寺田海月作品の書評/レビュー

黄昏街の殺さない暗殺者

甘い考え
評価:☆☆☆★★
 殺し屋レヴン・ステイナーは、反撃を受けて傷を負い行き倒れていたところを、カミーリア・トラヴァンという子爵令嬢に助けられる。彼女はメイドのユゥ・ナンベルと共に庶民向けのお菓子屋を開き、繁盛させていた。
 そんな彼女から、「傍にいて、誰も殺すな」という依頼を受けたレヴンは、情報屋を営むカシャロ牧師とルフィナ・エコロケートの協力を得て、国外からやってきた貴族子弟というカヴァーで、貴族たちの学校に転入する。そこで、カミーリアの護衛をする騎士のビートレット・アトラスと出会い、学校生活を満喫するのだった。

 しかしやがて、レブンの相棒だったジェイが残したクルセイドという言葉に、菓子屋が関わっていることを知る。

閉鎖学園のリベリオン

子捨て学園
評価:☆☆☆☆★
 「倫理」と名付けられたコンピューターが生徒の素行をポイント化し、ポイント上位の生徒は将来、官僚や一流企業への就職が内定するという都市型学園に入学させられた籠原珪は、娯楽もなければ嗜好品もない生活に嫌気が刺していた。
 ポイントの判断基準を推測し、常に1ポイントを維持することで無駄な努力を省き、趣味であるボードゲーム作りにいそしもうとしていたところ、そのやり方を眞上純というクラスメイトに悟られる。人生に退屈している眞上純は、籠原珪のゲーム作成に協力を申し出るのだった。

 そんな籠原珪がゲームの絵師として目を付けたのが樗木えりえだ。「倫理」を開発したフェニックスシステムズの社長令嬢である彼女は、ポイントが-50に近づく生徒に近寄り、素行を正そうとする。そして、籠原珪がゲーム制作に誘っても、やらなければならないことがあるから、と参加を断るのだった。
 彼女が何をしているか興味を持った籠原珪は、学園の闇と、それと戦うミスティルティンの湯布院ナノや佐須明亮を知ることになる。

秘密結社とルールと恋

それぞれの筋の通し方
評価:☆☆☆☆★
 久倉高校には不純異性交遊禁止の校則がある。生徒会副会長の会津優介はそれを守らせる立場なのだが、そう単純に割り切れないものを抱えている。なぜなら、彼は生徒会長の円城あかりが好きだからだ。
 そんな揺れる気持ちを悟られたのか、彼は前の生徒会副会長にして問題児の村崎月夜とちびっ子一年生の宇佐美琴音が立ち上げた純遊会なる秘密結社に誘われる。それは、恋愛至上主義を掲げる、恋を成就することを助ける組織だった。

 副会長という立場と相反する組織の幹部になってしまった優介は、何とかあかねと対話の糸口を見つけようとするのだが、あかねに秘密結社の存在を仄めかした途端、俄然、彼女は秘密結社に対抗する意欲に燃えてしまった。なぜなら彼女は、特撮ヒーローの正義の味方に憧れていたのだ。
 しかし、状況はそんな二人の間だけには収まらなくなっていく。風紀委員長に就任した稲沢徹は、報道部部長の藤本沙織を利用し、生徒会長の意に反して、校則違反の罰則制定と、風紀委員の摘発権限強化を提案してしまう。

 描きたいことは分かる気がするのだが、設定にかなり無理がある気がする。そもそも、古い校則を廃止してきた生徒会長が、なぜ恋愛禁止条項のみは残したのか。そして、その校則に反発する生徒が多数いるにも拘わらず、稲沢の提案は絶対多数で可決されてしまったのか。どれほど生徒が移り気で愚昧ならば、そんな整合性のない対応が可能なのか分からない。
 まあそういう矛盾点を差し引けば、対話を重視し規律を守る立場、力なき正義は無力する立場、自由を強調する立場と、様々な立場のせめぎ合いが引き起こす事件を、恋愛というキーワードで解決していく物語として見ることが出来るだろう。

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