望公太作品の書評/レビュー

黒き英雄の一撃無双(ワンターンキル! ) 1.受難の女騎士

最初から最強
評価:☆☆☆★★
 麻上悠里と麻上セリアの兄妹は、飲む買う打つの三拍子揃ったダメ師匠ジュリアス・ハウルゲートの紹介で、七天騎士団長の黒瓜緋蜜が理事長を務める対魔族の魔法使いを養成する聖春学園に転校した。とある信条に基づき、落ちこぼれのD級と評価されてしまった麻上悠里は、散歩に出かけた先で、黒龍に殺されそうになっているA級1位の少女、久遠院雪羽を助けてしまう。彼は既に覚醒し、この世に敵がいないほどの最強の存在に成り果てていたのだ。
 たまたま出会った魔女のルーシア・フォン・エルデ・ファーンからは告白され、無口な劣等生の辻社の秘密を暴いてしまい、魔導武装を使うことなく魔法使いを圧倒し、魔界における災禍の黒魔女と鮮血皇帝の戦いにも関わっていた無敵の強さを誇る麻上悠里は、その力を生かすこともなく、ダラダラと学園で落ちこぼれとして生きていた。その姿を見て、力を欲する久遠院雪羽は怒りを覚える。

異能バトルは日常系のなかで (4)

わたしが好きになった理由
評価:☆☆☆★★
 せっかくの異能を使うこともなく、今日も部室で盛り上がる文芸部の部員たちだったが、部長の《始原/ルートオブオリジン》高梨彩弓が、《永遠/クローズドクロック》神崎灯代、《五帝/オーバーエレメント》櫛川鳩子、《創世/ワールドクリエイト》姫木千冬らをキャラクターとしたゲームを作成して持ってくる。
 ギルティア・シン・呪雷の真名を持つ《黒焔/ダークアンドダーク》安藤寿来は、名前の入力からいじられつつ、プレイすることになるのだが、そのときに彼に去来するのは、半年前の高梨彩弓との戦いだった。

 そんな感じで半年前の回想を交えつつ、部員たちの関係を深める日常が繰り広げられます。

うちのクラスの頼りないラスボス (2)

ギャンブル勝負
評価:☆☆☆★★
 理事長である百日紅千秋楽が導入したシステムにより、私立黒宝学園の生徒には、本人の素質に関係した役が与えられている。《脇役》高橋凉希は、幼なじみの《主人公》桜神雛を持ち、《ラスボス》塔ヶ崎夜子を友人としている。
 そんな塔ヶ崎夜子の様子が最近おかしい。授業中に「おしっこ」と言ってトイレに行ったり、パジャマで登校したりするのだ。そのことを不審に思った高橋凉希が後をつけると、彼女は《代打ち》京丸銀次や《魔性の女》不二峰潤とギャンブルにのめり込んでいたのだ。

 う〜ん?なぜ急にオリジナルゲームなど持ち出してきたのだろう?「ミニッツ(乙野四方字)」みたいに売りたかったのかな?でも残念ながら、作風と緊張感は対極にあると思いますよ。

異能バトルは日常系のなかで (3)

小学校を休む理由
評価:☆☆☆★★
 《始原・ルートオブオリジン》高梨彩弓、《永遠・クローズドクロック》神崎灯代、《五帝・オーバーエレメント》櫛川鳩子、《創世・ワールドクリエイト》姫木千冬、ギルティア・シン・呪雷の真名を持つ《黒焔・ダークアンドダーク》安藤寿来は、今日も異能を無駄に使いながら、日常のゆるい部活動を満喫していた。
 そんなとき、姫木千冬が小学校を休んで高校へとやって来て、小学校まで送り届けることにした安藤寿来は、姫木千冬を甲斐甲斐しくお世話する小学生の九鬼円と遭遇する。

