野村美月作品の書評/レビュー

“藤壺" ヒカルが地球にいたころ……(10)

想いの結末
評価:☆☆☆★★
 花里みちるに若木紫織子が拉致されてしまい、赤城是光は地道な捜査を斎賀朝衣、左乙女葵、右楯月夜子、頭条俊吾らに託し、唯一の手がかりである帝門藤乃のもとへと向かう。彼女と帝門ヒカルとの間にあった想いとは何なのか。
 そして、赤城是光を巡る恋の戦いは、式部帆夏、奏井夕雨、あるいは大穴で帝一朱、いずれが勝利するのか?シリーズ最終巻。

ドレスな僕がやんごとなき方々の家庭教師様な件 (5)

相手をよく知ろう
評価:☆☆☆★★
 決まった相手としか接しない王家の子供たちに対し、グリンダ=ドイルに扮するシャーロック=ドイルは課題を出す。それは、パートナーを組んで相手の喜ぶことをしてあげ、それをレポートとして提出するというものだ。
 第二王女の更紗=ロウィーネ&第二王子の真=クリフト、第一王女の聖羅=シルヴィーン&第三王女の織絵=リベルタ、第一王子の竜樹=ハーン=ハイツ&騎士ギルマーという組み合わせで互いに相手の喜ぶことをしなければならないのだが、それぞれ対極の性格の人物がパートナーであるため、それぞれ騒動が巻き起こる。

“六条” ヒカルが地球にいたころ・・・・・・(9)

残された少女らにかけられる呪い
評価:☆☆☆☆☆
 左乙女葵と式部帆夏から同時に告白された赤城是光のもとに届いたメールは、オーストラリアに旅立った奏井夕雨から届いたものだった。初恋の彼女が一時帰国をするという連絡に、赤城是光はどうすれば良いのか悩む。こんなときに帝門ヒカルは何のアドバイスもしてくれない。
 張りつめた空気が漂う中、ヒカルに関係した女性たちに断罪のメールが届き始める。それぞれが疑心暗鬼に陥りそうになる中、奏井夕雨が帰国する。赤城是光たちは知る由もないことだが、その帰国にはヒカルの異母兄である帝一朱が関わっていた。

 頭条俊吾に若木紫織子が大切にしていた猫のこるりが寝取られたり、斎賀朝衣が爆弾発言をしたりする。そして物語は新たな展開を生み、次の最終巻に向かっていく。

ドレスな僕がやんごとなき方々の家庭教師様な件 (4)

やってきた婚約者
評価:☆☆☆☆☆
 ウィストリア皇国が誇る天才グリンダ=ドイルの身代わりとして女装し、エーレン国王シザエルと王妃の雪の子どもたちである第一王子の竜樹=ハーン=ハイツ、第一王女の聖羅=シルヴィーン、第二王女の更紗=ロウィーネ、第三王女の織絵=リベルタ、第二王子の真=クリフト、第四王女の鈴七=フィリスの家庭教師となった凡人シャーロック=ドイルは、騎士のギルマーや竜樹から女性として思いを寄せられてしまい、腐メイドのアニスや聖羅からは男性として好かれてしまう。
 そんなシャールを、オーランド国王の姪であるミンティア姫とお付きのイリー=タイラスが襲う。竜樹の婚約者候補としてエーレンを訪れたミンティア姫のお付きのイリーは、竜樹の思い人と評判のシャールに対して辛く当たる。一方、ギルマーの婚約者として父のガストン長官が連れてきたのは、ポーラローズ姫という9歳の幼女だった。

 シャールを取り巻く新たな人間関係に、放っておかれ気味の聖羅は寂しさで腕をギュッとする。果たしてシャールは彼女たちの家庭教師として問題を解決することができるのか?

“花散里" ヒカルが地球にいたころ……(8)

置き去りにされた約束
評価:☆☆☆☆☆
 帝門ヒカルと義母の帝門藤乃の不義を巡る騒動を経て斎賀朝衣の密かな信頼を勝ち取った赤城是光は、それに気づくこともなく、文化祭の季節を迎えていた。
 級長の花里みちるの推薦で文化祭委員にされてしまった赤城是光は、日舞部部長の右楯月夜子の思いつきによる、左乙女葵や式部帆夏にナースコスプレをさせるイベントや、斎賀朝衣から命じられた特別警護班にも関わることになり、初めててんてこ舞いの文化祭を送ることになってしまう。

 しかし、赤髪ヤンキーと恐れられる赤城是光に協力してくれる人はいない。声をかけても恐れて逃げられるばかりで、頼りになるはずの式部帆夏も合コンに助っ人に忙しく逃げられてしまう。残された花里みちると共に奮闘する赤城是光に、手紙でアドバイスをくれる謎の人物が現れるのだった。

 一人思い悩んでこじらせる式部帆夏や左乙女葵、分かりにくくツンデレる斎賀朝衣、ちょっとヤンデレ気味る花里みちる、焦ってアピールしようとする若木紫織子など、赤城是光の頭を悩ませる種は尽きない。
 そして、海外に退避しているはずの帝一朱も何やら陰謀をたくましくしているようで…。

“空蝉" ヒカルが地球にいたころ……(7)

母と子それぞれ
評価:☆☆☆☆☆
 帝門ヒカルの最愛の女性にして義母でもある帝門藤乃の真意を直接知るべく、斎賀朝衣を押しとどめ、日曜礼拝へと出かけた赤城是光は、教会の手伝いをする妊婦の蝉ヶ谷空と出会う。彼女を見た帝門ヒカルは、彼女のお腹の中の子供の父親が自分だと主張するのだった。
 一人で子供を産もうとする蝉ヶ谷空を助けるべく日参する赤城是光の姿を見て、子の父親がヒカルだと察した斎賀朝衣や右楯月夜子、左乙女葵はそれぞれらしい行動を取り、是光が父親だと誤解した式部帆夏や花里みちる、頭条俊吾は騒がしく動き回る。

 蝉ヶ谷空の子供を愛する様を見て、母親の言動を思い出す赤城是光は、母親と空を同一視しはじめ、混乱をしていく。そんな彼に対し、近江ひいなは自分の秘密を打ち明け、彼に意識の変革を迫るのだった。
 一方、空のことをかぎつけた帝門一朱は、どんな行動を取るのか?

