波乃歌作品の書評/レビュー

ビューリフォー!―准教授久藤凪の芸術と事件

奴隷となった女子大生
評価:☆☆☆☆☆
 父親の反対を押し切って東京の藤ヶ丘学院大学に入学した田之中花は、奨学金だけで生活することはできず、バイトに明け暮れる毎日を送って来た。そんな彼女は、ある講義を受けたことがきっかけで、週給二万円のバイトが転がり込んでくる。それは容姿端麗頭脳明晰温厚篤実な久藤凪准教授の手伝いをするバイトだ。
 ところが、周囲の評判とは異なり、久藤凪准教授は唯我独尊傍若無人悪口雑言の人物だった。花の弱みに付け込んであらゆる雑用を引き受けざるを得ない状況に追い込み、彼女のことを奴隷と公言する准教授だったが、彼にも弱みはあった。それは、素晴らしい美術品と、目の前でしょげている犬みたいな人間を放っておくことができないということだった。

「忘れられた少年」〜伝ピーテル・ブリューゲル『イカロスの墜落』より
 同級生の矢野から相談を持ちかけられた花は、張り切って彼の助けになろうとする。その相談とは、一年前に亡くなった高校時代の同級生から絵葉書が届き、それを受け取った人が怪我をする事故が頻発しているというものだった。
 幽霊の仕業だと騒ぎだす花を黙らせ、久藤凪准教授は事件の真相を暴きだす。


「とんだいいひと」〜歌川国芳『みかけハこハゐがとんだいゝ人だ』より
 ボロボロの学生寮に住むという十年生の大迫を見かけた花は、彼が猫を集めて餌を与えているのを知る。だが、併せて猫に毒を盛っている事例が多発していることも知り、偶然、一匹の猫を助けて治療費を払うことになった花は、大迫が黒魔術の儀式のために猫に毒を盛っているのだと思い込んでしまう。
 その話を聞かされた久藤凪准教授は、花の単純思考に呆れかえりながら、面倒くさいと思いつつも、真相を明らかにするため、花を連れてボロボロの学生寮へと向かうのだった。


「恋の処方箋」〜パブロ・ピカソ『泣く女』より
 花の親友の加藤結衣が彼氏に振られてしまったらしい。理由を問い詰めるものの、彼氏は何も言わずに去ってしまい、結衣は日々を泣いて過ごしていた。それを見過ごせない花は、彼氏の徳田直人を呼び出し、理由を問い詰める。それに対して彼の答えは、飽きたというものだった。
 憤慨する花だが、彼のバイト先であるホストクラブの従業員や客に取材したところ、彼らから受ける徳田の印象は全く異なるもの。何だかよく分からなくなって、気付かずに泣いていたところを見かねた准教授は、仕方なしにおせっかいを焼くことになる。


「家族の肖像」〜ラファエロ・サンディ『子羊と聖家族』より
 貧乏な花にいつもおまけをしてくれる学食のおばちゃん牧野さんの顔色が良くない。かと思うと、お使いで学食にやって来た花の目の前で、貧血で倒れてしまった。何か彼女には心配事がある。そう思った花は、またしても准教授の助力を仰ぐことになってしまう。
 しかし今回ばかりは、さしもの准教授も打つ手が見つからない模様。だが真相が分からないわけではなく、解決の手段に何を選ぶのが正解かが判然としないからだ。それでも准教授は、これまでにない積極さで、自分の正解を選び出す。


 このように、「ビブリア古書堂の事件手帖」と「ヴァンダル画廊街の奇跡」のエッセンスを借りてきて作り上げたような設定に、おっちょこちょいで人情家のワトソン役をつけ、美術系ミステリー風作品に仕上げている。
 花のキャラクター造形は、あまりにもバカな設定にしすぎているような気がして疑問が残るが、准教授のキャラクターにはエキセントリックさがあって個人的には好みだ。

回る回る運命の輪回る (2) ―ビター・スイート・ビター

他人の運命に自分の行く末を見る
評価:☆☆☆☆☆
 パティシエの父親を持つ野島浩平が女の子に追いかけ回される時期がある。それはバレンタインデーの直前だ。もちろん、彼がチョコをもらえるのではなく、チョコ作りのアドバイザーとして利用されるだけなのだが。中学時代、あまりにもハードな経験をしたため、そんな扱いにうんざりしている浩平は逃げ回っていたのだが、追いかけ回していた大多数の女子は追い払われた代わりに、学校でも怖いと噂されている少女・悠木佐奈に、お菓子作りにアドバイスを頼まれてしまう。
 表情は無愛想でとても怖いけれど、話してみると真面目で一途な女の子。真剣にアドバイスを聞いてくれるので、彼もがんばってお手伝いをしてしまった。しかし、家に帰ればまた問題が…。運命を調整する秘密組織ソサエティの諜報員であるノアの幼なじみだという、ココがやってきていたのだ。彼女は運命読みという、ソサエティでも重要な役職の候補生らしい。イレギュラという、運命をねじ曲げる存在である浩平は、またもやトラブルに巻き込まれていくことになる。

 本人が気づいているかどうかはともかく、今年のバレンタインデーは、彼にとって特別なものになるはずだった。せっかく幼なじみの春野ちはるが誘ってくれたのに、その意図に気づかず、普通に悠木佐奈の告白イベントに利用しようとしてしまうのだ。これも彼がイレギュラだからだというのか?
 そしてソサエティの役割と、自身に課された才能ゆえに辛い道を選ばざるを得なくなる少女がひとり。浩平もまた、彼女と同じように、自分だけでは選べない運命に翻弄されてしまうのだろうか?卒業していく三年生たちの姿から、彼は何を学んだのだろう?

回る回る運命の輪回る 僕と新米運命工作員

運命だけじゃない
評価:☆☆☆☆★
 お菓子作りが好きな野島浩平が、たまたまボールにぶつかり、たまたま養護教諭・白鳥真奈美の巨乳を揉みしだき、たまたま早退するときの帰り道で、コンビニが爆発炎上した。それをなしたのは、年下の可愛い女の子・ノア。口封じに殺されそうになる浩平だが、なぜかちょっと先の未来が分かるようになっていて、何とか家まで帰りつくことに成功する。
 しかし、再び浩平の前に現れたノアは、自分がソサエティという運命を調整する機関の工作員であり、浩平が運命を阻害する要因であるイレギュラだと告げ、監視のために弟子入りさせて欲しいといってきた!

 両親は海外出張中で一人暮らしの身の上。いくらなんでも女の子を泊めるのはまずい。そういう浩平だったが、たまたま訪れた幼なじみの春野ちはるの強力な後押しもあり、結局、自宅に住まわせることになってしまう。
 こうして観察処分となったはずの浩平だが、なぜか以前にも増してトラブルに巻き込まれるようになり…。それは色々なことを彼にもたらすことになる。


 ほのぼのストーリーの中に、小学生時代の幼なじみとの喧嘩別れをやり直したり、運命論に抗する人間の姿を描いたり、あたたかく、そして少しだけあついものがある。
 ただ、性格と任務上、ノアが裏でこっそり動いていて、そのことを浩平は知らないため、浩平視点だけでは描けずに物足りなく感じる部分がなくもない。

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