林亮介作品の書評/レビュー

迷宮街クロニクル (4) 青空のもと 道は別れ

区切りをつける
評価:☆☆☆☆☆
 商社の主導でゴンドラを設置して未探査区域への進出を推進することになり、ゴンドラ設置工事の護衛を探索者中心に行うことになった。自分たちに脅威を与える存在が大集団で押し寄せて来れば、洞穴に住んでいる生物たちは排除しようと攻めて来る。この結果、これまではチームごとに潜って狩りをするという性質の戦いが、工事現場の拠点防衛・資材輸送経路の確保のための戦いに切り替わった。このため、特定地点に大勢の敵味方が集結し、工事が完了するまで味方も退却できず、どれだけ犠牲がでても敵が引かないため、大規模な戦争状態となってしまう。
 戦争を専門とする自衛隊は作業員の安全確保のため前線に出れない。探索者は少数の戦闘は得意だが、犠牲を前提として勝利を得る戦争は専門外だ。指揮官の優柔不断さなどの影響もあり、探索者は多くの犠牲を払うことになる。一方、人類の剣と呼ばれる超人たちにも彼らの政治的な事情などもあり、十分な力を発揮することが出来ない。状況を打開するための方策は…。

 迷宮街の探索者たちはビジネスとして洞穴に潜るので、生き残ることが前提だ。自分達が得た経験を提供する代わりに、他者にも彼らの得た経験を知識化し共有することを要求する。このため、生存技術の世代交代が非常に早い。この性質は、人類の剣という一種の武芸者の秘密主義の対極にある。
 これは、シェアウェアとファームウェアの違いみたいだなと思った。例えば、前者はLinuxで、後者はWindowsだ。後者はガチガチの特許に護られて他者が中身をうかがい知れないけれど、そこから得られる利益は独占できる。前者は多くの人が寄って集って様々な発想を加え使いやすくさせていくけれど、利益は得られない。どちらにも一長一短あって、どちらかに頼りすぎると、多様化しない生物のごとく、ウイルス一発で全滅、なんていうこともあり得る。
 結局、何事も頼れば誰かが解決してくれる、という姿勢で臨むのは危険だということで。

   bk1
   
   amazon
   

迷宮街クロニクル (3) 夜明け前に闇深く

ただ一人決断する者、誰かに背中を押してもらう者
評価:☆☆☆☆★
 ページが進んでも話がまとまりそうにないなあと思っていたら、次巻に続く。地下攻略に新展開があったり、真壁の周辺で人間関係に変動がありそうだったりするので、早く続きを出版して欲しいところ。
 相変わらず大勢の人物が登場し消えていくのだけれど、事態を動かすキーパーソンとして注目したいのは、マドンナこと野田双葉。彼女の私生活や価値観も興味深いけれど、ふらっと現れてはつぶやいて、正面衝突した立場を少し崩していく。素直にウンと言えない大人の立場みたいなものを取り払ってしまえるのは、彼女自身が固定観念に縛られていないせいなのだろうか?まあ、本当にいたら反発もいっぱい生みそうな気がするけど。
 短編として、真壁たちの体力テストのエピソードを収録。

   bk1
   
   amazon
   

迷宮街クロニクル (2) 散る花の残すもの

連続して存在する別世界
評価:☆☆☆☆★
 京都の山中に突如出現した地下洞窟。そこに生息する未確認生物、そしてそれらを狩る探索者たち。1巻で導入された非日常の世界は、わずか2カ月足らずで日常の世界になった。当たり前のように地下迷宮に潜って命を賭けた戦闘をこなし、休日には京都市内に遊びに行く。恋愛で悩む。逆説的に言えば、闘いが日常になったからこそ、地下でも自然に実力を発揮できるようになったのだろう。
 しかし地下迷宮は未知の世界。既知の知識や経験で計れないからこそ未知というのであり、それを弁えない者はいずれそれを知る時が来るという事実に変わりはない。

 全体的に言うと「承」の段階という感じ。断片的なストーリーがつなぎ合わさって物語が進行していくのは変わらないのだが、そのストーリーは“向こう側”より“こちら側”の話が多い。次の展開に向け人間関係の足腰を鍛え、物語の背景を明らかにするために力をためている感じなのだが、記述方法的に近視眼になりがちなので、特に後者についてもっと外側からの視点があっても良い気がする。
 いずれにせよ、次で完結予定らしいので、どういう所に向けて着地をするのかが楽しみ。

   bk1
   
   amazon
   

迷宮街クロニクル (1) 生還まで何マイル?

疑問は尽きないけれど、何はともあれ生き残る
評価:☆☆☆☆☆
 大地震により京都に出現した地下の洞窟、大迷宮の入口。そこから、これまで知られていなかった奇妙な生物、怪物が地上にあふれてきた。これを掃討すべく自衛隊を派遣するも、有効性に疑問がもたれたため、政府は、各地で技を磨いてきた武門の一族「人類の剣」を中核として、迷宮探索事業団を設立。一般公募による探索隊を組織した。彼らの仕事は、大迷宮の終点を目指すと共に、怪物の体組織を採取すること。死亡率14%という危険地帯に様々な事情を持つ人々が集まり、今日も非日常的な日常の戦闘が繰り広げられている…

 現代社会をベースに物語が作られているため、銃刀法もあり、探索者たちは銃器を使えない。非日常社会に日常のルールを持ち込んでしまうところが、日本的、官僚的で面白い。
 また、ボトムアップからの歴史というか、本質的な情報を持たない人々の視点で綴られているため、読者も謎を解明するというよりも、否応なく戦いの中に投入され日々生き残るために必死になっている、という視点で作品を読むことが出来る。このため、非日常的にもかかわらず、リアルを感じる要因になっていると思う。

 この作品は、真壁という元大学生による日記と、他の視点から見た同じ日の出来事を併記する形で構成されている。このため、小説形式になれた人は少し戸惑うかもしれない。また、Web連載を大幅に加筆修正したためか、前後の文章に若干の齟齬を感じるときもある。しかし、読み進めるほど、最後まで読ませる力を感じる。

   bk1
   
   amazon
   
ホーム
inserted by FC2 system