ドレスな僕がやんごとなき方々の家庭教師様な件 (3)

名探偵シャール
評価:☆☆☆☆★
 ウィストリア皇国が誇る天才グリンダ=ドイルの身代わりとして、エーレン国王シザエルと王妃の雪の子供たち、第一王子の竜樹=ハーン=ハイツ、第一王女の聖羅=シルヴィーン、第二王女の更紗=ロウィーネ、第三王女の織絵=リベルタ、第二王子の真=クリフト、第四王女の鈴七=フィリスの家庭教師となった、不出来な弟のシャーロック=ドイルは、女装した姿では騎士のギルマーや竜樹に好意を寄せられ、シャールとしては聖羅や腐メイドのアニスに愛されていた。

 ドキドキの日常を過ごすシャールに、またもや難題が降りかかってくる。アニスに、オーランド王国からの贈り物であるディック=フィルモーニ卿の像を盗んだ疑いがかかったのだ。普段から、筋肉モリモリの像で妄想にふけっていたアニスには、続々と不利な証言が集まり、オーランド寄りのガストン長官により投獄されることになってしまう。
 外交官のヘルムートはバカンスで不在の中、アニスを助けるために名探偵役を引き受けることになったシャールだが、全く解決の当てはなかった。アニスを無事に牢獄から助け出すことができるのか?

“朝顔" ヒカルが地球にいたころ……(6)

朝露の行方
評価:☆☆☆☆☆
 右楯月夜子と斎賀朝衣の話を立ち聞きしてしまった左乙女葵は、ショックを受けていた。それを見る赤城是光は心配するのだが、是光には弱いところを見せたくない葵は、事情を打ち明けない。
 一方、式部帆夏は、友人の花里みちるが赤城是光に恋をしたことに悩んでいた。そして、赤城是光にしばらく距離を置きたいと告げる。しかし、赤城是光にはその事情がちっとも分からず、混乱してしまう。

 帝一朱を後継としないために画策する斎賀朝衣だったが、頭条俊吾の父の頭条雅之は帝一朱支持に回り、孤軍奮闘の状態に陥っていた。起死回生の一手として、帝門家に影響力を持つ五ノ宮織女の助力を請うのだが、話は聞いてくれるものの首を縦に振ってはもらえない。
 帝門ヒカルの遺された約束を代わりに果たすために奮闘する赤城是光が応じる次の約束は、斎賀朝衣との間に交わしたものだ。嫌がる朝衣に無理矢理つきまとい、正面突破を図ろうとするのだった。

 次なる赤城是光の攻略対象は、氷の女王とでも称すべき斎賀朝衣だ。しかしそんな彼女を、帝門ヒカルは朝顔の君と称する。鉄壁に見える彼女には、優しさが隠されているというのだ。そして優しさゆえに氷結した彼女を、解かしてあげたいという。
 だが赤城是光にも悩みは多い。自分を怖がらずに話してくれるクラスメイトの式部帆夏の態度が理解不能なのだ。しかし、左乙女葵の様子がおかしいのも気になる。結局は、ヒカルのためだけで無く、自分のためにも、帝門家の跡継ぎ争いに関わっていくことになるのである。

 是光が頑張って字を書くシーンには、ちょっと泣かされてしまう。でもこれは、一定以上の年齢の人が抱く感想だろうなあ。

ドレスな僕がやんごとなき方々の家庭教師様な件 (2)

シャールが無神経すぎる
評価:☆☆☆☆☆
 ウィストリア皇国が誇る天才グリンダ=ドイルの弟のシャーロック=ドイルは、失踪した姉に代わり、エーレン国王シザエルと王妃の雪の子供たち、第一王子の竜樹=ハーン=ハイツ、第一王女の聖羅=シルヴィーン、第二王女の更紗=ロウィーネ、第三王女の織絵=リベルタ、第二王子の真=クリフト、第四王女の鈴七=フィリスの家庭教師をしなければならなくなった。本当は逃げ出したいが、外交官のヘルムートが笑顔で脅しをかけてくるので、逃げるに逃げられない。
 唯一、シャールが男であることがばれてしまった、心を閉ざし気味の聖羅と打ち解けはじめたものの、シャールが竜樹や騎士のギルマーから言い寄られていることを知ると、大層不機嫌になってしまった。さらには、夜這をかけてくるギルマーから貞操を守るため、メイドのアニスと同衾することになってしまい、ますます冷徹な眼差しで責められることになってしまう。

 そんなある日、グリンダとも知り合いだというイスマールの皇太子ハールーンが訪れ、グリンダではなくシャールを妻に迎えたいとプロポーズしてくる。それを知った竜樹やギルマーは慌てふためき、聖羅はぎゅっと目をつぶって痛みに耐えるような仕草をするのだが…。