 安藤寿来や相模静夢と関係のある環という人物が顔見せしたり、新たな背景を描きつつ、部活動の女性を順番にヒロインにする展開第三弾が繰り広げられる。
 いろんな漫画のパロネタでお楽しみください。

うちのクラスの頼りないラスボス

キャラが全てを支配する
評価:☆☆☆☆★
 私立黒宝学園は、理事長である百日紅千秋楽の開発したシステムにより生徒のキャラ付けが決定される。《脇役》を当てられた高橋凉希の幼馴染である桜神雛は、一年生で唯一の《主人公》であり、そのキャラ付けに負けない実績を示す、持っているヤツだ。そんな凉希の前に現れた、パーカーを目深にかぶる美少女の名は塔ヶ崎夜子、学園唯一の《ラスボス》である。
 しかしこのラスボスは、あまりにも弱かった。コミュ障なため目を見て人と話すことは出来ず、何をやらせてもドジばかり。だが無謀にも彼女は、主人公である桜神雛を倒すと息巻き、凉希に仲間になるように誘ってくるのだった。

 脇役と言いつつ、周囲に主人公クラスのヒロインたちが集まってきてもてはやされる高校生が主人公の学園ラブコメだ。結果としてはハーレム系ラブコメなのだが、形式としては古き良き昭和の、一人の女性を奪い合う男性たちのバトルの性別を逆転させたバージョンと理解すれば分かりやすいかも知れない。
 特にそう意図してはいないのだろうけれど、昨今の世情を反映した学園ラブコメと言える。

異能バトルは日常系のなかで (2)

理解できなくとも側にいたい
評価:☆☆☆☆★
 半年前に突然異能に目覚めた《始原・ルートオブオリジン》高梨彩弓、《永遠・クローズドクロック》神崎灯代、《五帝・オーバーエレメント》櫛川鳩子、《創世・ワールドクリエイト》姫木千冬は、今日もギルティア・シン・呪雷の真名を持つ《黒焔・ダークアンドダーク》安藤寿来に振り回されていた。
 しかし今回は、その責任を彼だけに帰することは出来ないだろう。安藤寿来がつけた二つ名《強欲・グレイトフルラバー》を、一種の告白だと勘違いした生徒会長の工藤美玲が、安藤寿来に告白の返事をしにやって来たのだ。

 誤解を解くのは簡単だが、すぐさま解けば、部員たちの前で告白した工藤美玲の黒歴史となってしまう。部長の高梨彩弓の命令でしばらく付き合うことになったものの、仕事は出来るが私生活ではデレデレな生徒会長に嘘を突き通すことは心苦しすぎる。
 そんな様を見て、安藤寿来の幼馴染である櫛川鳩子は悩んでいた。他の部員たちは、程度の差こそあれ、彼の厨二発言にある程度ついて行くことが出来るのだが、鳩子は全く無理なのだ。そしてそれは、自分が見捨てられたという思いにつながっていく。

 そのすれ違いを利用すべく現れる霧龍・ヘルドカイザ・ルシ・ファーストの真名を持つ桐生一と、新登場した安藤寿来のオタク仲間の相模静夢は、文芸部に何をもたらすのか。

 異能バトルに寄るのか日常系に寄るのか、少なくとも軸足を決めないと、単なるどっちつかずになりかねない印象が強くなってきた。現時点では日常系寄りではあるのだが、その解決に異能を使ってしまうと、結局、日常なんて薄っぺらく、異能でどうとでも出来るものになっちゃわないかな?

