菱田愛日作品の書評/レビュー

TOKYO GIRL’S LIFE (2) 絶対に後悔しない夢の諦めかた

見失ったやめ時
評価:☆☆☆☆★
 雑誌編集をしている市川遥希は、自身が暮らすマンションにあるバー「シュガー&ソルト」で、愛され系女子の双葉舞衣と天然系女子の三谷佳奈子と友達になった。
 バーの店長の横坂彰に失恋した双葉舞衣が、恋をふっ切るために「シュガー&ソルト」での合コンを提案する。双葉舞衣に好意を寄せるバーテンダーの後藤哲が気が気じゃない気分で見つめる中、仕方なく参加したはずの遥希は飯塚と話題が会い、佳奈子は志手の会社が主催するオーディションに途中参加させてもらえることになる。

 もともと、中学時代の市川遥希の演奏にあこがれ、アルトサックス奏者としてプロを目指す道を歩み始めた三谷佳奈子だったが、24歳になる今でもプロへの道は開けない。そんな彼女に、志手の提案は降ってわいたようなチャンスだった。
 ところがそのオーディションは、純粋に演奏の腕を競うものではなく、容姿が優れていることが前提条件のものだった。そのことに釈然としないものを感じつつ、順調に選考を突破していく自分に不安を抱いていく。

TOKYO GIRL’S LIFE―絶対に失恋しない唯一の方法

ちょっと不思議でいびつな友情
評価:☆☆☆☆☆
 市川遥希は中堅出版社で雑誌編集部のデスクを務めている26歳の女性。後輩の百山美佳などからは、勝手に有能な先輩と憧れ祭り上げられ、スペシャルな彼氏がいると噂されたりしているが、実際は仕事に手一杯で、プライベートが充実しているとはお世辞にも言えない。唯一、住んでいるマンションに入っているバー「シュガー&ソルト」に通うのが息抜きの、働く女性だ。
 そんな行きつけのバーの平穏を乱す闖入者がやってくる。女は男から愛されてナンボ、仕事は出来るやつに押しつければ良いくらいに考えている、愛され系の双葉舞衣が、バーの店長を狙って通う様になったのだ。

 将を射んと欲すればまず馬を射よとばかりに、バーテンダーの後藤哲や遥希に気に入られようと好意を振りまいてくるのだが、遥希にはその馴れ馴れしい距離感が居心地悪い。加えて、中学時代の後輩の三谷佳奈子が、当時の遥希に対する憧れをそのままに、偶然、バーにバイトとしてやってきたことで、都会のバーに女性たちの奇妙な人間関係の花が開くこととなる。

 等身大の女性という視点で、恋を忘れて仕事に励む女性、愛されるために全てを注ぎ込む女性、夢を引きずって諦めきれない女性の間に生まれる、ちょっと不思議でいびつな友情を描いている。
 忙しさにかまけて恋を忘れていた女性が、仕事中の出会いがきっかけで恋を思い出すのだが、実はそれが落とし穴で、新たに生まれた友情のおかげで失敗せずに済むという構成。まあ失敗したらそれはそれで、妙な深みも生まれていたかも知れないけれど、つまづかずに済むならそれも良い。

 今回は三谷佳奈子サイドのストーリーにまで手が及ばなかったので、続編があればそちらがメインになるんじゃなかろうか。

夜のちょうちょと同居計画! (3)

どっちも大事だから
評価:☆☆☆☆★
 宮ヶ瀬瑠花の高飛車な態度を軟化させ、二風谷真琴の過去の影を払拭させ、キャバクラのボーイとして少しずつ自分の立ち位置を築きあげて来た気がする黒部奈斗だったが、年頃の女の子の世話をするというのは、そんなにきれいに割り切れることばかりでもなかった。
 黒部組で一番の大人キャラである畑薙彩香に彼氏疑惑が発覚。一応、相手がスタッフでなければ恋愛も問題ないのだが、やっぱりキャバ嬢という性質上、彼氏がいるというのはマイナス要素になることもある。とにかく彩香の意志を尊重しようという決意を固めたとき、実際のところを確かめようと、瑠花が彩香を尾行する計画を提案してくる。つまり、奈斗とデートの体で尾行しようというのだ。

 そうこうするうち、瑠花の常連客である滝沢さんから、瑠花に同伴のお誘いがかかってくる。そして、間もなくやってくる瑠花のお祝いを一緒にしようという提案も…。それを聞く奈斗は、立場上、瑠花の初同伴を喜ぶのだが、その胸の内では複雑な思いが渦巻いていた。