 男なのに女装が似合いすぎて男から言い寄られてしまう件。相変わらずシャールは慌てふためいているだけで周囲を見る余裕がないのだが、聖羅やアニスがシャールと絡み始めて、前巻よりは形になって来た気がする。前巻は作者の悪癖が前面に出ていたからなあ。

“末摘花” ヒカルが地球にいたころ……(5)

画面越しに伝わる感情
評価:☆☆☆☆☆
 式部帆夏と交わした約束を守るため、赤城是光は彼女と一緒にプールに行くことになった。しかしそのスケジュールを相談しているところを若木紫織子に目撃され、暫定妹の特権を最大限に生かして甘えられてしまい、紫織子も一緒にプールに行くことになった。
 偶然、互いに新しい水着を買いに来たところを紫織子と帆夏は鉢合わせしてしまい、是光の領有権を巡って女のバトルを繰り広げることになる。帆夏も紫織子の意図するところを知り、彼女を隔離するため、級長の花里みちるの力を借りて戦いに臨むのだが…。

 一方、幽霊となった帝門ヒカルの心残りの次の相手は、本名も顔も知らないネット上だけでの付き合いだという、サフルールだ。彼女との待ち合わせの場所である喫茶店に行ったところ、ヒカルの異母兄の帝一朱に監禁されかけたところを助けてから初めて再会した左乙女葵がバイトをしており、それを保護すべく頭条俊吾と斎賀朝衣が客として監視していた。
 待ち合わせの顔も知らない相手をほったらかして葵と久しぶりの会話をすることになり、それからもこの店を舞台として、帆夏も紫織子が騒ぎを起こしたり、右楯月夜子が衆目を集める言動を取ったり、中々、本筋に入ることが出来ない。

 そんな状況の裏側では、帝門一族の今後の主導権の行方を争い、派閥の緻密な離合集散が繰り返されていた。

 相変わらず都合の良い女ポジションを受け継いだ式部帆夏が上げたり下げたり大変。是光もヒカルの言葉を反復したことでまた一人、少女を誑し込んでしまい、愛情と友情の葛藤も要素に盛り込まれてきそうだ。

“朧月夜” ヒカルが地球にいたころ……(4)

妖しい魅力の先輩
評価:☆☆☆☆☆
 幽霊となった帝門ヒカルに代わり、彼の花園にいた女性たちとの遺された約束を果たす役目を任された赤城是光は、左乙女葵、奏井夕雨、若木紫織子と、様々な背景を持つ女性たちを悲しみから救いあげて来た。その過程で、赤髪ヤンキーと敬遠されていた是光の本当の魅力を知る、式部帆夏の様な女子たちも増えて来た。
 そんな彼の前に現れたのは、ヒカルとの逢引が原因でイギリスの寄宿学校を放校されたという先輩の右楯月夜子だった。君影流という日本舞踊の名取であり、その分野では将来を嘱望されている舞手の彼女は、是光を誘惑し、助けを求めて来る。
 その場面を、左乙女葵や式部帆夏に目撃され、せっかく良い感じになって来た関係も破綻、斎賀朝衣や頭条俊吾からは二度と葵に近づくなと念押しされてしまう。それもそのはず、右楯月夜子はヒカルの異母兄の帝一朱であり、ヒカルに乗り換えたという悪評を持っていたのだ。

 またもや近江ひいなが暗躍し、引き裂かれた関係を修復しようとしているのか、新たに火種をまこうとしているのか分からない行動をとり、結果、月夜子は凍れる震える唇で、是光のそれを塞ぐことになってしまう。
 将来を嘱望され、それにふさわしい実力を持つ彼女が、何を恐れ、何を失うまいとしているのか。彼女が口にする六条の呪いとは何なのか。自宅にいる若木紫織子にも騒がれつつ、葵との関係を修復しながら、月夜子の恐れを払拭することが是光には出来るのか?

 是光の天然ジゴロ度が加速度的に上昇し、自覚のないまま様々なところに縁を結びつけていく。…刺されないでくれよ。

ドレスな僕がやんごとなき方々の家庭教師様な件

脅され女装して家庭教師!
評価:☆☆☆★★
 ウィストリア皇国のグリンダ=ドイルと言えば、世界中にその名が知れ渡った天才少女だ。地上に並ぶもの無きほど隔絶たる知と力を持つ彼女は、エーレン国王シザエルの子供たちの家庭教師として赴任することになっていた。しかしその直前に、書き置き一つおいて失踪してしまう。
 いつも彼女の気まぐれに振り回されてきた弟のシャーロック=ドイルは、今回も彼女の犠牲となってしまう。外交官のヘルムートが、彼を女装させ、グリンダとしてエーレンに送り込もうというのだ。そうして連れてこられた王宮で、第一王子の竜樹=ハーン=ハイツ、第一王女の聖羅=シルヴィーン、第二王女の更紗=ロウィーネ、第三王女の織絵=リベルタ、第二王子の真=クリフトに紹介される。

 次期王として気張る少年の竜樹、何事も冷めた目で見る少女の聖羅、いたずら好きの幼女双子の更紗と織絵、無口な真と、それぞれに個性的な子供たちに振り回されながら、しかしたぐいまれな幸運もあって、天才でもない普通の少年が、王族の家庭教師を曲がりなりにも務めていく。
 王妃の雪の歌声に癒やされ、メイドのアニスの腐女子トークに翻弄され、キザな騎士のギルマーに言い寄られ、あらゆる艱難辛苦を舐めながらも、かつてグリンダに付き合わされた経験が、頑なな聖羅の心をほどいていくことになるのだった。
 “文学少女”シリーズの前の作風のノリで展開される、コミカルなサウンド・オブ・ミュージックという感じだろうか。ただし、家庭教師は女装の少年だけど…。所々にファンタジーな裏設定も見え隠れするのだが、果たしてこれはただの愚痴なのか伏線なのか…愚痴なんだろうな。

