範乃秋晴作品の書評/レビュー

舞妓さんと怪盗大旦那

最後の一作
評価:☆★★★★
 福井から祇園に入り、風花の引きで舞妓になれた一花は、未だ京言葉を十分使うこともできず、お座敷に出ては問題を起こしてばかり。
 そんな京都の町を騒がせるのが、警察の闇を暴く怪盗夜行だ。バカボンの本官の様に法律無視で拳銃をぶっぱなし、麻薬の横流しをして正義を気取る警察の真実を、世間に暴こうとしているのだ。

 ある日、傷を負った怪盗を助けた一花。時を同じくして、彼女をひいきにする大旦那が現れる。その青年実業家、石川総司は一花がどんなバカなことをしても、必ずお座敷にかける。
 そんな時、風花が失踪するという事件が発生する。そこには津田王司という男が関わっていた。

 女を薬漬けにしてレイプする社会のクズが大手を振って歩き、それを警察が擁護するという、あまりにもあまりな話。おそらく編集から突き放されたであろう、作者のやる気のなさが伝わってくる。

鴨川貴族邸宅の茶飯事 (3) 亡き花嫁に捧ぐ、送り火の誓い

今日も彼は気づかない
評価:☆☆☆★★
 鴨川のほとりにあるアイディールプリンス邸は、日本政府少子未婚化対策委員会が未婚女性たちのシンデレラコンプレックスを治療するために極秘裏に設立した国家執事の拠点のひとつである。国家執事見習いとなった真坂流古武術の後継者の真坂拳正は、バトラー・オブ・ザ・フォーと呼ばれる春の王子様こと花屋敷遠矢、太陽の伯爵こと海宮晴、月華の君こと朱雀院瑪瑙、氷の貴公子こと九条真から厳しい指導を受け、シンデレラコンプレックスを生み出す力を持つ「君の心臓に俺の必殺正拳突き」の作者である神楽衣麻の専属執事となり、彼女をシンデレラコンプレックスから癒す使命を帯びることになった。ただし、本人は体力馬鹿なので、あまり事態をよく理解していない。
 そんな真坂拳正に恋する、体重150kgの乙女、道長紅和が現れる。彼女は真坂拳正をデートに誘うのだが、真坂拳正はボディーガードの依頼と勘違い、更にはその現場を神楽衣麻に押さえられてしまい、混乱を助長していく。

 そして本来ならばそんな混乱を未然に防ぐのが使命の海宮晴は、亡くなった妻の面影を持つ女性、坂井有栖と、彼女の彼氏が持つ、海宮晴のマリッジリングの謎に深入りしてしまい、事態を悪化させてしまうのだった。

鴨川貴族邸宅の茶飯事 (2) 恋の花文、先斗町通二条送ル

春の王子様の恋
評価:☆☆☆★★
 鴨川のほとりにあるアイディールプリンス邸は、日本政府少子未婚化対策委員会が未婚女性たちのシンデレラコンプレックスを治療するために極秘裏に設立した国家執事の拠点のひとつである。一般人には知られていない国家執事の任務とは、シンデレラコンプレックスに陥っている未婚女性に恋をさせ、それをふることで現実に目覚めさせることだ。
 勘違いから国家執事見習いになってしまった真坂流古武術の後継者の真坂拳正は、バトラー・オブ・ザ・フォーと呼ばれる春の王子様こと花屋敷遠矢、太陽の伯爵こと海宮晴、月華の君こと朱雀院瑪瑙、氷の貴公子こと九条真の指導を受けつつ、「週刊少女ルンルン」で最新作「君の心臓に俺の必殺正拳突き」を連載する漫画家の神楽衣麻付きの執事となった。

 人気漫画家である神楽衣麻がシンデレラコンプレックスに陥っていることで、その読者である若い女性たちもシンデレラコンプレックスとなり、ひいては日本人口の減少と滅亡に繋がってしまう。ゆえに、神楽衣麻をシンデレラコンプレックスから解き放つことは、アイディールプリンス邸の国家執事にとっては、至上命題となっているのだ。
 今回の真坂拳正の使命は、神楽衣麻をデートに誘うこと。しかし案の定、勘違いからとんでもないことをやらかしてしまう。南都なりカバリーしなければ、日本は滅亡の淵に沈んでしまうのだが…。

 もう少し無理なく真坂拳正の破天荒さが描けていれば、なお良いのだけどね。

鴨川貴族邸宅の茶飯事―恋する乙女、先斗町通二条上ル

執事を目指す最強の男!
評価:☆☆☆☆★
 鴨川の上流には広大な庭園を備えた貴族邸宅があり、帰宅する数多くのお嬢様たちを、眉目秀麗な執事たちが、いつでも快く迎えてくれる。そこはアイディールプリンス邸。貴族邸宅サロンである。
 数多くの執事を抱えるアイディールプリンスにおいて、ご帰宅するお嬢様方がバトラー・オブ・ザ・フォーと自然に呼び習わす様になった、四人の執事がいる。春の王子様こと花屋敷遠矢、太陽の伯爵こと海宮晴、月華の君こと朱雀院瑪瑙、氷の貴公子こと九条真である。

