直井章作品の書評/レビュー

桜色の春をこえて

新たな場所、新たな関係、そして未来へ
評価:☆☆☆☆★
 東北の地方都市にある私立中栄高等学校に入学した真世杏花は、引っ越したマンションの部屋が二重契約されていたため、一瞬にして住む場所を失ってしまう。不動産屋を罵って泣き崩れていた彼女を助けたのが、隣室の住人・澄多有住だ。
 引越しの挨拶に行った時も愛想が悪く、髪を染め、制服を着崩し、膝にかからないほど短くスカートをはく彼女は、去年、教師を殴ったことで停学をくらい、留年したらしい。学校見学会で知り合った切妻緑やその幼なじみの砂森歴には有住と関わらない方が良いと忠告されるのだが、杏花にはそれほど悪い人間には見えない。

 確かに、部屋を間借りさせてもらっているとはいえ、人のことをこき使うし、そのことにお礼を言いもしない。でも、どこか優しくて、妙に寂しそうに見える時もある。そんな有住には、そして実は杏花にも、家庭に複雑な事情を抱えているのだった。

 ここ一年か二年くらいに、電撃文庫に見えてくるようになった新たな傾向に連なる作品と言えよう。「アイドライジング!」の様に、女子同士の友情がテーマなのだ。そしてこちらはより現実的な女子高生で、それでいて極端な事情を抱えている。
 そんな二人が寄り集まれば、互いの傷をなめ合って生きている、という様な解釈も出来てしまうかもしれない。しかし彼女たちは、自分の境遇を、過去を受け止め、そして未来に向けて希望を持って歩み出そうとするのだ。そうして立ち向かうのに必要ならば、少しの間くらい、自分に優しくしてくれる人にすがっても良いじゃないか。

 しっとりとした青春ものなので、一部の人が期待する様な展開はない。だがこういう物語だって面白いし、やはり必要な作品だと思う。ただ、エンタメ性に欠けると見る向きもあるかもしれない。

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