僕はやっぱり気づかない (6)

ついに気づくとき
評価:☆☆☆★★
 夏休みの最後の日。神楽井もにゅ美は自分の宿題が終わっていないにもかかわらず、織野栞の誕生日を祝うサプライズイベントを企画した。会場は籠島諦の家で、栗栖・クリムゾン・紅莉亜ことクリエステリア・クリムゾン・クリードエンデ・クリストゥフーア、桔梗院柚希も参加する。
 翌日、眠ってしまったみんなを起こすために朝早く織野栞がやって来たのだが、籠島諦は気づいた。それが、篠瀬戒の知りあいである読賀衣里だということを。そしてついに、全てに気づいてしまうときがやってくる。

 シリーズ最終巻。打ち切りとかではないと思うが、6巻かけた割には予想を飛び越えることのない終わり方ではあった。

異能バトルは日常系のなかで

厨二はある意味うらやましい
評価:☆☆☆☆★
 半年前、文芸部のメンバーは、異能力に目覚めた。部長にして腐女子の高梨彩弓は事象を巻き戻す《始原・ルートオブオリジン》、隠れオタクな神崎灯代は時間を止めて活動できる《永遠・クローズドクロック》、ほわほわおっとりの櫛川鳩子は五元素を従える《五帝・オーバーエレメント》、部室に入り浸る小学生の姫木千冬は物質を生成する《創世・ワールドクリエイト》。
 女子たちはいずれも強力な異能に目覚めた中、唯一の男子にしてギルティア・シン・呪雷の真名を持つ安藤寿来は、《黒焔・ダークアンドダーク》と名付けた、ちょびっとだけ黒炎が出せるというしょぼい異能だった。

 だがそんなことにはお構いなく、彼らを荒れ狂う異能バトルの嵐が襲う…という展開にはならず、特に誰が彼らを異世界に誘いに来ることもなく、半年が過ぎ、異能をちょっと便利な小道具レベルで使いながら、いままで通りのゆるい部活動を続けていた。
 安藤寿来が厨二的な言動をすれば灯代がツッコミを入れ、彩弓が柔道空手の有段者として肉体的指導を加えつつ、鳩子の世間知らずさに癒されつつ、千冬を愛でる。

 楽しくも、自身の言動を受け入れてくれる同士がいないことを嘆いていた安藤寿来の前に、霧龍・ヘルドカイザ・ルシ・ファーストの真名を持つ桐生一が現れる。
 そして、文芸部を目の敵にする生徒会長の工藤美玲も登場し、彼らの日常は変化していく…のか?

 異能がありながら日常を送り続けるのは葉村哲「おれと一乃のゲーム同好会活動日誌」、主人公が一番しょぼい能力というところは柳実冬貴「Re: バカは世界を救えるか?」、部員構成と活動内容は平坂読「僕は友達が少ない」に似ている。

僕はやっぱり気づかない (5)

妹は魔法が使えない
評価:☆☆☆☆★
 夏休み終了の二週間前。夜遅くに籠島諦が一人暮らす家へとやって来た栗栖・クリムゾン・紅莉亜は、突然、魔法が使えなくなったと泣きだした。籠島諦は思った。中二病の露出狂も大変だ、と。鏡に入れないから家にも帰れないと言い出した栗栖に現実を見つめさせ、母親が出張で鍵もお金も失くしたという話を聞きだした籠島諦は、彼女を自宅に泊めることにした。
 だが実際、籠島諦は全く気付かないが、栗栖は異世界から来た魔法使いだ。でも彼は気づかないから、彼女と同じ異世界から来たギリエスターク・ディーファ・リクイオ・ソレルともカードゲームをする仲になり、彼の言うクリエステリア・クリムゾン・クリードエンデ・クリストゥフーアが彼の知る栗栖だということにも気づかない。

 それでも、栗栖に連れられて行った彼女の父の墓で出会った栗栖信子が、彼女の祖母であることには気づいた。しかし、栗栖は彼女に孫であるということを言いだそうともせず、籠島諦の妹ということにして欲しいと言ってくる。
 一方、籠島諦の知覚外では、世界は色々と事件が起きていた。ギリエルの探す賢者の石は、実は桔梗院柚希の式神となっている玉音の母である玉藻前の墓標、殺生石であり、それを巡って大バトルが勃発!また、織野栞は組織の仲間と渡った異世界で籠島諦の友達の篠瀬戒に出会ったり、神楽井もにゅ美も髪を切って心機一転していたりする。

 普段は何も気づかない籠島諦が、栗栖の家族を巡る事情には気づき、お互いに真実には触れようともせず、淡い触れ合いだけを続ける関係に、大胆な干渉を開始するのだ。
 そして彼の知らないところで、世界は大きな転機を迎えているらしい。何も気づかないままの彼に、一体何が出来るのか?