“若紫” ヒカルが地球にいたころ……(3)

キミの人生は買い取った!
評価:☆☆☆☆☆
 学園の皇子だった帝門ヒカルの幽霊にとりつかれてしまった赤城是光は、ヒカルが思いを残した女性たちに、ヒカルの代わりに約束を果たすことになる。左乙女葵、奏井夕雨と少女たちを闇から救い出し、クラスメイトの式部帆夏には告白され、恐れられる赤髪ヤンキーだった是光の生活もかなり変化してきた。その分、斎賀朝衣や頭条俊吾に絡まれたり、近江ひいなにパパラッチされたり、嫌なことも増えたのだが…。
 そして今回、是光が相対するのが若木紫織子、小学四年生だ。ヒカルがバージンを買い取ったという彼女は、アイドル顔負けの美少女なのだが、中身は手のかかる野良猫みたいなもの。雀狩りと称してロリコン親父に美人局を仕掛け、金を巻き上げるということをしている。

 小学校のプールの更衣室に連れ込まれ、下半身を露出して小学生女子を襲おうとしている様な捏造写真を押さえられてしまった是光は、犬として紫織子の手伝いをさせられることになる。ある目的のために大金を必要とし、素直に甘えることも出来なくなった紫織子にいらつく是光は、彼女に正面からぶつかっていく。

 ヒカルの死の真相はまだ全く明かされないのだが、紫織子の境遇を是光が体験していくことで、ヒカルの家族に起きた出来事を感じ取れる構成となっている。しかし今回は、ガチのロリコン展開なので、かなり犯罪臭がするな。小学生のバージンを買うって、口実としても許されるか微妙。

“夕顔” ヒカルが地球にいたころ……(2)

カーテンに囲われた部屋に咲くあだ花
評価:☆☆☆☆☆
 学園のアイドルだった帝門ヒカルが亡くなり、その幽霊は見た目・赤髪ヤンキー、中身はお人よしの赤城是光にとりついてしまった。だが、左乙女葵とヒカルの約束を果たすのに協力し、ヒカルと親友になった是光は、結局これからもヒカルに協力することになった。
 今回、是光が引き合わされたヒカルと関係が深かった少女は、奏井夕雨。一年前に、帝門グループの中核を占める頭条家の跡取りである頭条俊吾と関わりになったばかりに、色々あってアパートの一室に引きこもってしまった少女だ。その儚げで、何色にでも染まりそうな、夕顔の様に弱そうに見えた夕雨に一目ぼれしてしまった是光は、彼女を何とか外に連れ出そうとして、拒絶されてしまう。

 彼女が引きこもりになった理由を、近江ひいなや式部帆夏から情報を得つつ、何とか正解を探り出そうとする是光だったが、今回はなぜかヒカルは本物の幽霊のように、何も言わない。
 またも生徒会長の斎賀朝衣の妨害を受けつつ、是光が明らかにする真相とは…。そして、夕雨と是光の関係やいかに?


 ヒカルが殺されたという噂が広まり、帝門グループという中にうごめく闇の存在をほのめかしつつ、是光は学園の中にいる怨霊、差別意識に潜む人の心の闇に直面することになる。
 ヒカルの代理人として行動することで、ヒカルの幽霊が見えない人々には、結果的に是光が格好良い行動を自発的に取っているようにしか見えなくなるわけで、その帰結として、是光がヒカルのあとを継ぐようなモテロードに入ることは必然と言えよう。

 しかしそもそも女性を避けて生きて来た是光が、突然複数の女性にもてるようになっても、めんどくさい事態になることは必至なわけで、色々と絡まってしまった結果の次巻でどんなことになるかは若干不安。
 不安と言えば次のタイトルは若紫。ヒロインが小学四年生というのは、是光に社会的地位失墜の危機が迫ってくるのかもしれない。

ヒカルが地球にいたころ……(1) "葵"

残された人に想いを伝える
評価:☆☆☆☆★
 本当はお人好しなんだけれど、赤髪で目つきが悪くて、周囲からは恐怖のヤンキーだと思われているから友達もいなくて、高校に入ったら友達を作るぞと意気込んでいたのに、交通事故で入院してスタートを一ヶ月も遅らせることになってしまった赤城是光は、その初日に、皇子と称されるモテモテの男、帝門ヒカルと言葉を交わす。そのときに、頼みがあるといっていたヒカルと是光が再会したのは、ヒカルの葬式の席上だった。彼はその後すぐに、亡くなってしまったのだ。
 これにて物語は一巻の終わり、とはならない。なぜならヒカルは幽霊として是光にとりつき、彼に願いをかなえて欲しいという。その願いとは、許嫁だった左乙女葵にヒカルの本当の想いを伝えること。しかし葵は、ヒカルの生前も女たらしな性格に反発し、死後はヒカルにまつわる話を聞こうともしない。それが入学前から有名になっていたヤンキーならなおのこと。葵の保護者的な位置づけである生徒会長の斎賀朝衣も、是光を葵に近づけさせようとはしない。

 誤解されたまま死にたくないというヒカルの強い思いに感じるところがあったのか、ほとんど知り合いでもなかったヒカルの幽霊に付き合い、ハプニングから知り合った式部帆夏の協力も得つつ、是光は葵にヒカルの想いを伝えようとする。
 だがその試みは難航し、是光の評判はどんどん悪くなっていく。そんなとき、報道部の近江ひいなが気になる話を是光にしてくる。それは、ヒカルが事故死ではなく殺されたというものだった。


