“文学少女”と死にたがりの道化(野村美月)の書評/レビュー


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“文学少女”と死にたがりの道化

文学(から構成されている)少女
評価:☆☆☆☆☆
 図書館で発見された、太宰治の「人間失格」を下敷きにしたような、作者不明の手記。事故と自殺。極めて重く暗いテーマを、前述の手記と文芸部の日常を交互に織り込みながら物語を展開している。太宰の作品がファンを引き付けるのと同じ理由で、この手記に魅入られた者がもがき、苦しむ。苦しみから解放されたときに向かう先は、地獄か、それとも日常なのか。中終盤で物語の構造が二転三転する様は、ある意味ミステリー的な要素とも言えるだろう。
 このように書くと非常に暗い話のように思えるだろうが、作品全体に漂う色調は極めて明るい。そのもっとも大きな理由は、主人公である井上心葉の文芸部の先輩である天野遠子の存在だろう。なにしろこの先輩は、物語を食べる。比喩的な意味ではなく、本当に本を主食とする妖怪!なのだ。既存の名作を食べるだけでは飽き足らず、心葉に甘い作文を書くことを強要し、一般生徒からも美味しいストーリーを収集しようとする。このはた迷惑な行動が今回の事件を呼ぶことになるわけだが…
 他にも、遠子にちょっかいを出してくる姫倉麻貴や、心葉のクラスメイトの琴吹ななせなど、今回は顔出ししただけで終わったような面々がいる。オセロに例えるならば、この作品は
盤面中央に白黒の石を4つ置いただけのような状態。今後、どこにどの色の石を置くかで、物語はどんな方向にでも進むことができるだろう。(もう完結しているようだが…)

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