鳥居羊作品の書評/レビュー

巨竜城塞のアイノ (2) 偽りのナイツ・オブ・ラウンド

お菓子とお風呂で外交だ!
評価:☆☆☆☆★
 ウスマール帝国からの侵攻を退け、国家としての面目躍如となったアンブリエル王国とその巨竜城塞カタリアベル、そして王権代行のアイノは、その勢いを以って竜核継承会議に臨むことになった。つまり、新しく発見された巨竜城塞の卵をどの国家が受け取るかを決める会議だ。
 大国間の睨みあいと、前回の戦争の結果を受け、本来ならばさほど影響力のないアンビリエルは、一躍、その候補に躍り出ることになった。しかし、もうひとつ決め手に欠ける。他国の高官を説得する外交の道具として、賀藤潤の知識が生かされることとなった。

 そんな潤は、竜核継承会議が開催される土地で、牧志有紗と再会する。彼女は天使核からの代償として、一振りの魔剣を手に入れ、その力を以ってブレンテスの円卓騎士団員となっていた。
 一方、もう一人の漂流者である笹生有理は、ワランシアの女王の下に身を寄せていた。

 今回は、まずは胃袋から攻略していこうという、男を落とす女みたいな戦略で、賀藤潤はこの世界にお菓子を持ち込んでいく。それが効果覿面、外交の道具としても大活躍することになるのだ。そしてお風呂。まるで「テルマエ・ロマエ」みたいなことになっている。
 高校生にして賀藤潤くんの博識ぶりには、驚かされる。そして、言語以外の代償を選んでも、何とか言葉が通じている事実が発覚。実はこの世界の言語は、何か元の世界と関連性があるのかもしれない。


巨竜城塞のアイノ

まずは知る、そして生かす
評価:☆☆☆☆☆
 下着工場の跡取りで技術者志向の高校生・賀藤潤は、剣道部のエース・牧志有紗と久々に会った。そして潤と有紗、謎の公務員が同乗していたバスは不思議な現象に巻き込まれ、次に目覚めたとき、潤は異世界ル・グラン・ブリュにいた。
 その世界は中世ヨーロッパの様な文化レベルで、巨竜城塞という竜の背中に乗った城が抑止力として働く、戦乱の時代にあった。潤を保護したのは、大陸の突端にある小国、アンブリエル王国の王女にして王権代理者アイノ・デル・トライバッハ。強国ウスマール帝国から逃げた知的奴隷と勘違いされた潤は、学友フィーや大賢ファンデンファウストの孫娘クーネリア、巨竜城塞カタリアベルの制御中枢カーチャの協力を得て、アンブリエル王国を文化的に啓蒙していく野望を抱く。

 その手始めは、アイノの生活を文化的にすること。何よりこの世界には下着がないのが許し難い。しかも貧乏なアンビリエルは、超ミニのチュニックしか着ないのだ。だから気になって仕方がない。
 そして小国にはつきものの、困難な外交交渉。そしてそれは武力交渉へと延伸していく。

 ラノベで三角測量などが必須の技能として登場するのは珍しい。それに、何が異世界で最も必要になるかを、真面目に考慮しているところが良い。特に知識は、どんな武力よりも多くの人命を左右することがあることは歴史的事実であり、また、他が知らない知識は圧倒的優位を築くための力となることもある。そういうことをしっかりと踏まえている。
 ただ一方で、読者によっては、技術的要素を詰め込み過ぎに感じる人もいるかもしれない。特に数学を毛嫌いしている様な向きには。この程度は当たり前の知識だと個人的には思うが、それが一般的認識とは限らないので、エンターテインメント性が低いと判断されてしまう可能性もある。

 そんな、技術的知識を持つ高校生が賢者として国の運命を左右できる世界に落ちたのは、彼一人ではない。各国に分散してしまった過ぎた知恵を持つ者たちがどう動くのか。それによって世界の勢力図は大きく塗り替わることとなるだろう。

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