 …是光のキャラクターが小鷹に見えて仕方がない。

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半熟作家と“文学少女”な編集者

垣間見えるのは、しあわせな空気
評価:☆☆☆☆☆
 高校生作家・雀宮快斗は井上ミウが嫌いだ。
 オレの方が天才だし売れっ子だし、あいつよりも優れているのに、いつも比較される。第2の井上ミウって、なんだ?やつらはオレの方が井上ミウより才能で劣っていると思っているんだろうが、いずれ跪かせてやる。そんな調子で編集者と対していた快斗についた5人目の編集者の名前は、天野遠子といった。

 表題作のほか、「半熟作家とスキャンダラスな淑女」「半熟作家と空騒ぎの学友達」「半熟作家とページを捲る“文学少女”」を収録した、ラストを締めくくる連作短編集だ。無事に薫風社の編集者となった天野遠子が、彼女にひとめぼれしながら、周囲の人間たちとトラブルを起こしつつ、シリーズの終着点まで突っ走る。
 シリーズのもうひとりの主役である井上心葉は直接登場しないのだけれど、天野遠子や他の人物たちの口を通して伝えられる彼の動静は、なかなかに面白い。だいぶ裏側が表に出るようになっているみたい。

 そしていつものように作品に仕掛けられているトリックだが、彼女は読者の知らない人ではありません。

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“文学少女”と恋する挿話集 (4)

これで本編のフォローはおしまい!
評価:☆☆☆☆★
 菜乃が読んだ銀河鉄道の夜のお話、遠子が在学中のエピソード、芥川一詩と美羽のその後、井上舞花中学生の初恋、琴吹ななせと臣志朗の始まりの物語など、13本の短編が収録されています。
 今回の全体の印象としては、井上心葉に対してどれほど遠子が心を配っていたか、どれほど心葉がそれに助けられたかを強調するエピソードと、美羽とななせもその後しあわせになるよという雰囲気を匂わせる話が多めだった気がする。だからこれで本編に関する言い訳は終わり、ということでしょう。

 短い話が多いので複雑さはないし、重め悲しめのエピソードも特にないので、軽く楽しくふんわりと読める感じです。今回初めて主人公となった心葉の妹の舞花もまた色々とやりそうだなあという印象もありますが、それは描かれることはなさそうです。

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“文学少女”見習いの、卒業。

さよならの儀式
評価:☆☆☆☆☆
 長編「“文学少女”見習いの、寂寞。」、掌編「ある日のななせ」、短編「“文学少女”見習いの、卒業。」を収録。

 「寂寞」は何故か井上心葉に急接近してきた有人の冬柴瞳の行動の理由を、日坂菜乃が追求して行くお話。その結果として、かつて自殺した一人の少年と、一人の先生が関係していることが分かる。モチーフは「こころ」。
 誰かにとってもただ一人の人になりたい一心で行動しただけなのに、状況が少し特殊だったせいで悲しい結果になってしまった出来事と、同じような状況を作られてもその人を信じ続けることで誤解の壁を乗り越えてしまう少女が対比されている気がする。
 これは、菜乃が別れの予兆を感じる物語でもあり、心葉にとって過去が過去となっていることを確認した物語でもある。だけど、琴吹ななせは心葉に都合よく使われちゃってる感じがするな。

 「卒業」は心葉卒業までの一ヶ月ほどを描いた作品。モチーフは「桜の園」。
 最後の思い出作りとお別れの儀式みたいなものだけれど、心葉からの最後のプレゼントは格好良い。いずれななせにも同じものをあげて欲しい。そうじゃないと、記念撮影だけで喜んでいるであろうななせが不憫な気がする。

 最後に次巻、次々巻の予告がされている。ああ、時間軸が進むんだね。

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“文学少女”と恋する挿話集 (3)

後味爽やか
評価:☆☆☆☆☆
 書き下ろしが半分以上あって、短編集の雰囲気よりも本編の後日談の雰囲気が強め。事件から7年くらい後の毬谷敬一とオペラ歌手を志す高校生新田晴音のエピソードや、出会いから10年くらい経った竹田千愛と櫻井流人を、彼女の受け持ちの生徒たちを絡めて描くエピソードが、後味を爽やかなものにしている。
 姫倉悠人が小学生になって流人をたしなめている様が、おもしろかわいい。

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“文学少女”見習いの、傷心。

動き出した時間
評価:☆☆☆☆☆
 前作と同様に日坂菜乃が関わる事件が起きるのだけれど、前作に比べると外伝としての意味合いが強くなっているかも知れない。前作は日坂菜乃を中心においた新作という印象が強かったけれど、今回は井上心葉はもちろんのこと、琴吹ななせや竹田千愛などの、本編終了後の様々な想いが語られている。

 表題作の「傷心。」は、姫倉家の別荘で催されることになった文芸部の合宿のお話。菜乃に対して全く感情を揺れさせなくなった心葉に対して、破れかぶれの特攻を仕掛ける菜乃。それに心葉はどう対応するのか。
 次の「怪物。」は、合唱部のスケットとして文化祭の劇に参加することになった文芸部。ところがその練習を妨害する事件が起き、その背後には一年前のトラブルが関係していた、というお話。

