野崎まど作品の書評/レビュー

バビロン (3) ―終―

評価:☆☆☆☆☆


バビロン (2) ―死―

評価:☆☆☆☆☆


バビロン (1) ―女―

評価:☆☆☆☆☆


独創短編シリーズ (2) 野崎まど劇場(笑)

自由にやってるなと感じる一冊
評価:☆☆☆☆☆
 OLと退魔師、深窓の令嬢、ソムリエ、秘密結社、神主と破魔矢、人妻、大作家とコメ欄、徳川将軍とオーク、黄門さま、モーゼと、ここだけ聞けばおかしくもない?が、そこは意味不明なひねり方をしてあって、なかなかに楽しめる短編集。長編とは趣が違うところが良い。
 ボツネタで編集者が遊んだり、かなり自由にやってるなと感じる一冊だ。

なにかのご縁 (2) ゆかりくん、碧い瞳と縁を追う

フランスとのご縁
評価:☆☆☆☆★
 縁結びの神であるうさぎさんの手伝いをすることになった、縁の見える大学生の波多野ゆかりは、大学の最高権力者である西院澄子から、ストーカーの疑いをかけられていた。春になり、出会いの季節において、兆しが現れた女子学生の後をつけ回し過ぎたためだった。
 それは笑い話として、縁結びに勤しむゆかりの前に、フランス貴族のローラン・ド・リシュリューと、じいと呼ばれるモフモフの茶色ウサギが現れる。彼らも縁結びの者だという。一流の縁結びになるため、ゆかりたちに勝負を挑むリシュリューは、様々な縁と出会っていくことになる。

ファンタジスタドール イヴ

深く沈めるほどに濃くなる
評価:☆☆☆☆☆
 離婚した裕福な父の下で幼少期を送った大兄太子は、大人の顔色をうかがう子供だった。しかし、ルーヴル美術館でミロのビーナスの乳房に魅せられてから、女体に対して執着を抱くようになる。
 その後、若い女中の体に興味を持ち、同級生の児童・入鹿の着替えを覗く悪習を得て後悔し、女体を振り切るように勉学に打ち込む。そして、日本の最高学府に入学した。

 研究室に所属し、笠野志太郎という悪友や中砥生美という後輩を得て、普通の学生に近づいてくる大兄太子だったが、アメリカから越智要がやって来たことで、彼が心に抱えていた執着は、初めて表出することを許される。それは、これまで他者との間に感じていた膜を打ち破る行為であり、かつ、日常から逸脱する行為でもあったのだ。
 そしてロングロウド・アンネセスやオスバルド・タチバナという仲間を得て、研究は加速していく。

know

世界を変える少女
評価:☆☆☆☆☆
 2040年に開発された《情報材》により、全ての物は情報を保持し通信出来るようになった。そして2053年には情報取得する《個人最終端通信装置》、情報処理する《脳副処理装置》、脳神経に介入する《啓示装置》からなる《電子葉》を脳に埋め込むことに成功する。人間にとって知ると言う概念は、過去に知っていた事だけでなく、現在調べることも含むようになった。

 2081年、情報庁情報官房情報総務課指定職審議官である御野・連レルは、《情報材》《電子葉》の発案者であり、彼が中学時代に参加したアルゴリズムプログラミングワークショップの期間中に師事した道終・常イチが、ネットワークの中に残した暗号に気づく。
 部下である三縞・歌ウから罵声を浴びることを承知で仕事をさぼった御野・連レルは、その暗号の指し示す場所で、14年間失踪していた道終・常イチと再会し、道終・知ルという少女を預けられる。彼女は、《電子葉》を遙かに超える処理能力を持つ《量子葉》を備えていた。

 その《量子葉》を手に入れるべく、情報通信大手アルコーンCEOの有主照・問と研究員のウミア・ブランは、情報庁の秘匿セクションに手を回し、御野・連レルと道終・知ルを襲う。その襲撃をかわしつつ、道終・知ルはネットワークでは手に入れられない情報を集め続けるのだった。そして四日後、彼女はとある人物との面会に赴く。