 お嬢様からのどんな無理難題でもそつなくこなし、現実には存在しない理想の男性の具現のように思える彼らは、いま悩んでいた。その原因は、執事見習いの面接にやってきた一人の男、真坂拳正にある。彼は自らを真坂流古武術の後継者と名乗り、世界最強の男になるために、執事の道を究めに来たと言った。
 お嬢様からコートを預かる実技ではお嬢様からコートを奪い取って転倒させ、グラグラ煮え立つお湯で紅茶を入れる真坂拳正が、厳しいことで知られる執事試験に合格するはずもなかったのだが、なぜか彼は見習いとして採用される。それは、彼に興味を持ったお嬢様、神楽衣麻に原因があった。

 何の勘違いか、執事見習いとなった真坂拳正は、物事全てを拳で解決するかの発想で、先輩執事たちを困らせる。しかしその先輩執事たちは、お嬢様方にアプローチし、彼女たちを恋に落とすと、あっさりと振ってしまうという訳の分からない行動をとる。そこに隠された秘密とは…。

 そんなわけで、作者の他の作品と同様に、周囲と主人公のミスマッチの中から、主人公の成長を見いだしていくという作品になっている。そしてこの作品で進められるプロジェクトの背景にあるのは、現代日本に巣くう重大な病の治療だったのだ!
 恋は戦争なんていうフレーズがあるけれど、真坂拳正は本気で拳の戦いだと思って、お嬢様との恋に挑むのです。

特異領域の特異点 (2) 非科学的な神の証明

意欲ある無能の弊害
評価:☆☆☆☆★
 現在の世界を支配する、天川理璃、九十九伊月、渡瀬恭一郎、園崎重久、西条古人の5人が体系化した特異領域理論と特異領域制御装置(DCU)に異論を唱えた学生の一ノ瀬賢吾は、この理論の副産物である特異領域の特異点が、世界の内側と外側をつなぐ道であることを解き明かした。そして天川理璃の紹介で学界デビューを果たした一ノ瀬賢吾は、史上六人目となる九十九科学賞を受賞し、一躍、特異領域理論の第一人者となったのだ。
 特異領域災害により世界の外側に飛ばされた妹の一ノ瀬佳奈の意識を宿した他律型人工知能カナにDCUを移植し、世界初となる人間以外によるDCUの起動に成功した。目的のための道をまっすぐ歩みつつ、神崎清十郎や西条彩世とも交流を深めていく一ノ瀬賢吾の前に、日本大統領の鈴木正道と、先駆者の一人である園崎重久が現れる。教育の特異点と呼ばれる彼は、人類以上の知能を持つ存在を生みだそうとしていた。

 その頃、日本政府が秘密裏に進めるプロジェクトに関係する研究施設を襲う、和装の男がいた。統一宗教の正導十三聖騎士を名乗る織田幽玄は、誰にも止められない正体不明なマテリアルロウを使い、研究推進者たちを次々と神の御許に返して行く。
 一方、天川理璃のもとには、日本政府の秘密プロジェクトに関する試料が届いていた。それは、触れたものの生物的な性質を失わせる、不可思議な場を発生させていた。

 地球規模で発生する霊化汚染という特異領域災害に、過去の天才と黎明の天才が対峙する。前巻で世界観構築は済んでいるので、今巻はそれを前提とした物語構築に専念できるようになって来た様に思う。前半はヒロインとの何やらもあり、後半は世界を救うことに忙殺され、とにかく盛りだくさんだ。
 まあ何か色々と思い悩んで大変そうですが、売れている限りは商業的に正義なので、信じる道をすすめば良いかと。

特異領域の特異点 真理へ迫る七秒間

奇跡を起こす科学理論
評価:☆☆☆★★
 天川理璃、九十九伊月、渡瀬恭一郎、園崎重久、西条古人の5人が体系化した特異領域理論と、それを現実化させるための特異領域制御装置(DCU)の開発は、世界を変えた。彼らが発生させた特異領域の特異点は、この世からあらゆる困難を消し去り、無から有を生み出すことすら可能にした。その代わり、世界からは50億人の人類と大地のほとんどが消えてしまった。
 残った世界は、特異領域理論を用いて元と同じ大地を生み出し、従来の政府に代わって、特異領域理論が世界を支配することとなった。しかしそれにより、これ以上に誰も失うものはない。

 そんな世界にあって、現状を受け入れない学生が一人いた。一ノ瀬賢吾は、西条古人に逆らって無期停学をくらったものの、神崎清十郎や西条彩世を巻き込み、特異領域理論の本質に迫ろうとしていた。そんな彼の下に、天川理璃からのメッセージが届く。

 特異点というのは理論の中にあって理論が適用されない場所という意味であり、作品世界では物理法則が適用されない場所という意味である。そして特異領域理論は、現実世界にそんな特異点の連続体を出現させ、そこで物理法則を超越した現象を引き起こす理論だ。
 しかし、ある部分だけを見ていれば、何の問題も内容に見える世界でも、それは問題を外側に押しやって、何も無い様に見せているだけなのかもしれない。まるでゴミを押入れに隠すかのように。

 ちょっと設定寄りに偏りすぎて、ストーリー性はイマイチかもしれない。設定の傾向で言うと、鎌池和馬「ヘヴィーオブジェクト」「とある魔術の禁書目録」に似ている気がする。

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