二丸修一作品の書評/レビュー

嘘つき探偵・椎名誠十郎

嘘ばかりつく関係者たち
評価:☆☆☆★★
 失踪したルームメイトの奥園美久の行方を捜してもらうため、最後の頼みの綱として千脇奏が訪れたのが、自由が丘にある椎名探偵事務所だ。そこにいたのは、恋愛詐欺師の探偵である椎名誠十郎と、とある理由で警察から探偵事務所に常勤しているエリート刑事の明神秋馬だった。
 解決料の100万円が払えないため、住み込みで彼らのお世話をすることになった千脇奏は、嘘憑き事件という、関係者が嘘ばかりついて捜査を混乱させる、奇妙な事件群の存在を知る。そして、事件に深く関係しているとみられる、奥園美久が派遣されていた会社の専務に接触するのだが…。

 嘘憑き事件を教唆していると思われる女王の影を追い、四ノ原杏樹という存在に辿り着いたとき、千脇奏が知る奥園美久の真実とは?

女の子は優しくて可愛いものだと考えていた時期が俺にもありました (3)

本物はどれだ
評価:☆☆☆★★
 幼馴染の千賀浦千湖と付き合うことになった久我原湊だが、これが本当の恋なのかよく分からない。しかし、彼女が幼いころから自分を好きだったということを知り、次第に恋かも知れないと思うようになる。
 未だに諦めきれない夏秋瞳や水島小萌、山田・アッヘンバッハ・掘須斗は、二人のデートの最中に割り込みをしたりするのだが、義妹である紫桃有栖は何もせず、ただ二人と距離を取る。そんな時、彼女の母の紫桃京子が帰国する。彼女は有栖を海外に連れて行こうとしていた。

 シリーズ最終巻。

女の子は優しくて可愛いものだと考えていた時期が俺にもありました (2)

96人デート
評価:☆☆☆★★
 希少な男子である久我原湊を巡り、女子生徒たちは積極的なアピールに動くようになっていた。個別にデートしようとする久我原湊に対し、国立四季ノ森学園生徒会長の三条常盤と御堂蘭は、彼女たちの管理下で96人の生徒と連続デートするように命じる。
 斜に構えて積極的にアプローチしようとしない元義妹である紫桃有栖に対し、幼なじみの千賀浦千湖は苛立たしい思いを隠しつつ、何とか二人をくっつけようとする。一方、久我原湊を奪いたい夏秋瞳は、二人きりになるチャンスを作り出そうとするのだった。

女の子は優しくて可愛いものだと考えていた時期が俺にもありました

ハーレム世界の苦悩
評価:☆☆☆★★
 隕石由来のウィルスにより、人類の男性の99%は死滅してしまった。それから四年が過ぎ、シェルターで隔離されていた僅かな生き残りの男性は、ようやく地上に戻ることが出来るようになった。
 生き残りの中でもさらに希少な男子高校生である久我原湊は、シェルターで唯一の同い年だった同性愛者の山田・アッヘンバッハ・掘須斗と共に、国立四季ノ森学園に編入することになる。そこで待ち受けているのは、希少な若い男性を狙う女子高生たちだ。ウィルスは男性を死滅させると同時に、女性の身体能力を格段にアップさせていたのだ。

 しかし、ルールにより、男性を得るために見苦しい真似をすることは許されていない。そこで女子高生たちは互いに牽制しあい、好機を待つスタンスなのだが、数少ない例外がいた。それは、久我原湊の元義妹である紫桃有栖と、幼なじみの千賀浦千湖だった。それに危機を抱いた肉食系女子高生の夏秋瞳は、わがままボディを使った誘惑に出る。
 そんな状況を、秩序を好む生徒会長の三条常磐は見逃しはしなかった。

 同じく男性が死滅した世界ものだと「忘却の軍神と装甲戦姫」(鏡銀鉢)などがあるが、こちらは女性よりも男性が強いと示すライトノベルで、こちらの作品とはその点が違う。
 作者だけに、もうちょっと能力を利用した駆け引きがメインになるかと思ったが、意外にそうはならなかった。

ギフテッド (2)

