一橋鶫作品の書評/レビュー

魔術師たちの言想遊戯 II

行間にひそむもの
評価:☆☆☆☆☆
 言霊会管理官を何とか退け、新天地・玖鳴市へとやって来た言想堂の店員たち。ここは中小の魔術結社がひしめく、身をひそめ易い土地なのだ。
 しかし、店長がFXでとんでしまったので、先立つものがない。そのお金を稼ぐため、副業として便利屋を開業しようとする。だが、新参者にそうそう依頼があるはずもない。そんなとき、玖鳴の名家である九頭家の当主・九頭篠巳がやって来て、誘拐された孫を取り戻して欲しいという。

 誘拐犯と目されている人物は、米国魔術結社に所属していた管理官クラスの魔術師、ラヴィット・マークス。弓原歌鳥はラヴィットの探索、浮船詩織とチャムは九頭家の事情探索という役割分担で動き出したのだが、それぞれがそれぞれトラブルに巻き込まれ、歌鳥を心配したフラグや木下環は、独断専行に走ろうとする。
 何が本当で何が嘘なのか、言葉とその裏に潜む心が錯綜し、事態を混迷させていく。

 前巻ラストの打ち切りフラグに対する解釈は「空色パンデミック」みたいだ。そんな訳で続くことになったこの物語では、前巻とちょっとだけ設定がズレている部分もある。
 またあの強敵も復活したみたいだし、次巻も玖鳴でトラブルが巻き起こりそう。


魔術師たちの言想遊戯 I

たった一文で物語は一変する
評価:☆☆☆☆☆
 新黒谷市の県立新黒谷高校の生徒である弓原歌鳥は、最近通うようになった書店・言想堂のバイト募集に申し込む。小学生みたいななりをした店長に即採用された歌鳥だったが、そこは超危険地帯だった。浮船詩織や都築説子という店員たちは、言想魔術師という、言葉を使った魔術の使い手で、言霊会という公的魔術組織に狙われる魔法使い・フラグを守るため、日夜、戦いに明け暮れていたのだ。
 いきなり命の危機に陥ってしまい、バイトの辞退を申し出た歌鳥だったが、彼の魔術師としての才能を見た店長は、脅し混じりに彼を無理矢理店員にしてしまう。そうして働くことになった歌鳥は、フラグと出会い、彼女と話をしたことで、恋に落ちてしまう。自分の本来の目的を失って…。

 一方、学校では、しゃべれるのにしゃべらずにスケブで会話をする少女・木下環に付きまとわれる歌鳥は、第二文型部という謎の部活に入部させられることになる。


 とてもトリッキーな構成で、何が本当で何が虚構なのか、読んでいて惑わされる。でもそれが面白い。すごくあらすじが書きづらいよ、冒頭の部分を書いただけでネタばれになりそうだから。つづきも楽しみ。

 物語は、当たり前だけど、言葉で出来ている。だから物語の前提は、たった一文で覆すことが出来る。普通はそんなことをやると物語が崩壊してしまうのだが、この作品は、一変する前と後できちんと整合性を持って物語が接続されるので、その心配はない。
 言葉にまつわる小ネタが各所に仕込んであって、読み進めるとその意味が徐々に明らかになり面白い。色んな作品からの引用も隠れている。

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