兎月山羊作品の書評/レビュー

ザ・ブレイカー (3) 虚ろの神は人世を狂わす

隠れ蓑の裏側で
評価:☆☆☆☆☆
 葉台高校の生徒として林間学校に出かけるカナタたちの目的は、その近くに本拠を置くカルト教団・黒陽宗の調査だ。しかし黒陽宗の教祖である沙耶白ホムラに先手を打たれ、カナタたちを含む生徒は捕らえられてしまう。
 生虚神を名乗るホムラは、生徒たちに信徒を殺させて洗脳し、また、人質を使って、テロの実行犯として東京へと送り込む。カナタもCERO本部爆破犯として追われることになるのだが…。

 テロで社会を翻弄する沙耶白ホムラの真の目的とは?

ザ・ブレイカー II 断罪の処刑人は唄う

面白い
評価:☆☆☆☆☆
 静峯学園の事件を通じて内閣情報捜査局局長の狩月ケイゾウに会い、内閣情報捜査局の心理分析官として働くことになった緋上リセの初仕事は、公共の敵を名乗る人物を捕まえることだった。
 公共の敵は、法律ではさばくことが難しい、不祥事を起こした医師や女優などを断罪し、その殺害風景をネットでライブ中継するという手法で一部の人気を集めていた。

 公共の敵に協力する非合法組織の存在を探知した内閣情報捜査局は、二人の捜査官を潜入させることを決定する。その一人としてリセの前に現れたコードネーム・ブレイカーは、死んだはずの彼女の兄の緋上カナタだった。

ザ・ブレイカー 黒き天才、その名は

残酷な真実
評価:☆☆☆☆☆
 殺戮の三日間と呼ばれるテロ事件を主導したとして死刑判決を受けた少年の緋上カナタは、内閣情報捜査局局長の狩月ケイゾウから、妹の緋上リセが通う静峯学園を恐怖の顔というテロリストが占拠し、生徒たちを爆弾で人質に取っていることを知らされる。
 交渉人として学園に乗り込むことになったカナタだったが、警察の意向で手錠はしたまま、武器は犯人を射殺するための拳銃と銃弾一発だけというありさま。

 そして学園内は恐怖と暴力が渦巻き、誰かを犠牲にすることで他の生徒たちが生き残ろうとする空気が出来上がりつつあった。この状況を作り上げた犯人の目的は何なのか。

ラストセイバー (3) 叡智の花嫁

戦う理由
評価:☆☆☆☆★
 東京騎士団の任務を終え、一週間の休暇を得た名薙綾月、アニカ、如月真無、ミレイアは、京都で羽を休めていた。一日の観光を楽しんだところで、東京政府首相のベイゼル・ブルックナーから連絡が入る。京都政府の次期女王エリザリア・エレオノールとの晩餐会に参加して欲しいというのだ。
 慣れない格好をして向かった席上で、名薙綾月はエリザの戴冠式における護衛役を務めて欲しいという依頼を受けるのだった。15歳ながら女王としての厳しい心構えを見せるエリザに失った何かを見た名薙綾月は、エリザを護る理由を見つける。

 そして戴冠式当日。京都に天使の王プロアテルが、戦略級空中戦艦バルディウスとキメラをひきい、叡智の花嫁を求めてやってくる。

 シリーズ最終巻。売上が立たなかったんだろうな。何とか頑張ってほしかった。

ラストセイバー II 恋殺の剣誓

残酷な選択
評価:☆☆☆☆☆
 ソフィアという少女によって、2015年の東京ビックサイトから2140年の世界に飛ばされた高校生の名薙綾月は、人間として暮らす天使(アイオーン)のアニカや、東京騎士団の称号持ちである剣聖ゼイン=ロイエディールと出会い、終焉の騎士の一人との戦いを通じて、イデア能力に目覚めた。
 同じく未来に飛ばされた如月真無も同様にイデア能力に目覚め、未来の暮らしに適応している中、アニカのひも状態となっていた名薙綾月は、東京騎士団の騎士見習いとしての入団試験を受験するものの、手ひどい失敗をしてしまう。

 PA(パーソナルアーマ)メサイアの修復が終わり、名薙綾月のもとにそれは残されたものの、未だ英雄として戦う覚悟を決められない名薙綾月には、乗る決意を固めることができない。コネによって入団した騎士団の最初の任務でも、通常機に乗って調査任務に向かうことにするのだった。
 そしてやって来た黒き森で、名薙綾月はクラスメイトの藤埜祈里と荻谷清次に出会う。しかし、藤埜祈里は意識不明の状態で、荻谷清次は終焉の騎士の一人であるクリステア・コルトの配下のエクレシア教会聖堂騎士団の戦士となっており、名薙綾月に敵対する。

