長物守作品の書評/レビュー

木崎くんと呼ばないで! (3)

本音でぶつかろう
評価:☆☆☆☆★
 ネーナ・スプラウトンの同人誌制作の手伝いをこなしたタクローと私立白台学園のジャー様こと木崎湧、芳川花子だったが、文化祭の話題が出た途端、木崎湧の様子がおかしくなった。主役をタクローに譲りたいという。どんな依頼でもこなして来たジャー様らしくないセリフだ。
 やがてそれは、彼女がブラジルへ格闘技留学のために卒業を待たずに旅立とうとしているからだと判明する。大好きな木崎湧には行って欲しくないタクローだったが、周囲の大人たちにいさめられ、彼女を笑顔で見送ることが正しい選択だと心を決める。

 しかし、風峰結菜や灘宮竜斗、芳川花子は、その決断が不満だった。タクローを焚きつけ、彼に本音を吐き出させようとする。灘宮姫音をも動員し、本音を言わせるための舞台を整えるのだが…。

 シリーズ最終巻。最後はなぜかガチンコバトルになるのだが、なかなか良かった。ハーレムエンドに近いところはあるが、その過程が一風変わっている。

木崎くんと呼ばないで! (2)

過去の幻想で現在を見る
評価:☆☆☆☆★
 私立白台学園のジャー様こと助っ人専門の帰宅部である木崎湧は、行動は男気溢れるものながら、実は生粋の女の子だ。近藤先生からの依頼で動き始めたタクローの奮闘により、女の子としての自覚に目覚め始めた木崎湧ではあるが、未だ女の子らしい格好は出来ていない。
 そんなとき、十年前に引っ越した幼馴染の後輩である風峰結菜が町に戻ってくる。彼女は幼い頃に木崎湧と約束した婚約を履行するために戻ってきたのだ。そう、彼女は木崎湧を男の子だといまも思い込んでいる。

 女の子同士、服でも脱いでみせれば一発で性別は分かるのだが、幼い頃の思い出を美化する彼女の夢を無残に打ち砕くような真似は出来ない。穏便に真実を伝えるため、どこにしまったか忘れてしまった彼女との婚約指輪を取り戻すミッションを、灘宮竜斗や芳川花子、ネーナ・スプラウトンの協力を得て達成しようとする。
 しかし、不幸なアクシデントから望まぬ形で彼女に真実が伝わってしまい…というお話だ。

 十年前の幸せだった記憶にすがらざるを得ない現在を抱える少女に、せめて楽しかった思い出を綺麗なままに残してあげようと奮闘する少年少女なのだが、現実は時に残酷にその思いを打ち砕く。それを取り戻すためには、過去を上回る幸せな現在を見いだしてもらうしかないわけだ。ノスタルジーはセピア色の写真の中だけにあり、それを時折思い出すだけだからこそ価値があり、それを取り戻そうとするのは徒労に終わりかねない。
 前作の記憶が全く残っていなかったのでなぜかと思い、前作の感想を見たところ、なるほどの残念な感想を描いていたことが分かった。それから比べれば、今作は読みやすくなっていると思う。しかし、直接的に本来のヒロインを描けない構成にしているのは、何か悩ましい。

木崎くんと呼ばないで!

俺の友だちがこんなに可愛いわけがない
評価:☆☆☆★★
 私立白台学園には生徒たちからあこがれの視線を集める人物が3人いる。そのうちの一人が木崎湧だ。いつもジャージを着て部活の助っ人をして回り、休み時間にはプロレスごっこなどをしてたわむれる木崎湧は男子の様に扱われている。しかし、タクローは知っている。木崎湧が灘宮竜斗に恋する少女であるということを。
 クミチョー先生もとい近藤先生に頼まれ、木崎湧が女の子らしくなる協力をすることになったタクローは、幼なじみの芳川花子やオタク仲間のネーナ・スプラウトンの助けを得て、彼女を女の子らしくしようとする。だがそもそも、木崎湧自身が女子の制服を着ることすら恥ずかしがるので、簡単には進まない。

 それでは相手方から攻めてみようということで、灘宮竜斗に近づいてみたところ、姉の灘宮姫音を狙う以外の男子が近づいてくることは珍しかったらしく、友だちになることになってしまった。
 いきなり木崎湧を女の子らしくして、灘宮竜斗に告白する舞台を作ることの困難さを感じたタクローは、竜斗を湧の助っ人仲間にして、徐々に関係を深めていく策をとることにするのだった。

 第4回GA文庫大賞奨励賞受賞作品。登場人物たちの行動描写に抜けが多く、まともに文章を読むだけでは状況を理解できない部分が多い気がする。雰囲気を感じ取って、何となく読み切るしかない。そしてその構造は、俺の妹が可愛い感じの作品の本歌取りと言ってよいだろう。あくまで構造なので、ストーリー展開もその通りではないのだが。
 一応小説の形をとるならば、内容を知らない人でも読めば内容を理解できるところまで持っていくのは、最低限だろう。読後、複数の読者で見解の相違が出そうなものは、商業作品としては及第とは言い難い。

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