 全知を求める人間の欲は深い。現世における知識欲は科学で満たすにしても、常世に対するそれは未だ確立されていない。宗教的な側面から言えば、古くはダンテ「神曲」から、現代の小説でも「タナトノート―死後の世界への航行」なんていうものもあった。このいずれも、死後の世界とのつながりを“魂”という未知のものに求めたのであるが、ちょっと異なる側面からアプローチしたのが本作と言えよう。

なにかのご縁 ゆかりくん、白いうさぎと縁を見る

縁を辿って縁ができる
評価:☆☆☆☆☆
 大学自治会で総務を担当している波多野ゆかりは、ある日、不思議なひもを見つけ、その先を辿った。経験上、厄介ごとは放置しておくとより厄介になるからだ。そしてその先で、人間の言葉を話すうさぎさんと遭遇する。
 うさぎさん曰く、先ほどのひもは人と人をつなぐ縁であり、それを結んだり切ったりするのがうさぎさんの仕事であり、普通の人間には縁は見えないらしい。見えてしまうゆかりは、自分の縁を人質として、うさぎさんの仕事を手伝うことになってしまう。
 自治会総務部長にして大学の頭脳である西院澄子に甘やかされながら、ろくに仕事をしようとしないうさぎさんだったが、たまたま偶然見つける縁の兆しに反応し、縁を結んだり切ったりするのだった。

 片思いの縁、友誼の縁、死者の縁と、いくつかの形の縁が描かれる。

独創短編シリーズ 野アまど劇場

シュールな短編集
評価:☆☆☆☆☆
 不条理ギャグっぽい短編集だ。背表紙はもちろん、表紙裏にまでお話がいっぱい。シュールで何となく笑ってしまうお話が多い。

以下、収録作(コロン以下はコメント)。
・Gunfight at the Deadman city: 二次元で見る西部劇
・検死官 ゾーイ・フェニックス: 出会い潰し
・第60期王座戦五番勝負 第3局: 大盤解説ボケ
・森のおんがく団: 欲望渦巻く童話の世界
・土の声: 芸術の知ったか
・神の国: 八百万を超えた
・バスジャック: 出落ちの回収
・幻想大蒸気村奇譚: ぼんやりとごまかす
・MST48: 密室アイドル!
・魔王: こうして魔王城は崩壊する
・デザインベイベ: 徹夜明けは危険
・苛烈、ラーメン戦争: 何が売れるか分からない
・苛烈、ラーメン戦争 -企業覇道編-: もはや勢い
・西山田組若頭抗争記録: 若頭ラブコメ
・爆鷹!TKGR: 鷲には敵わない
・王妃 マリー・レグザンスカ: シェイクスピア風(笑)
・暗黒への招待: お手紙は食べない
・妖精電撃作戦: みんな読んでる?
・第二十回落雷小説大賞 選評: 編集者要注意
・ビームサーベル航海記: 後悔先に立たず
・魔法小料理屋女将 駒乃美すゞ: 大人の関係
・TP対称性の乱れ: 素人には敵わない
・ライオンガールズ: そう来るか、バッドエンド
・裏表紙〜文庫裏稼業世直し帳〜: 出るところを間違えた
・おりがみパーク: まさかの折り図なし!