 学生たちが様々な職業をロールプレイする自立都市において、キャバクラの仕事を割り振られた少年少女たちの努力と葛藤を描く物語だ。これまでの流れからいって、当然、彩香のエピソードがメインなのだろうと思ったのに、それは半分ほどで、もう半分は瑠花と奈斗の関係をどうもっていくかというストーリーになっている。
 今回はキャバ嬢という仕事というよりも、プライベートと仕事の切り分けをどうするかというお話になっていた気がする。その意味では、もう少しキャバクラの業界エピソードを突っ込んで欲しかった。

夜のちょうちょと同居計画! (2)

頼りたい時もある、頼って欲しい時もある
評価:☆☆☆☆☆
 大人っぽい畑薙彩香、ニコニコだけどちょっと黒い二風谷真琴、美人だけどプライドが高い宮ヶ瀬瑠花という3人の同級生をキャストとするキャバクラの担当ボーイに黒部奈斗は割り当てられてしまった。ここは学生が社会をロールプレイする自立都市。その割当を拒否すれば生きてはいけない。
 初めてのキャバ嬢という職業をそつなくこなす真琴に対し、プライドが高い瑠花は、自分が至らないと言うことを自覚しつつも、妙に真琴に張り合ってしまい、大人な彩香はそれを分かっている風に見てフォローする。そんな3人の女の子中に男一人で叩き込まれて、奈斗は右往左往する毎日だ。そんな日々を何とか乗り切れているのは教育係の洋司先輩や美咲子先輩のおかげも大きい。

 しかしようやくキャバクラの仕事にも慣れてきて、何とか前を向いて進めそうになった頃、グループ内での新人対抗戦が開催されることになる。その本命は、渋谷店のボーイ、相木陸玖が擁するギャル系キャバ嬢たち。しかも相木は、明らかに自分に比べてボーイに向いているように奈斗には思える。
 予選を真琴の独走に頼る作戦で突破し、本選をみんなで戦うことになったのだが、渋谷のキャバ嬢の一言から、せっかくみんなで行った遊園地で生まれた結束みたいなものが、ガラガラと崩れ落ちていってしまう。

 1巻は宮ヶ瀬瑠花がキャバ嬢という職業に向き合い前を向いていくと共に、彼女にそうすることで奈斗自身がボーイの仕事の価値に気づいていくお話だったわけだが、今回は、誰よりもトップに近く慣れていると思っていた二風谷真琴の弱さが表に出てきてしまうお話。
 どんなに仕事ができるように見えても、やっぱり同じ15歳。しかも仕事ができると言うことは、どこかでそういう経験を積んで来た可能性が高いわけで、それでも自立都市にいるということは、そこで何かがあったということでもある。

 しかし、ようやく精神年齢の低い瑠花の相手が出来るようになったばかりの奈斗では、完璧スマイルを崩さない真琴の本心を知り、そしてその支えになるような役割を演じるということは難しい。
 だが、若いということは、可能性にあふれていると言うことでもある。昨日できなかったことが、今日もできないとは限らない。今日できなかったことが、明日も無理ということはない。そしてそれを成し遂げるには、自分の足りないことを知り、どうしようかを必死に考え、最後まであきらめない事が重要なのだ。これはそんなお話。

夜のちょうちょと同居計画!

いまをときめくキャバ嬢になれ!
評価:☆☆☆☆☆
 大規模な金融危機の影響で世界トップクラスの経済大国の地位から滑り落ちてしまった日本は、再起を図る新たな経済モデルを模索するため、大規模な社会実験を行っていた。それが自立都市。
 外部との一切の流通を遮断し、内部で全ての生産・流通・消費を行い、その過程を分析する実験。その担い手は、15歳〜22歳までの学生たち。毎年、1万人ずつ入れ替わりが行われる都市では、大学までの学業を保証する代わりに、学生たちは一人一つの職業に従事しなければならない。

 黒部奈斗が割り当てられたのは、キャバクラのボーイ。クラスメイトで高飛車お嬢様の宮ヶ瀬瑠花はキャバ嬢として、同じ店に勤務することになった。しかも、同期のキャバ嬢、二風谷真琴と畑薙彩香と共に、チームを組まされた4人は、同じ家で共同生活を申しつけられるのだった。