 天野遠子以外の存在に対し、笑顔という見えない壁ではじき返すことでしか応じられなくなっている心葉。心葉のことがまだ好きでたまらないのに、自分の言葉ではその心にさざ波すらもたてられない事に無力感を感じているななせ。超がつくほど不器用な生き方しか出来ない二人に、超がつくほどポジティブにしか考えられない菜乃がぶつかっていく事で、双方に少しずつ変化が生じてくる。
 とある人物が再登場したり、最後にまた爆弾が投げ込まれたり、次は菜乃自身のあり方をさらに揺るがす展開になりそう。

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“文学少女”と恋する挿話集 (2)

森ちゃんのあの行動に触れずにはいられないだろう
評価:☆☆☆☆
 琴吹ななせの側にいつもいた、森ちゃんと反町くんの初々しいエピソード集でもあるし、本編で突き放された感があるななせを支えてくれる人はちゃんといたんだよ、というお話でもある。そして、知らなくても大丈夫だけれど、知ればもっと本編の内容が深まる追加パーツでもあるだろう、そんな短編集です。
 本編で描かれる恋愛はかなり重たいものが多かったので、この本での森ちゃんと反町くんのやり取りには癒される。相手のちょっとした行動で一喜一憂しちゃって、かわいい〜みたいな。それなのに、反町くんと遠子先輩が詩集を通じて少しずつ仲良くなっていって、そして卒業式の日に反町くんに重要な役割を演じさせるという、影で本編を支えるという構成もにくい。二人にはななせも助けられたと思うし。
 小さなエピソードが積み重なって一つの流れを作り上げている気がします。

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“文学少女”見習いの、初戀。

新章開始
評価:☆☆☆☆
 外伝となっているけれど、本編の続編と言われてもそんなに違和感がない。
 そもそも外伝の定義が何かによるが、完結した物語の"中"からこぼれ落ちた話を拾うのを外伝と呼ぶならば、この作品はそれに当たらないと思う。なぜならこれは、日坂菜乃という物語の"外"の人間が、物語の中に入り込もうという企画に思えるからだ。こういった不自然な見解が生じるのは、物語が完結している、という前提に立つからなのであり、物語が未完だと思えば新たな人物が登場しただけなので、特に違和感はなくなる。だから本編の続編だと思うわけだ。

 「文学少女」の出版前、独り立ちしようと努力する心葉に一目ぼれしてしまった新たなトラブルメーカーの登場。今回は本人が事件を持ち込んできたけれど、次からはどのように事件が起きるのだろう?

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“文学少女”と恋する挿話集 (1)

みんなのアルバム
評価:☆☆☆☆☆
 心葉のいまの想いから始まって、遠子のいまの想いで終わる。二人の想いの間に綴じ込まれるのは、心葉が文芸部に落ち着くまでのストーリーと、遠子を取り巻く人々の物語。クラスメイトから見た遠子という視点が新鮮で、彼女がどのような学園生活を送っていたのかが垣間見えます。そして、幕間に挟まれるのは、本編でもちょっと触れられていた二人のイベントの数々。
 また、美羽の将来を決定づけることになったのかもしれない出来事や、本編の裏側で進行していた流人と麻貴のストーリーを収録。本編でのいきなりすぎる展開が少し補足されています。残念ながら今回登場していない、ななせの物語はシリーズ次巻に掲載されるようです。

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“文学少女”と神に臨む作家 (下)

救いのある結末
評価:☆☆☆☆☆
 上巻も含め中盤までの暗い流れを、遠子顔負けの"想像"で心葉がまとめきった。暗鬱な展開のまま終わる可能性も考えていただけに、救いの多いラストで良かったとは思う。
 シリーズのほとんどを、遠子が狂言回しとして動いていたけれど、「神に臨む作家」だけは、心葉を見えない部分だけで支え続けたななせが、その役回りを果たしていたと言えるのではないだろうか。彼女がもう一つの選択肢を与えることがなければ、心葉は最後まで決断をしないで終わったかもしれない。
 エピローグでは、シリーズの随所で張られてきた伏線が綺麗に回収されている。今回、ある意味でハッピーエンドになった結果、割を食った人も何人かいると思うので、彼らにも幸せなストーリーが訪れることを祈りたい。まあしかし、選ばれた、もしくは選んだ人間は、紆余曲折を経たとしても、最終的に行き着くべきところに行き着く、ということか。

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“文学少女”と神に臨む作家 (上)

文学少女にまつわる物語
評価:☆☆☆☆☆
 二月。遠子の卒業が近づく中、少しずつ距離を縮めていこうとする心葉とななせ。そんなある日、かつて心葉の担当編集だった人が訪ねて来る。再び井上ミウに戻るよう、促しに来たのだった。しかし、既にミウを振り切った心葉は、その誘いを断る。その夜、突然、家に押しかけてきた遠子は、なぜミウに戻ろうとしないのかと問い詰める。遠子は担当編集と知り合いだったのだ。
 徐々に明らかになる遠子と流人の家庭の事情。手段を選ばず心葉を作家に戻そうとする流人の暗躍。一度は振り切ったはずの亡霊が、天野遠子の物語として、再び心葉にからみついてくる。そんな中、ただ一人、書かなくてもいいと言ってくれるななせ。ななせの優しさに包まれた心葉を、流人はどうするのか…という感じで下巻に続きます。

