レッスンと同時進行のオン・ザ・ジョブ・トレーニング方式で、10回のオーディションのチャンスのうちに、自らの手で仕事をつかみ取ってこなければならない。

 みんな、自信満々で現場に出かけていくものの、やはりプロとの隔たりは大きく、まともにオーディションに参加することすら難しい。それでも、一流の講師による指導を受け、声優として生き残るためのヒントをつかみ取ってゆく。
 楯岡未知や百地狸子が才能の片鱗を見せ、仕事を決めていく中、一人取り残された藤林沙絵は、やはり腐ってしまい、酔いつぶれて街を彷徨い歩く。そんなとき、彼女の前に姿を現したのは、王子さまとしか呼びようのない人物だった。

 とりあえず、冒頭の起動失敗プロローグみたいなやつはいらないだろ。あれでかなり読む気をそがれるよ。でも、中身はそれなりに面白いところもあり、キャラクターはテンプレート化されているのに妙に人間くさい。でもこれ、変な復讐劇になっていくんじゃなかろうな?

ボイス坂 〜あたし、たぶん声優向いてない〜

現実編、そして妄想編
評価:☆☆☆★★
 私立聖ヒネモス女学院に通う藤林沙絵は、母親の藤林浅葱や担任の小長井要の反対を押し切り、声優養成の専門学校へ進学することにした。オタクな友人の由利千歌子と一緒にコスプレをしたり、動画をネットにアップしたりしている内に、自分は向こう側で輝くべき存在だと考えるようになったのだ。
 しかし専門学校では、農道メットと馬鹿にしていた鉢屋出雲にデビューで先を越され、講師陣にも全く評価されず、テロリストのカリーム・アブドゥール・アル・アッザムが住んでいたために激安だった新宿の下宿に引きこもる様になってしまった。

 久しぶりの同窓会で再会した由利千歌子は、生物工学の研究者を目指して東工大に入学し、ほっそりと痩せてスタイル抜群の女子大生となっていて、他の同級生もまばゆいばかりに人生を謳歌している。翻ってみて自分はただの引きこもり。声優を目指し始めた頃の自分を幻視して罵倒され、母親と約束の期限まであと少しと迫ったとき、彼女は声優事務所グランドクロスが主催するオーディションの記事をネットで目にした。
 最後のチャンスと胸に秘めてオーディションに参加し、書類選考は突破したものの、周囲にプレッシャーを与えるモデル女子高生の楯岡未知や、ツキノワグマの仔に乗るマタギ娘の百地狸子に圧倒され、社長の中司周馬の目の前でのオーディションでは、全く持っての素人ぶりをさらしてしまう。…だがなぜか合格。最短デビューを目指し、前例無視のプロモーション活動を行っていくことになるのだった。

 本作は前半と後半に分けて理解した方が良い。前半は私小説もどきな、声優を目指した少女が現実に打ちのめされて挫折する話。後半はあり得ない幸運の連続で声優事務所に所属することができるようになり、デビュー目指してオーディションを受けまくれるようになる話だ。
 この内容を深読みすれば、前半の終わりの同窓会で、旧友とのあまりの落差を見せつけられた落伍者が絶望して自殺、あるいは自閉してしまい、後半のストーリーは全て妄想という解釈も出来なくはない。ゆえに、前半の展開が嫌ならば、真ん中くらいからページを開いて読み始めても、物語的には何ら問題がない構成となっている。

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