 ところがこのチームを取りまとめるのは、なかなか大変。瑠花はわがままでサービス業の対極に位置する性格だし、そのわがままさを嫌う真琴とは一触即発の状態。彩香はそれを少し離れた所から見つつ、適度にフォローを入れてくれるのだけれど、やはり彼女にも何かありそう。それを何とか管理するのが、新人ボーイの奈斗の仕事なのです。

 設定の割には現時点で都市部の生活しか見えないので、設定の甘さを感じなくもないのだけれど、それを置けば、サービス業中のサービス業であるキャバクラを舞台にしているのは面白い。まあ、あえて学生をキャバ嬢にした理由はいまいち分からないけれど、電撃文庫で書く上には必須なのでしょう。
 こういった方向性の作品には「都立水商」という先達がいるので、それとはあまりかぶらない方向で物語が進むと良いなあ、と個人的には思う。

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空の彼方 (3)

思い出が導く未来への道
評価:☆☆☆☆★
 アルフォンスの実家のレイラート家の差し金で、ソラの防具店シャイニーテラスに営業停止命令が下される。アルフォンスをレイラート家へと戻すためだ。その情報をシャインの父にしてスカイシールドを取り仕切るラヴィアンから聞いたアルフォンスは、激怒して実家に殴り込みをかけようとする。
 ソラとラヴィアンからの諌めを受け入れ、再び父親との関係を壊すのではなく、発展的に解決する方法を模索するため、兄に相談に行くことにする。実は兄ももう一人の人物を通じてではあるが、シャイニーテラスに縁があるのだ。
 そして、父親に営業停止命令を撤回させるため、ひとつの賭けをすることになる。成功すれば今まで通りの生活を、失敗すれば貴族社会に戻る。そんな約束をして、アルフォンスは旅立つ。そしてその過程で、父親との確執の原因である母にまつわる物語を知るのだった。

 シャイニーテラスの物語は完結。アルフォンスと母の関係、ソラとシャインの関係は、月霊草という珍しい花と、遮光石という珍しい素材を通じてつながっていく。そうして結び付けられる人と人のつながりは、本当に貴重であり、そして人を臆病にもする。
 いってらっしゃいから始まる物語は、また新たな旅の幕開けを告げることで終わりとなった。

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空の彼方 (2)

「いってらっしゃい」と「おかえりなさい」の間に
評価:☆☆☆☆★
 危険な旅に出かける人と、その帰りを待つ人。生きて帰れるかわからないからあえて突き放すけれど、それでも絶対に帰ってくると信じているからあきらめることはできない。そんな想いを支える場所として、防具屋シャイニーテラスは今日も開店している。

 元貴族のアルフォンス名指しで来た、貴族令嬢エミリアを迎えに行く依頼。エミリアがいる町は、数日後には戦場になってしまう。ギリギリで救出は間に合う計算だったのだけれど、予想外の事態が発生し、アルフォンスとエミリアはピンチに陥る。
 彼らから遠く離れた場所で、ソラは、そしてエミリアに一目惚れした下級兵士のリックは、彼らのために何が出来るのか。

 「いってらっしゃい」と「おかえりなさい」の間に紡がれる、優しさに満ちた物語。

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空の彼方

やさしい光の照らす場所
評価:☆☆☆☆★
 真っ暗な細い路地を入った先にある建物の地下にある防具屋シャイニーテラスの客になるには、3つの約束を守る必要がある。シャイニーテラスのある街レーギスに住んでいること、レーギスに帰るために最大限の努力をすること、帰ったら店に顔を出し旅の出来事を語ること、の3つだ。そして店の壁には、未だ帰らざる客たちの名前を書いたメモが張られ、店主であるソラは彼らの帰りをじっと待っている。
 こんな防具屋のカウンターで語られる、世界の出来事と帰る場所を持つ人々の物語。

 籠の鳥という言葉は不自由の象徴ではあるけれど、籠が外敵から中のものを護ってくれているという事実も見逃してはならない。そこには、一方的ではあるけれど愛情があり、それを受け入れるのであれば、籠の中にいることは不自由という訳ではない。なぜなら、それを自分の意思で選択したのであるから。
 ある意味、このお店で売られる防具は、世界で自由に羽ばたくための大きな籠の様なものかもしれない。飛び立った先でも自分を護ってくれ、帰る先の止まり木の存在を約束してくれる。このとき生じる帰ろうという想いが、最も強く自分を護ってくれるのかもしれないけれど。

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