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“文学少女”と月花を孕く水妖

希望の種から芽吹いた巨木
評価:☆☆☆☆★
 雨宮蛍の事件以後、姫倉麻貴の出番が少なかったのも意図的だったのではないかと思えてきた。朝倉美羽の件が落ち着くまでは、表面上の人間関係を少しでも簡潔にしようという配慮で。この作品を読んだあとでは、人間関係の線が何本か追加された気がする。
 冒頭で張った伏線を終盤で綺麗に回収しており、美しい構成だなあと思うのですが、若干美しすぎる気もする。姫倉光圀の立場で考えると、これまで描かれている情報で判断するならば、敵になるかもしれない人物に弱みを握られる可能性を与えないと思う。試験のつもりだったのかな?
 エピローグで後年の心葉の述懐がありますが、色々と思わせ振りでもあり、次の作品との関連性を匂わせるところもあります。果たしてどうなるのか楽しみです。

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“文学少女”と慟哭の巡礼者

井上ミウ物語の完結
評価:☆☆☆☆★
 井上心葉が逃げ続けていた過去の亡霊、朝倉美羽。二人の過去に何があったのか。そしてなぜ彼女は飛び降りなければならなかったのか。厳重に封印されていた謎が紐解かれます。
 これまでそれぞれが主役だった人物達(一人は情報収集担当の扱いになっていますが…)が心葉と美羽を軸として動き回り、真実を少しずつ明らかにしていきます。心葉が再び暗闇に落ち込みそうになったとき、道しるべとなる灯りを示してくれるのは、いつも通りあの人です。

 クライマックスでは、実はもう一つの軸があったことが判明するわけですが、これは少し欲張りすぎだったかも。心葉についてはともかく、もう一人については十分にフォローできていなかった気がする。
 ななせは心葉と一緒に闘ってくれるとても良い女の子だけれど、道を見失いがちな心葉を立ち上がらせることはできないことがはっきりしてしまった。何か残念だけど。

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“文学少女”と穢名の天使

天才と過去と現在と
評価:☆☆☆☆★
 シリーズ第3巻の最後の展開から、シリーズ第4巻では朝倉美羽が登場するのかと思っていましたが、今回の主人公は琴吹ななせ。ようやく物語の中心に来ることが出来ました。
 受験勉強に集中するため休部をすることにした天野遠子。暇になった井上心葉は、ななせと共に音楽室の整理をすることになる。そんなある日、ななせの友人である水戸夕歌が行方不明になる。夕歌の行方を追う二人。そして心葉は、意外な事実を知ることになる。
 過去と決別できず、ななせから目をそらし続けていた心葉も、芥川一詩との出会いや、ななせの言葉に勇気付けられ、ついにケリをつける覚悟を決めるのだが…。さて、次こそは彼女が登場するようです。

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“文学少女”と繋がれた愚者

向かい合う決意
評価:☆☆☆☆☆
 シリーズ第1巻、第2巻と、サブキャラクター達の物語を深掘りして来たが、今回は井上心葉のクラスメートである芥川一詩に焦点を当てる。
 天野遠子のオケ部への対抗心から、文化祭で劇の上演をすることになった文芸部。演目は武者小路実篤の「友情」。文芸部だけでは人数が足りないので、琴吹ななせ、竹田千愛、芥川一詩が助っ人として借り出されることになる。ところが、練習が始まると、芥川は携帯で誰かに呼び出され、抜け出していく。不審に思った心葉たちが後をつけると、事件に遭遇してしまう。
 劇中人物に己の姿を見出し、立ちすくむ芥川。そしてこれまでも渦中の人物と出会い一人傷ついてきた心葉は、今回も傷だらけになりながら、芥川と向かい合い、過去と向かい合う決心をし始める。しかし、芥川が出す独白的手紙の宛名が二転三転するとき、過去の亡霊が現れる…。
 次巻では波乱の展開になりそうな予感。

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“文学少女”と飢え渇く幽霊

物語を軽やかにする一手
評価:☆☆☆☆★
 シリーズ第1巻では太宰治の「人間失格」を念頭においた様なストーリー構成がなされていましたが、シリーズ第2巻に当たる本作品でも同様に、過去の文芸作品をオマージュしたストーリー構成になっていますね。文学少女にふさわしく、今後もこの方針で進むのでしょう。
 今回、天野遠子と井上心葉が事件に巻き込まれるきっかけは、妖怪ポストのように設置された、文芸部の恋の相談ポストに投函された、幽霊を暗示する手紙と数字の暗号。変な想像を迷走させ突っ走る遠子と、遠子と同居する櫻井流人に誘われ別ルートから事件に関わってしまう心葉。死んだはずの九條夏夜乃を名乗る雨宮蛍と、姫倉麻貴の登場を以って、事件は歪んだ人間関係を白日の下に晒す結果となる。
 設定自体はとても暗く、愛憎渦巻く物語なのだけれど、作品全体として見たときには明るく、コメディのような軽さも感じるのは、天野遠子の存在なのだろう。彼女の手にかかれば、どんな作品でも美点を見出され、輝き始める気がする。
 元になった作品を先に読んだ方がいいのかどうかには諸説あると思うが、読んだことがないのであれば、後で読んだ方が純粋にこの作品を楽しめるのではないかとボクは思う。