2

突き崩され続ける設定
評価:☆☆☆☆☆
 井の頭芸大四年生の数多一人は、超劇団「パンドラ」の入団試験に合格した。プロデューサー不出三機彦と座付き作家の三島鋳を擁するこの劇団は、専用の稽古場と公演の度の大ヒットにより、演劇業界で揺るぎない地位を占めている。
 制作志望の阿部足馬や作家希望の振動槍子を含む新入団員15名は、試用期間の三ヶ月間で、先輩劇団員たちに見せる公演を、自分達だけの手で作り上げなければならない。

 だがここにいるのは、新人とはいえ、数十倍の競争を勝ち抜いて残った精鋭の劇団員たちだ。それぞれがそれぞれの役割を果たし、順調に準備を進めていたある日、不出三機彦に誘われて向かった先輩たちの稽古初日の見学で、彼らは洗礼を受けることになる。
 そしてそれを切り抜け、晴れて劇団員となった数多一人だったが、遅れてきた審査希望者の登場で、またもや大きな転換点を迎えることになるのだった。

 あまり事前情報があっても何なのでこれくらいで。ただ、「〈映〉アムリタ」「舞面真面とお面の女」「死なない生徒殺人事件 識別組子とさまよえる不死」「小説家の作り方」「パーフェクトフレンド」というこれまでの作品を関連づける構成になっていることは付け加えておこう。
 どこまでが当初からの構想だったのかは分からないけれど。まあ、後から並べてつなげた作品とも解釈できる内容ではある。これまでの作品が面白かったのなら、たぶんこれも面白い。また、この対偶も真であろう。

パーフェクトフレンド

一筋縄ではいかない、作者らしい展開
評価:☆☆☆☆☆
 小学四年生になった初日、4年連続学級委員(予定)の理桜は、担任に頼まれて去年から不登校だというクラスメイト・さなかの家へと出向くことになる。一緒に向かった友だちのやややと柊子、理桜の前に現れたさなかは、飛び級で博士号も持っている数学者だった!
 目の前にいるのは明らかな天才児。出会った瞬間のやり取りから負けを悟った理桜だが、4年連続学級委員(予定)の意地が、学校で学ぶことなどないというさなかに対して、学校の意義を説かせた。それは、学校は友だちを作るためにあるということ。

 友だちとは何か、何のために必要か、という問いに興味を持ったさなかは、小学校へ通学することになる。しかし、小学生の規格から外れたさなかは、理桜をからかいながら、横紙破りな行動を連発し、それまでの平穏な学級生活を慌ただしいものに変えてくれる。
 そして7月のある日、さなかは理桜に、友だちの定義と意義が分かったと説明を始める。その内容とは、驚愕の友だち方程式だった!

 さなかと理桜の会話はコメディ、INOという井の頭の七不思議的な秘密を探っていく部分は少女探偵団ぽく、人間関係の機微を描いた部分は青春ものっぽく、友だち方程式とその解法はスリラーでありファンタジーにもなる。小学生の日常にほのぼのしていたかと思うと、急転直下、心をかき乱される展開になり、そしてエンディングに至るわけだ。
 その過程はミステリーというカテゴリーにまとめられるかもしれない。しかし、唯一解が示されるわけではないので、ミステリーと言いきれはしない。でもこの起伏ある展開は面白いと言えるだろう。

小説家の作り方

小説個人授業のすえに
評価:☆☆☆☆★
 5作目の打ち合わせの帰りに、作家の物見は、デビュー以来はじめてのファンレターを編集の付白誌作子から受け取った。送り主の名は紫依代、女子大生だという。初めてのファンレター、しかも女子大生!ということにちょっぴり舞い上がった物見は、彼女に返事のメールを出してみる。
 その返信に書かれていた紫からの意外なお願いは、自分に小説の書き方を教えてほしいということ。この世で一番面白い小説のアイデアをひらめいてしまったので、それをどうしても小説にしたいのだという。

 大学時代の講座仲間で院生の茶水に付き添ってもらい向かった喫茶店にいた紫は、とてつもない美人だった。しかも、アルバイトとして小説の書き方を教えてほしいのは、お金のない物見にとっては渡りに舟ともいえる。
 その依頼を引き受け、教本に沿って小説の書き方を教えることにするのだが、この紫は見かけ通りの箱入りお嬢さまらしく、知識は豊富に持っているのだが経験が少ない。苦労して少しずつ小説の書き方実戦編を教えていくのだが…その結末は意外な方面に向かっていく。