僕はやっぱり気づかない (4)

任務と感情のはざまで
評価:☆☆☆★★
 土御門仙三のツテで桔梗院柚希が夏の海の宿泊先を調達して来た。コンピュータ部の合宿ということにして、籠島諦や織野栞、栗栖・クリムゾン・紅莉亜、そして神楽井もにゅ美も一緒に合宿先へと向かう。
 女子陣は当然水着!みんなで楽しく浜辺で遊んだ一日目が終わったところで、奇妙なことが起きる。神楽井もにゅ美以外に、前日の記憶が無くなってしまったのだ。いや、他のメンバーは今日こそが合宿初日目だと思っている。そして世界も、今日が合宿初日だというのだ。

 ラノベの定番とも言うべきループする世界に取り込まれてしまったもにゅ美。自身の主戦場であるネットワーク世界に入ることもできなくなり、万策尽きて、籠島諦に自分が未来人であることを打ち明ける。それをあっさりと信じた籠島諦と共にループを抜け出す方法を探し始めるのだが、そこに、もにゅ美の上司だという石神井ヒヒ彦がやって来て、混乱をもたらしていく。

 いつもはヒロインたちの正体に全く気付かない籠島諦が、ループすれば前回の記憶を失うという特性があるせいか、不思議現象を現実のものとして受け入れる。それには、世界観と事件の原因に基づく、理解可能な理由があるわけだ。
 しかし、彼が不思議現象を受け入れることをこのまない人物も多い。またまた物語の最後に介入してくる篠瀬戒は、全てを台無しにして、それまで積み上げたものを何も成させず無かったことにしようとするのだが…。

 乙女の願望は、時間もせき止めてしまいます。

Happy Death Day (2) マーダラーズカーニバル

本物の捕食者は誰か?
評価:☆☆☆☆★
 人間以外アレルギー、つまり人間しか食べられない体質の殺人鬼・雛村灰奈とその恋人である不二由を名乗る少年の許に、自殺屋ヨミジと称する人物から招待状が届く。出向いた洋館にいたのは、ホストである彼と、メイドの加奈沢ゆりりと加奈沢ゆらら、そして同じく招待された5組の殺人鬼だった。
 仕事として人を殺す殺人者サイレント、快楽のために殺す殺人鬼・椋鳥アン、自分以外を人間と認めていない殺人鬼・亜桜玖類、未来の犯罪者を予知して殺す森原可鳴、互いに触れる異性を殺す百桃雄々男と百桃雌々女。彼らが集められた館で起きるのは、当然のことながら殺人だ。

 ここに登場する殺人鬼の多くは、理由をつけて人を殺す。もちろんその理由は一般的に受け入れられるものではないが、少なくとも本人にとっては行動を起こす十分な理由ではある。逆に言えば、本人が納得できる理由がなければ殺人を犯さない訳で、彼らは誰もその理由に優劣がなく、そして実は意外に制御されている存在でもある。彼らにとって衝動的な意味での殺人というのは存在しないのだ。
 その中に入る不二由は、きわめて人間的な存在だ。人間的な理由でしか行動を起こさない。そしてその牙は、彼よりも強いはずの殺人鬼にも届いてしまう。それは自然界で支配的な存在となっている人間の生き方そのものと言えるだろう。

僕はやっぱり気づかない (3)

