機本伸司作品の書評/レビュー

パズルの軌跡 穂瑞沙羅華の課外活動

書き方の方針転換
評価:☆☆☆★★
 映画化もされた「神様のパズル」の続編。前回は宇宙を作る話だったけれど、今回は内宇宙(=心)を改造する話。「メシアの処方箋」「僕たちの週末」も含め、技術サイドの話に終始して登場人物自身がほったらかしにされる傾向があるように感じていたが、今回は主な登場人物が綿貫と沙羅華の二人であり題材が内面の問題なので、そのあたりは比較的改善されているとは思う。途中、沙羅華が彼女のパーソナリティから考えてかなり支離滅裂な行動を取るけれど、それはきちんと理由のあることだったし。
 題材的なドキドキ感は、他の作品よりは劣るかもしれない。発想に突飛なところは感じないし、やっていることは麻薬中毒者と似たり寄ったりな気がする。でも、続編が出版されそうな設定が追加されたので、続編ではもっと良くなっていることを期待したい。

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僕たちの終末

やはり発想は面白いと思うのだけれど…
評価:☆☆☆★★
 太陽の活動活発化に伴い、生命存続に危機的な状況が予測される地球。国家プロジェクトによるシェルター計画やコロニー計画がたてられるも、確実な安全性は期待できない。そんな状況の中、小さな会社の片隅で、民間主導による地球脱出計画が相談されていた…

 この作品の大きな主題として、恒星間航行船の開発に関わる政治的・技術的な困難をどのようにして解決するかということと、社会とのつながりを絶って人間は生きられるかということがある気がする。でも、これに対する著者なりの解が呈示されているかと言うと、正直疑問だ。
 技術的課題についてはある程度の解が与えられているが、政治的課題についてはどのように回避したかが全く語られない。語られない裏側で暗躍があったことがほのめかされて数年先に物語が飛んでしまっている。社会とのつながりに関しては、神崎正がなにやら自問自答して解決したことになっているけれど、彼の人格形成に大きな影響を与えたと思われる父との関係性が物語中でほとんど語られないため、説得力に欠ける。
 前作、前々作を読んでも思ったことだが、人類とは何かという根源的な問いを投げかけているにも拘らず、技術的なことについては言及しても、人間的なことについてはほとんど言及されないのがもったいないと思う。

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神様のパズル

発想はとてもユニークだと思うが
評価:☆☆☆★★
 未熟な人間が周りに翻弄され道を見失いながらも、友人を得ることによって新しい生き方を見つける物語。この作品は最終的にそんな風に読めばよいのではないだろうか。

 新しい基礎理論に基づいたSFと見るには、肝心の新理論は知っている理論をバラバラにしてつなぎ合わせた違和感を感じる。また、何の脈絡もなく新興宗教が出てきたが、それに対する解決は何も呈示されないのはいかがなものか。
 物語の柱の一つに、宇宙が人間に作れるか否かをディベートするという部分があるが、物理の議論にディベートが適しているかどうかは疑問だ。科学の科学たるゆえんは再現性、すなわち、誰が行ったとしても、同じ条件ならば同じ事象が発生する、ということにある。ゆえに、議論するまでもなく、人間が答えを知っているかどうかは別として、命題に対する答えは既に定まっているはずだ。
 一方で、ディベートは議論によって勝敗を決定する。この勝敗は、往々にして参加者の質の高さによって決定される。図らずも作中で主人公の一人が述べているように、言い負かせば勝利を得られるのだ。これは科学的なアプローチとは呼べないだろう。

 色々と述べてしまったが、素粒子論という題材で作品が作られているのは、とても嬉しい。もし、研究者のリアルを追求しようと思うなら、もう少し実地取材をした方が良いとは思うが…。作者に対する最終判断はもう少し先延ばしにしたい。

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