籘真千歳作品の書評/レビュー

スワロウテイル/初夜の果実を接ぐもの

評価:☆☆☆☆☆


θ 11番ホームの妖精 アクアリウムの人魚たち

評価:☆☆☆☆☆


【θ/シータ】 11番ホームの妖精: 鏡仕掛けの乙女たち

評価:☆☆☆☆☆


スワロウテイル序章/人工処女受胎

かくて黒は生まれり
評価:☆☆☆☆☆
 時系列的には1巻よりも二年ほど前の出来事を描く連作短編集だ。お嬢様学校に通う揚羽が、いかにして黒の五等級となっていくかが語られている。

「蝶と果実とアフターノエルのポインセチア」
 扶桑看護学園、通称「五稜郭」に通う人工妖精の詩藤之峨東晒井之ヶ揚羽は、同室の遠藤之連理から、ハンバーグの肉から奇妙な匂いがするという話を聞く。そのことが彼女が追っている事件の原因に関わっていると悟った揚羽は、義妹の雪柳からもヒントをもらい、美鈴之千寿という人工妖精にたどりつく。
 そして、不言志津江という、風気質の制作者が事件の背景にいることに気づくのだった。

「蝶と金貨とビフォアレントの雪割草」
 揚羽は人工生命倫理委員会の使者から脅迫を受け、学園内に潜む白石之壱輪という人工妖精の痕跡を探すよう命じられる。調査する彼女の前に、学年の優等生である白銀の秀才(シルバー・オデット)、銀上之朔妃が現れ、壱輪の探索を辞めるよう、脅迫してくるのだった。

「蝶と夕桜とラウダーテのセミラミス」
 扶桑看護学園の構造には、何者かの意図が仕込まれている。そのことに気づく揚羽だったが、看護師試験の準備に忙しく、放置状態が続いていた。
 それがひと段落したころ、雪柳が四等級認定予定の揚羽を、NF(ノーブル・フローレンス)という、学園の代表にする運動を繰り広げていることに気づく。そしてその騒動で、三十年前から生徒会を指導している人工妖精の三条之燕貴と出会うのだった。

「蝶と鉄の華と聖体拝受のハイドレインジア」
 人倫に利用され嵌められ、学園を放校され、区民登録も抹消された揚羽は、街を彷徨い歩いていた。そんな彼女に、総督府のある人物からの呼び出しが届く。その人物は、現在、揚羽が引き金を引いた事態を利用して暗躍する、黒の五等級という存在がいることを告げるのだった。

スワロウテイル/幼形成熟の終わり

繋がる事件とその背景
評価:☆☆☆☆☆
 東京自治区自警団の捜査官である曽田陽平は、顔剥ぎ事件の捜査中、空から揚羽が降ってくるのを目撃する。一方、その揚羽は、亡くなった友人の葬儀中、死体が動き出して暴れ始めたため、青色機関/BRuEの抹消抗体(アクアノート)として、処理を実行していたのだ。
 人工妖精にとっての顔とは、その自我と深く関係しているため、同じ顔の人工妖精は生まれない。しかし、揚羽は友人の事件を調査していく過程で、全能抗体(マクロファージ)を名乗る女性と接触し、終身安眠装置を利用した政治スキャンダルと、顔剥ぎ事件が密接に関係していることを察知する。

 一方、総督の椛子閣下は、東京自治区に対する旅犬(オーナレス)によるテロを予定調和のうちに終了させようと試みたところ、プラハ事変で最初に実行された高高度核爆発攻撃と、それに対抗するために開発中の迎撃機が関わってきたために、各国からの干渉を受け、自治権崩壊の危機に陥ってしまうのだった。

 半分程度を過ぎるまで、何が起きているのかはっきり示されることはなく、ちょっと混乱した。何せ、前巻から時系列が連続しているのか、疑わしい状況が描かれていたので。しかし、時系列は連続していることが明らかに示されたことで、何が起きているのかは徐々に理解できるようになっていく。

スワロウテイル 人工少女販売処

人与の悩み
評価:☆☆☆☆★
 日本で発生した<種のアポトーシス>のパンデミックは、感染者を関東湾の自治区に隔離することで封じ込められた。<種のアポトーシス>は異性の性交渉によって悪化するとみられたため、自治区は円形蓄電施設/メガ・フライホイールによって男性区画と女性区画に分離され、天皇陛下の代理たる総督・椛子閣下によって統治される。両区画を行き来することが出来る唯一の存在である椛子閣下は、ただ一人の一等級人工妖精である。
 人工妖精は、地中深くに生息する古細菌類/アーキアの研究から生み出された、蝶型微細機械群体により構成される人工の生命体であり、微細機械はあらゆる細胞に擬態する。そしてその精神は、精神原型師により設計されたわずか四種類の精神原型、土気質/トパーズ、火気質/ヘリオドール、水気質/アクアマリン、風気質/マカライトを基礎に、ロボット三原則に加えて個性を定義する原則とそれを秘する原則を併せた五原則によって形作られている。

 自治区私設自警団/プリ・イエローの捜査官である曽田陽平は、人工妖精によって殺された人間の事件を捜査していた。もっとも、その捜査は日本政府の出先機関である赤色機関/Anti-Cyanに引き渡すまでの、僅かな時間に限られる。その現場にやって来た人工妖精は、一等級から四等級までしかないはずの等級外の少女だった。
 その少女、深山之峨東鴉ヶ揚羽は、一級精神原型師の詩藤鏡子の保護下にある人工妖精であり、全能抗体(マクロファージ)之師事により非公式の治安機関として活動する青色機関/BRuEの最後の抹消抗体(アクアノート)だ。彼女の調査により、傘持ち/アンブレラと仮称されている犯人は五原則が破綻していないという事実が明らかになる。

 性自然回帰派や妖精人権擁護派という自治区内の政治対立や、唯一五原則を持たない人工妖精としての悩み、そして人間と人工妖精の関係性を描きつつ、自治区と人類の向かう先を描いている。

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