 中々にシリアスな展開になっている。未来にやってきたタイミングの違い、出てきた場所の違いにより、それぞれの運命は大きく変わり、悲劇を生みだす。その現実に直面し、どんな選択を取るのか。名薙綾月に迫られているのはそれだ。

ラストセイバー 救世の後継

未来世界の救世主
評価:☆☆☆☆☆
 高校生の名薙綾月は、社会科見学で訪れた2015年の東京ビックサイトで、ソフィアという不思議な少女から一冊の手帳を渡される。その直後、謎の黒い水に飲み込まれて目覚めた先は、2140年の世界だった。
 廃墟となった東京ビックサイトの泉で沐浴中だったソフィアそっくりのアニカという少女と出会い、剣聖ゼイン=ロイエディールに助けられた名薙綾月は、2039年に起きた第三次世界大戦以後、世界はDNAコンピュータをその身に宿した天使(アイオーン)という新人類の支配下に置かれ、彼らがふるうイデア能力により虐げられてきたことを知る。そんな天使に対抗できる数少ない切り札が、量子コンピュータによる予測を行うPAを操るゼインらしい。

 同じようにゼインに救われたリーゼ=ベレッタと共に東京へと向かった名薙綾月は、そこでクラスメイトの転校生の如月真無と再会する。彼女も未来へとやって来ていたのだ。そして彼女に、イデア能力が目覚めていることを知る。

 戦乱の未来世界へと飛ばされた普通の高校生が、英雄として戦場に立つ覚悟を決める過程が描かれる。そこに、天使という新たな人類が生まれたことにより変貌した世界と、そこで暮す人々が語られるのだ。
 PA(パーソナルアーマ)という兵器によるバトルと、イデア能力という異能によるバトル、天使と人類の狭間に生きる立場の人間の葛藤など、様々な要素を詰め込んだ世界となっている。

アンチリテラルの数秘術師 (5)

ヒーローが見せる解決
評価:☆☆☆★★
 冴上誠一は進級し、妹の愛架も高校生になった。羽鷺雪名や雛木加苗、明津憲剛や幸村弘樹も同じクラスで賑やかだ。進学祝いに行ったファミレスでは安藤照子こと教団の執行官アンデレがバイトをしているなど、ツッコミどころにも事欠かない。そんな新学期のうきうき気分は、かつて雪名を研究していた先端科学機構のバックにいた内閣情報管理室が急襲してきて、雪名を拉致していったことで吹き飛んでしまう。
 雪名が拉致された理由を説明してくれた教団の執政官タデウスは、内閣情報管理室を背徳の救世団が牛耳っていることを教え、アイン・ソフという“無限”の災厄の数の復活が、それを率いるニコラ=テスラの狙いであることを告げる。その災厄の数は、雪名の意識を食い破って復活するのだ。

 彼らの本拠地を襲撃し、雪名を助け出そうとする誠一たちだったが、稲瀬果穂やカラスに阻まれ、進捗ははかばかしくない。そのうち、決定的な出来事が起きてしまう。

 シリーズ最終巻。ボクの中では「断罪のイクシード」と混同している時があった作品。悲劇のヒロインに対してヒーローがいるファンタジーの展開は、大隊同じになっちゃうものなのかもね。

アンチリテラルの数秘術師 (4)

アンデレがツンデレ
評価:☆☆☆☆★
 東京内戦で父親を失い、妹の愛架と共に二人で生きて来た冴上誠一は、高貴なる血族の娘であるために、戦争の原因を生みだした先端科学機構で実験体として扱われてきた羽鷺雪名と知り合い、数秘術という不思議な力がこの世にあることを知った。そして彼自身も、アンチリテラルと呼ばれる存在らしいことも。
 だが、そんなことと関係なく、彼らは高校生として今を生きている。雛木加苗や教団の執行官アンデレでもある安藤照子らと一緒に、男女ペアで肝試しなんていう企画も出てくる。そうしてやって来た東京内戦の跡地で、彼らはアルヘトスであるカラスと猟奇殺人犯・椚木殺刺と遭遇する。

 東京内戦の原因となった先端科学機構とは、本当は何をしていた場所だったのか。そしてそこに、冴上誠一の父や羽鷺雪名の両親はどう関わっていたのか。一部、読者は既に知っている事実を登場人物たちも知り、そしてそこに、アンチリテラルという存在が大きく関わっていることを知る。
 そういう流れとは別に、人間の心を持たずに生きて来た羽鷺雪名も、様々な人との関わりで、普通の女の子の様な反応をするようになって来た。その無自覚な気持ちは、冴上誠一の周囲の人物にどんな影響を与えていくのか。そんな見どころもある。

