ナカオカガク作品の書評/レビュー

キリングシュガー

生き残ることを正当化できない兵士は死ぬしかない
評価:☆☆☆☆★
 女子高生として学校に通いながら人を殺す。いつからそうなったのかは覚えていない。記憶に飛びがあるからだ。タンゴと呼ばれる彼女にあるのは、エコー、ヴィクター、ロメオというチームのメンバーと、彼女たちに指示を出すフォックストロットという存在だけだ。自身の肉体すらも確かな存在ではない。
 なぜなら彼女は、多重現実症(MRD)を発症しているからだ。現実を妄想に変えるR型と妄想を現実に変えるI型があるその病は、現実を簡単に上書きする。どれだけ傷つこうとも、妄想する瞬間があれば、健康な肉体を取り戻すことが出来てしまう。そして彼女たちの任務は、同じくMRDを発症し、暴走している少年少女を殺すことである。

 そんなタンゴに今回下された指令は、小学生時代の幼なじみである入江泪の抹殺だ。かつては彼女をいじめから守る役を任じていたタンゴが、彼女を殺さなければならない。そんな矛盾にあって、そして認めたくない現実を知ることで、彼女の心は壊れ始める。

 生きるために仕方ないと自分を騙して仕事をする。しかしそれが、客観的に正しくないことと知らされ、トリガーを引くことに忌避感を覚える。戦場で新兵が遭遇する様な症例を、日常の世界観の中に持ち込んではみたものの、全く日常が描かれる瞬間はないので、砂漠やジャングルがビル群という形になっただけの、特に新味のない物語に感じられた。これが新しく感じられるとしたら、それは単に戦場を描く作品に馴染みがないだけではないだろうか?
 この作品はSFと銘打たれているが、病気の原因の理論づけも特になされることなく、単に結果だけを押し付けられているところから判断すれば、ファンタジーと称すべきだろう。

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