選挙を操作しろ!
評価:☆☆☆☆☆
 国家テシミネを建国するに至った巨大企業の天使峰コーポレーション幹部登用試験に、光明寺綾芽は上級主査として、加納弥助は中級幹部補一種として、黒田枝流夢は下級幹部補三種として合格した。可能な限り早く、トップである七賢人にのし上がりたい綾芽は、チャレンジシステムという昇進システムを利用する。
 七賢人のひとり三里信一郎に心酔する下級課長の山県美恵子から提示された試験の内容は、オリハルコン鉱山を保有するナバサ共和国大統領選挙に勝利することだ。天使峰と契約していた大統領が急死してしまったため、その影響力の維持が重要なのだ。

 綾芽の呼ばれた弥助と、彼についていくことを決めている枝流夢は、瀕死の患者でもある上級係長ケネスと補佐役の上級主査ヤン、そして反天使峰企業連合「イデア」の長良喜平を抑え、選んだ候補を当選させなければならない。
 前大統領の息子であるピエト・ホラント・ジュニアは政治理想も高いがプライドも高く人望がない。アフマド・アリフィンは資金力は豊富だが売国奴とも言える人物。そして将軍ヴィム・パウルスは潔癖だが柔軟さがない。

 天使峰の利益と自分の思想信条、そしてナバサ国民のこと、それぞれのどれを優先して候補を選び、どんな選挙戦略で挑むのか。綾芽がそれを検討する間、弥助は枝流夢と共に国の困窮する現状を知り、彼らに自活のための援助をする。
 そんな中で、弟妹のために幼くも働くアイシャと知り合い、行き倒れている武士風の男の北方捨丸と知り合ったりもするのだが…。

 基本的には、綾芽が昇進にチャレンジする話なのだが、その手伝いをする弥助にスポットが当たる場面が多い。三里信一郎が綾芽に目を付け、七賢人のひとり石刀昴が弥助を気にかける中、未だ幹部としての経験が足りない二人は、自分の至らない点と、幹部として何が求められているのかを、実戦の中で学んでいく。
 弥助を巡って小学生の少女二人がさや当てを繰り広げるなど、ラブコメ要素としてはロリ気味だが、この作品の中心は権謀術数とその中で繰り広げられる人間ドラマにあると思う。

ギフテッド

才ある者が競い合う
評価:☆☆☆☆★
 世界に絶大な影響力を誇る天使峰コーポレーション。それはついに国家テシミネを誕生させるに至り、世界の主要七地域にその飛び地となる領土を持っている。その中では、彼らの論理で法律が作られる。
 その幹部登用の方式は特殊だ。年齢・人種・性別などあらゆる制限を設けず、幹部試験に合格した者のみが幹部になる資格を持つ。その試験に挑むのは、高校生の加納弥助だ。そして予備試験を突破した幹部候補生たちは、愛知にあるテシミネの領土に集められ、試験内容が告げられない試験にかけられることとなる。

 同じ試験を受けることになった高校の後輩の光明寺綾芽や、彼に懐いてくる小学生の黒田枝流夢、金髪に黒の特攻服姿の伊勢七彦、官僚あがりの一宮忠志や、学究肌の枇杷島清美、オタクの本郷正信らと時に仲間になり、時に疑いながら、彼らの命を何とも思っていない様に振る舞う教官・金山武蔵の圧政に耐えつつ、本来の目的に向かって邁進していく。

 最近の電撃文庫の作品で言うと「ライアー・ライセンス」の様な、ちょっとダークっぽい、暴力あり陰謀含みの心理戦を描いた作品だろう。才能を持った人間を集め、彼らにその能力を持って競わせ、さらなる優秀な人物を選び出すという蠱毒の様なゲーム。そしてそのゲームを抜け出せば、現実という、それよりももっと何でもアリな世界が広がっている。
 設定的には色々と出来るし、駆け引きの様子を描くのはとても面白いと思うのだが、ちょっと独りよがりチックなところがあって、読者を置き去りにしている部分も見受けられる。陰謀や駆け引きは、現実では伝わらないからこそ成功するのだが、物語では読者に伝わらなければその感動がない。この矛盾を乗り越えて、次巻も面白い物語を期待したい。

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