アンチリテラルの数秘術師 (3)

何に代えても覆したい現実
評価:☆☆☆☆★
 クリスマス頃、雛木加苗の祖母が経営する北海道の旅館へ遊びに行けることになった、冴上誠一、羽鷺雪名、冴上愛架、明津憲剛、幸村弘樹の6人だったが、向かった先の村に飛行機が墜落、そこから怪物が溢れ出し、彼らはバラバラに逃げることになってしまう。
 教団の新米執行官アンデレと一緒になった冴上誠一と愛架、雛木加苗は、旅館の仲居・相原夕を探す青年・黒枝灯夜と出会う。一方、謎のクマのぬいぐるみを従えた稲瀬果穂に出会った羽鷺雪名は、相原夕の口から、今回の事件を起こした虚数の災厄の数が、黒枝灯夜であることを知らされるのだった。

 科学を超越する様な数秘術という力を使えたとしても、覆せない現実は無くならない。しかし、何に代えても覆したい現実というものはある。その妥協点として生み出されたのが、虚数の時間軸上に存在する、世界から切り離された嘘の世界だ。
 その嘘の世界で最も強い力とは何か。それは、絶対に裏切らないと信じられる存在、そして関係だ。それがあると自覚した時、嘘の世界から出た後でも、失くならない気持ちがあることを知ることが出来るだろう。

 要素的には不足がない気がするのに、いまいちインパクトの薄い作品に感じるのは、冴上誠一というキャラクターが薄いからなのかもしれないな。自己主張の強いキャラはバカばっかりだし。
 だけど今回は、キャラを二組に分けたことが奏功し、起伏のある展開になっていた分、前までよりは読みやすかった気がする。

アンチリテラルの数秘術師 (2)

アンチリテラルとは何者か?
評価:☆☆☆☆★
 歪んだスカラーを操り世界に災いをもたらす災厄の数(アルヘトス)と、それを阻止しようとする数秘術師(アルケニスト)たちの争いに巻き込まれ、冴上誠一が羽鷺雪名と知り合って数ヶ月がたった。いまでは、文化祭の演劇に向け、脚本・監督が誠一、白雪姫が雪名という役割で、練習に励む日々だ。しかし、クラスメイトたちは東京内戦の原因が雪名の両親にあったことは知らない。
 そんな仮初めの平和の日々すら壊すように、奇妙な連続殺人事件が発生する。そしてその中心にいるのは、不登校の不良生徒と評判のクラスメイト明津憲剛と、彼に襲われていた警視総監の娘・来栖真意、そしてそこに見えるスカラーの異常だった。

 第一発見者ゆえに連続殺人事件の容疑者とされてしまった誠一は、自らの潔白を証明するため、雪名の協力を得て調査を開始するのだが、途端に彼らの乗るバスは襲撃され、そして教団から新たな執行官タデウスが現れる。

 誠一と雪名は思考法がネガティブ寄りに見えるところがあるので、それを補う存在として、単細胞な明津憲剛には今後とも頑張って欲しい。事件パートは暗くても良いのだけれど、学園パートはそれとは対照的に、思いっきり明るくして欲しい気がする。

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アンチリテラルの数秘術師

評価:☆☆☆☆★
 5年前に東京内戦と呼ばれる民衆蜂起が起こり、その結果として東京には孤児たちがあふれた。高校生の冴上誠一もそんな中の一人だ。政府からの補助を受けながら、ひとつ下の妹・愛架と共に暮らしていた。
 そんな彼が新宿の廃墟で出会った、飛び降り自殺をしても死なない少女・羽鷺雪名。彼女は、都市伝説にある赤帽子に誘拐された愛架を探す誠一の前に再び現れ、彼と共に赤帽子と対峙する。確率を操作して、起こりそうもないことすら起こさせる赤帽子の能力に対し、雪名は現象の背後にある数字を操作し、逆に現象を引き起こす数秘術師という存在だった。

 愛架を救い出すために赤帽子に戦いを挑み、退けられることを繰り返すうちに、雪名の生誕の秘密や、彼女もかかわっていた東京内戦の真相が明らかになって来る。
 絶対に起こり得ない、ゼロパーセントの確率をくつがえし、希望に満ちた未来を引き寄せることができるのか?誠一の奮闘が始まる。

 物理用語を多用したファンタジー。現象は数字で表現できるんだから、数字を変えることができればその通りの現象を引き起こすことができるでしょ、という理論に基づいて、彼らは力をふるっている。
 なんとなく、あまり一般受けしない様な気もするけれど、こういうことを考えてみたことがある人は結構いるかもしれない。ライトノベルよりもハードSFの方が向いてそうな印象は受けるけど…。

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