中田明作品の書評/レビュー

バベル

みんなが好き勝手する街
評価:☆☆☆☆★
 日本連邦関東州スピアシティの地下都市は、人種と犯罪の坩堝だ。そんな街で図太く生きる少女が二人いる。もぐりの賞金首ハンター・ファイと、彼女にひっつく元ストリートチルドレンのカイだ。スピアシティに置いた古いキャンピングカーをねぐらにし、地下都市でちっぽけな賞金首たちを狩る。初めは生きるために始めた仕事だったが、今では狩りの魅力の虜になっている。
 そんな地下都市に隠然たる力を揮うのが、宗教法人《犬の家》だ。しかしここは今、二代目教祖ソン・ハミルの急死のより、跡目争いが起きていた。三代目の座を射止める寸前にいるのはジミー・マオなのだが、それを快く思わない勢力が、先代の隠し子を連れて来るというのだ。

 そして、治安局治安官リズが乗り合わせた護送車で、7人の犯罪者が脱走する事件が起きる。デリーズ・グライド、岸山直人、杉村健、フランキー・ギース、ボブ・ミゲル・ジャクソン、チョウ・チョキン、伊田英夫という、それぞれに理由のある脱走犯にかけられた賞金は、いつもよりも桁の多いものだ。いきせきこんだファイとカイは、その賞金をゲットすべく活動を始める。
 一方、《犬の家》からは幹部のトゥアンとその部下のロウが、リズは治安局地下担当の胡散臭い治安官ベンジャミンの情報を得て、脱走犯を捕まえようとする。その過程で起きる、互いの思惑が錯綜する騒動とは…?

 前作「バベル」と世界観と一部の登場人物を共通させた、若干暴力的でブラックなアクション群像劇となっている。しかし群像劇というほど群像でもなく、主人公たるファイやカイは段取りをぶち壊す役で、最初から物語を組み立てて来た裏の主役たちは、あとから来たやつらに全てをかっさらわれるという、ともすると筋立てが崩壊しそうな展開だ。だがそこをギリギリ収束させているところは、主人公の面目躍如というところだろうか。
 口絵のお尻と脚線に、異常なまでに力が入っている気がするよ?それに、髪を切るとかどんな変態プレイだい?好きだけど。


バベル

スラム街の名(迷)探偵たち
評価:☆☆☆☆☆
 財政破綻し人種のるつぼとなった日本連邦は英国の後ろ盾を求め、国宝・肺魚を英国女王を贈呈することになっていた。しかしその24時間前に、それは盗まれてしまう。一方、関東州のスラム街スピアシティを牛耳る二大マフィア、ゴールドロップファミリーとフー一家は、合併のための政略結婚を進めていた。しかしその式典の24時間前に、花嫁予定のフー・スーシャンが誘拐されてしまう。
 各々の事件を解決すべく、それぞれの立場から乗り出してくる役者たち。大野由利子と使用人の伊東春平太は友人を救うために乗り出し、治安官リズは失態を帳消しにするために、探偵ロギーは自分のプライドをかけて事件に臨む。
 それぞれの事件が絡み合い、全く関係のない様な小さな事件が手掛かりとなり、それらを積み重ねて縒り集めた結果として明らかになる真実とは?

 大きく3つの立場から事件は捜査されていくのだが、それぞれのキャラクターに特性が与えられているようだ。
 大野由利子は狂言回しとして、何の脈絡もない考えなしの行動が事件解決へのきっかけを与える。探偵ロギーはデウス・エクス・マキナの様に、情報を与えさえすればいきなりパシパシと真相に至る。治安官リズはとりあえず力技で挑んで、引っかきまわすだけ引っかきまわしておこぼれを拾うという感じだ。
 それぞれがそれぞれに魅力的なキャラクターであり、事件自体に複雑さはないかもしれないが、それぞれの視点から少しずつ解決の糸口が見つかって行く構成は、それぞれに見せ場を与えてくれる。

 ちなみにリジー・ボーデンとは、両親を斧で惨殺しながら無罪となった女性の名前でもある。この辺りがブラックコメディの所以だろうか?

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