ヒロイン個別のエピソード集
評価:☆☆☆☆★
 どんな不思議な目にあってもスルーしてしまう鈍感な主人公・籠島諦と、4人のヒロインである栗栖・クリムゾン・紅莉亜、桔梗院柚希、神楽井もにゅ美、織野栞、それぞれの日常のハプニング・エピソードを描く。
 その裏では、機関の構成員である斎条睦月や、籠島諦の友人である謎の男・篠瀬戒と彼に従う読賀衣里などが、世界の秘密を巡って暗躍する。

 魔法薬を飲んでしまって犬になった栗栖と、彼を預かることになった籠島諦の調教イベント。呪いで籠島諦から3メートル以上離れられなくなった桔梗院柚希の恥辱の時間。ガク太と入れ替わってしまった神楽井もにゅ美が手を突っ込まれそうになる体験。やはり魔法薬で子どもになってしまった織野栞のお医者さんごっこ。
 そんな特殊な状況の中で、籠島諦は普段は本人には言わない心情を吐露し、それがヒロインたちを癒す…だけど恥ずかしい目にもあう。

 主人公が何も気づかない中で、周囲だけは刻々と変化しているらしい。

僕はやっぱり気づかない (2)

蛇蝎のごとく嫌われる主人公
評価:☆☆☆★★
 安達太良高校に通う籠島諦は、何も気づかない。彼の周りには、機関の超能力者・織野栞というクラスメイトがいたり、未来から来たエージェント・神楽井もにゅ美という先輩がいたり、異世界から来た魔法使いの栗栖・クリムゾン・紅莉亜ことクリエステリア・クリムゾン・クリードエンデ・クリストゥフーア・栗栖という後輩がいたりして、彼は彼女たちの物語に巻き込まれるわけだが、どんな異常な事態もスルーしてしまう。だから彼にとって、彼女たちは普通のどこにでもいる友だちだ。それが何より心地よい。

 今回転校生としてやってくるのは、陰陽師の桔梗院柚希だ。彼女が使役する玉藻前の娘・玉音を妹として紹介したことから、籠島諦に妹とオムツプレイをする変態と誤解されてしまった彼女は、徹底的に彼のことを嫌って遠ざける。しかし彼自身、彼女の本家筋である土御門仙三に10万円を詐欺られてしまったため、自然と事態に巻き込まれることになるのだが、霊力が0の彼には妖怪大戦争も全く見えない。
 一方、突如、籠島諦の幼なじみとして登場した男・篠瀬戒は、いつも神社の参道にいて、なにやら彼の周囲の異常事態について、思わせ振りな言動を取る。なぜ、全てを華麗にスルーする籠島諦の周りでだけ、不思議な人々が集まるのか?

 前回のヒロインたちはほとんど日常パートに顔を出すだけで、今回の事件には関わってこない。彼女たちの物語とは筋が違うし、日常に幸せを感じたいのが彼女たちの願望なのだから、それはそれで良いのだろう。
 そして新たに参加したヒロインは、蛇蝎のごとく主人公のことを嫌う。何も知らない知らないで通してきた彼もようやく、彼の回りに異常なことが集中しているのに気づくのだが、そのとき、彼の前に現れるのは、何でも知っている幼なじみだった。

 本来、相手の異常な言動をスルーするということは、相手のことに全く興味を抱いていないことを表明するのに等しい行為だと思う。だが作者は、相手の言動をスルーしても相手のことを思いやってさえいればALL OKだという考えのようだ。要するに、自分で抱えきれないことならば、スルーした方が相手のためになるのだ、という思想なのだろう。個人的には全く賛同できないが。
 今回、知らないということが事件を解決する上で有利に働いたこともあった。相手の理の外にいるから、その影響を受けないという論理だ。だが知らないまま放置するするならば、相手にとって彼は、理想の夢世界の住人という枠を超えることはない気がする。生身のままで共に歩むという、時には相手の重荷になるような、しかしそれで自分の気持ちが軽くなるような、そんな体験は決して起こりえないということだ。それは何か寂しい関係なのではないだろうか?相手が本当に大切であれば大切であるほど。