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“文学少女”と死にたがりの道化

文学(から構成されている)少女
評価:☆☆☆☆☆
 図書館で発見された、太宰治の「人間失格」を下敷きにしたような、作者不明の手記。事故と自殺。極めて重く暗いテーマを、前述の手記と文芸部の日常を交互に織り込みながら物語を展開している。太宰の作品がファンを引き付けるのと同じ理由で、この手記に魅入られた者がもがき、苦しむ。苦しみから解放されたときに向かう先は、地獄か、それとも日常なのか。中終盤で物語の構造が二転三転する様は、ある意味ミステリー的な要素とも言えるだろう。
 このように書くと非常に暗い話のように思えるだろうが、作品全体に漂う色調は極めて明るい。そのもっとも大きな理由は、主人公である井上心葉の文芸部の先輩である天野遠子の存在だろう。なにしろこの先輩は、物語を食べる。比喩的な意味ではなく、本当に本を主食とする妖怪!なのだ。既存の名作を食べるだけでは飽き足らず、心葉に甘い作文を書くことを強要し、一般生徒からも美味しいストーリーを収集しようとする。このはた迷惑な行動が今回の事件を呼ぶことになるわけだが…
 他にも、遠子にちょっかいを出してくる姫倉麻貴や、心葉のクラスメイトの琴吹ななせなど、今回は顔出ししただけで終わったような面々がいる。オセロに例えるならば、この作品は
盤面中央に白黒の石を4つ置いただけのような状態。今後、どこにどの色の石を置くかで、物語はどんな方向にでも進むことができるだろう。(もう完結しているようだが…)

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うさ恋。(5) 好きだ、好きだ、大好きだ~っ!!

あちらとこちらに分かれての幸せ
評価:☆☆☆★★
 真雪がかぐや姫の生まれ変わりで、過去に結ばれなかった二人が現代で結ばれることが世界を救うことにつながる。闇鳥の言う運命に従い、それぞれが新しい生き方を選択するべきなのかと悩む。しかし、本当にお別れという時、航平の選択した未来は…
 予定通りのクライマックスを迎えたということですが、どうしても、みんなが幸せになれる未来が同一時空上で見つけられなかった結果ではないか、と思ってしまいます。最終的にはみんな(キラキラ7人組-1を除く)がハッピーエンドを迎えるのですけれど、いまいち釈然としないのが不思議。
 ただ、真雪の評価は第5巻になってジャンプアップしました。これまで恋の方が圧倒的に勝っていましたけど。そういう変動をもたらした書きっぷりは素直にすごいと思います。

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うさ恋。 (4) 泣かせて、ゴメン。

封じ込められていた想いの解放
評価:☆☆☆★★
 緊張してもウサギに変身せず、ジョバンニさんを一人で撃退できるようになり、少しは逞しくなった真雪。航平の姉の海央子を弟離れさせるために、キラキラ七人組がアプローチしたり、真雪との偽装婚約をしたりしていたら、思わぬところから意外な事実が飛び出して来て、またまたひと騒動が起こってしまいます。ただでさえ、恋と真雪とで何かが起こりそうな予感がするところに、心配の種が一つ増えてしまって大変な航平。
 フォルテリーナの自称妹、ピアニッシモの活躍により、闇鳥のもくろみも徐々に暴かれて来ました。そして最後には…。再び真雪と航平の物語に戻ってくることはあるのか?いろいろ急展開のまま、次巻に続きます。

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うさ恋。 (3) オトされて、たまるか!

お姫様ほったらかしで大騒動
評価:☆☆☆★★
 またまた真雪が月に帰って修道院に入ると家出騒ぎを起こした間に、フォルテリーナが一目惚れ騒動を起こしてしまいます。おかげで家出少女はしばらく放置状態。真雪自身も、セカイという別人格が目を覚ましてしまい、主人格は心の中で嘆くばかりです。
 では、本筋から完全に逸れてしまっているかというとそうではなく、ロットバルトという昔の大魔法使いがこっそり登場してきたり、現代の状況が昔の状況と色々とリンクしてきます。でも、肝心の航平は恋とまた不思議な空気を醸し出したりして、セカイの猛烈アタックにもかかわらず、真雪との関係は脱線気味。次回は大きな転換点を迎えるらしいです。

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うさ恋。 (2) おまえ、輝いてるぜ!

普段は見せない一面
評価:☆☆☆☆★
 真雪がめそめそ泣いていたり変な王子に追いかけられたりしている間に、航平の幼馴染である恋の笑顔の裏側にスポットライトが当てられています。黒ウサギに変えられてしまった航平の前で、何も知らない恋が複雑な思いを吐露することで、これまでは単なる親友でしかなかった恋を航平が少しずつ意識するようになってしまいます。
 めそめそ泣いている場合じゃないぞ、真雪!ジークフリートたちの正体というか普段の生活も徐々に明らかになってきます。

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うさ恋。 (1) 女なんか、嫌いだーっ!

まだまだこれからの第1巻
評価:☆☆☆★★
 かぐや姫の昔から、月人と地球人が交流していた世界。とっっても恥ずかしがり屋の月人は、目立つのが嫌で月に人が住んでいることを一般人には秘密にしてもらっていました。でも、地球のことはとっても大切だから、最近の環境破壊に見て見ぬふりはできません。そこで、月のお姫様を地球に下ろすことにしました。その目的はただ一つ。地球人と恋をして、そのパワーで地球を癒すこと。ですが、お姫様が悲しむと、地球はもっと壊れていっちゃいます。
 ある日、航平くんが雨の中を歩いていると、道端に真白いきれいなウサギが倒れているのを見つけました。家に連れ帰ってお風呂に入れてあげていると、なぜか、そのウサギはかわいい女の子に。ウサギが月のお姫様、真雪だったのです。真雪に惚れられた航平は生活が一変。隣の家の人が急に引っ越したと思ったら、真雪のお付きのフォルテリーナや、金髪サラサラのイケメン軍団が来て、様々なちょっかいを出してきます。さあ、女の子が苦手な航平は、真雪と恋に落ちるのでしょうか。
 擬音や波線や記号がいっぱいで、読み進めるのは簡単です。今回は、とりあえず航平の家に真雪が落ち着くまでの物語。

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