 タイトルが小説の書き方ではなく、小説家の作り方であるというのが内容を的確に表しているといえよう。ゆえに、この本を読んでも小説が書けるようになるわけではないので、ご注意いただきたい。
 作者の作品は展開のふり幅が売りの様なところがあるが、今回は慣れてきたこともあるのか、それほどには感じなかった。ここでまた違う方向に筋を振る技を身につければ、次はまた違う展開が楽しめるかも知れない。

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死なない生徒殺人事件 識別組子とさまよえる不死

不老不死は成功者の最後の望み
評価:☆☆☆☆★
 幼稚園から高校までの一貫女子高である私立藤鳳学院に赴任した生物教師の伊藤は、同僚教師の受村から永遠の命を持つ生徒に関する噂を教えられる。そのときは一笑に付した伊藤だったが、転入生の天名珠と共に、その生徒、識別組子と出会い、明確な証拠はないものの、半ばは信じてしまう。
 しかしその翌日、絞殺され首を切られた識別組子の死体が学院内で発見される。やはり永遠の命など無いと言う事実を目の当たりにし、生徒を殺され落ち込む伊藤の前に、初めて会った時と同じ様に、"復活"した識別組子が姿を現す。彼女の永遠の命の秘密とは何なのか?そして彼女を殺した犯人は誰なのか?

 冒頭の何気ない問いが物語の本質に関わる問いだということが終盤で明らかになる構成は、面白いと思う。しかし、永遠の命に関するひとつのアイデアを出発点としている観は否めないので、そのアイデアがくだらないとか、つまらないとか思われてしまうと、それだけで全てが否定されてしまうタイプの物語だとは思う。
 天名がバカっぽいしゃべり方をする理由はよく分からないが、テンポよくストーリーは展開する。あと、本当にこんな学校があったら行きたくはない。

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舞面真面とお面の女

ひっくり返すために積み重ねる
評価:☆☆☆☆★
 曾祖父の残した遺言をひ孫たちが解こうとするお話。普通の話だなと思わせておいて、最終盤でひっくり返す構成は前作と同じだけれど、前作ほど強烈ではない。
 途中いくつか疑問に思うポイントがあると思うけれど、最後の最後で解決が与えられる。でも、こういう構成は前半のストーリーの価値が相対的に下がるから、それまで積み上げて来たものって何だったんだろう、と思う時もある気がする。これで、転換した先のストーリーが次にあるというなら、また話は別なのだけれど、そんなこともなさそうですしね。

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〈映〉アムリタ

レーンのない回転寿司
評価:☆☆☆☆☆
 本をジャンル分けする理由なんて、司書さんが図書館で並べる順番に迷わない程度の意味しかないと思うけれど、この作品をジャンル分けするのはとても難しい気がする。
 自主制作映画をつくる人たちの青春ものみたいな体裁を整えているけれど、ミステリーの様でもあり、ラブストーリーの様でもあり、ホラーの様にも見える。まあだから、ジャンル分けする理由なんてやっぱりないんだよね。物語は物語だもの。

 主人公の名前が二見遭一(ふたみあいいち)といったり、ヒロインの名前が最原最早(さいばらもはや)とか画素(かくそ)はこび、なんていう一風変わった名前なので、何となくいくつかの作品を意識させられるのは事実。主人公はツッコミ体質だし、ヒロインは意味なくボケて見せるし。でもそれは、物語を読みきらせるためのガジェットみたいなものなのだろう。
 正直言って、荒唐無稽なネタと言えなくもないと思うけれど、最後まで破綻せずにきっちりと読ませられ、着地させられてしまったのだから、やっぱり面白いのだと思う。読み初めに想定した着地点とは全く違うとしてもね。

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