Happy Death Day 自殺屋ヨミジと殺人鬼ドリアン

自殺する物語
評価:☆☆☆☆☆
 大学生の紫藤は死にたい。別に嫌なことがあったわけでも、世を儚む理由があるわけでもない。ただもう、自分はこれ以上何も足したり引いたりする必要がないほど完成したと感じたからだ。生きていれば必然的に変化をしてしまう。だから死にたい。
 そんな彼が自殺の手伝いを依頼したのが、ヨミジと名乗る自殺屋だ。彼は10万円払えば、1週間後に望み通りの死に方をさせてくれるという。彼に自殺の手伝いを依頼したシドだったが、その依頼が果たされる前に、いま世間を騒がせる快楽殺人鬼の女子高生、椋鳥アンと出会ってしまう。

 「僕はやっぱり気づかない」の作者の処女作らしい。世界を救う異能少女たちと、そのあからさまなおかしさを目の当たりにしながらも何も気づかず平凡な日常を送る少年のラブコメであるあちらの作品とは、一見すると全く異なる作品であるように見えるが、実は似通っている部分もあるのではないだろうか?

 こちらの作品にも、快楽殺人鬼や、謎の自殺屋、大評判の占い師、超能力者など、普通とは言えないキャラクターたちが多く登場する。つまり、どちらの作品にも、いわゆる世界の秘密に直結するキャラたちが主人公の側にいるというのが共通点だ。
 そして、先の作品では主人公はその秘密に全く気付かないことで、周囲の人々に日常の幸せを与える。一方こちらの作品では、自分の世界の調和を乱さないために、それらを知っても徹底的に無視する。つまり、どちらも十分な情報に接しながらも、それを自らシャットアウトし、知らないことによって、自らの世界を守ろうとしているのだ。

 言葉を選ばずに言えば、これは小さな幸せで満足しようという思想とも言える。それなのに、世界は彼らの手が及ばないほど大きいと感じているのだ。このことに、何となく日本という国の斜陽と、それを反映した人の心を感じずにはいられない。

僕はやっぱり気づかない

もうこれ、わざとなんじゃないのかな?
評価:☆☆☆☆★
 この世には正義の味方なんていない。平凡な毎日しかないけれど、それでも十分楽しめる。それが、籠島諦が持っている信念だ。そんな彼の周りには、他の人とはちょっと違った女の子たちがいる。

 クラスメイトの織野栞は、研究機関に開発された超能力者で、反逆した超能力者を倒すために戦っている、という設定の映画に参加している女の子。トリックとは思えない超能力による派手なアクションがあったり、大学サークルとは思えない大爆発も起きるけれど、本物の超能力者なんているはずがないから全部気のせい。
 後輩の栗栖・クリムゾン・紅莉亜は、怪物に寸断された僕の右手を魔法で直してくれた様な気がするけれど、それは全部僕の夢。魔法使いみたいなローブを着ているけれど、それもマンガのコスプレだろう。だって異世界から来ている魔法使いなんているはずがないから、全部気のせい。

 先輩の神楽井もにゅみは、未来からネット世界の平和を守るために来た電脳戦士で、しゃべるぬいぐるみを持っているみたいにしているけれど、ホントは腹話術で寂しさを紛らわせているかわいそうな人なんだ。
 みんな、一緒に遊んでいても、突然の腹痛や何かで急にいなくなっちゃうけれど、別に呼び出しを受けた正義の味方っていうわけじゃない。だって世界は退屈なんだから。

 そんな鈍感さが、時に憎たらしく、でも、日常から離れたヒロインたちを癒してくれる、無自覚で罪深いほど鈍感な主人公が繰り広げるラブコメです。もうこれ、わざとなんじゃないのかな?
 最近、こういう王道の裏を突く傾向が新作によく見られる気がするなあ。

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