マナベスグル / 真鍋卓作品の書評/レビュー

海でおぼれて漂流したら謎の島へたどり着いた件について

閉じた楽園
評価:☆☆☆★★
 日本から隔絶した島に流された相島玉兎は、コトコという少女に拾われる。そこは妖怪と人間が共存する島だった。
 コトコに諱を握られた相島玉兎は、島の管理者である恒河沙からイクトという仮名をもらい、コトコの家で暮らすことになる。何とか本土に戻りたいイクトと、島を出たいコトコは、島を脱出する方法を探り始めるが…。

幽遊菓庵 ~春寿堂の怪奇帳~ (2)

悪意の集約
評価:☆☆☆★★
 玉藻の式神あずきのぐうたらぶりを見つつ、和菓子職人として修業を深めていく秋夜名月。栗原真理という高野山大学の学生もバイトに加わっていく。

「狐の弟子入りと名無しの和菓子」
子狐との縁。

「御赤飯と妖しの書」
女子大生との縁。

「さお秤と三姉兄弟」
付喪神との縁。

「落雁と蓮の花」
秋夜名月の縁を紡いでいた黒幕の正体とは。

幽遊菓庵 ~春寿堂の怪奇帳~

平穏には程遠い日常
評価:☆☆☆★★
 幽霊や妖怪などが見える秋夜名月は、平穏な暮らしを求めて高野山にただ一軒の和菓子屋に職を求めた。ところがその和菓子屋「春寿堂」の店主は、辰狐王玉藻、自称神様だった。玉藻の導く縁に従い、秋夜名月は様々なトラブルに見舞われていく。

「梅と未開紅」
梅の精との縁。

「疫病神と花の袖」
高野山高校に通う疫病神との縁。

「通り魔とストラップ」
自称ジャーナリストの家族との縁。

「夢と笑顔」
アイドルとの縁。

 相変わらずキャラクター描写が雑。

ダウトコール ‐三流作家と薄幸執事の超能力詐称事件特別対策‐

不幸体質の執事さん
評価:☆☆☆☆★
 三日前のとある事件の成り行きで磐姫ミコトという巨乳美少女にストーカーされることになった高校生の樋口湊は、ストーカーを避けるための兵糧攻めに耐えかねて逃げ出し、楓香蘭女学院というお嬢様学校にたどり着いた。
 その門の前にいた女子高生の宮沢茜に業界屈指の代理探偵と間違えられた樋口湊は、彼女の執事役として迎え入れられ、学院内で起きている事件の解決を依頼される。その事件とは、シスター・マリアを名乗る詐欺師が超能力者を騙り、箱入り娘たちの信頼を集めているという事件だった。

 コールド・リーディングとホット・リーディングを駆使する典型的な占い詐欺師である彼女をどう攻め落とすか考えあぐねている内に、先走った宮沢茜がネタを暴露してしまい、早期解決は困難となった上、樋口湊自身も代理探偵ではないという事実が宮沢茜に明らかになってしまった。
 そのまま、磐姫ミコトが待ち構える学院外に放り出されるところを、宮沢茜が聖処女(ピュアネス・フィリア)という役割を担っており、かつ、彼女が売れないエンタメ作家だということを見抜いたことで、何とか依頼を継続し、学院内で保護してもらえることとなった。

 しかし、宮沢茜に心酔する武者小路くるみは言動がハチャメチャだし、シスター・マリアの従者であるイヴは、自分達の仕事の邪魔になる宮沢茜を排除しようと、数々の嫌がらせを仕掛けてくる。そしてその全ては、この上なく不幸体質である樋口湊のもとに降りかかってくることになるのだった。

 慣用句の誤用や教養の無さあたりで散々叩かれたんだろうなあ、と言うことが透けて見えるような作品になっている。ここまで露骨に対抗心を燃やしている様を見るのは、何やら微笑ましい。スルースキルを磨かないと世間は生きづらいよ。
 冒頭で若干気持ち悪いところはあるけれど、以前よりはずっと読みやすくなったように思う。あとは、デウス・エクス・マキナのごとく作品を巻き取る磐姫ミコトという存在に頼らず、どこまで緻密に構成出来るかを目指すのがこの作品の方向性かな、という感じがする。

俺の彼女は飼主(マリア)様、妹はご主人様 (2)

許嫁と飼主(マリア)様
評価:☆☆☆☆★
 二ヶ月の停学が明けて新学期を迎えた園城颯太は、教室の注目を一身に集めていた。彼の許嫁を名乗る園城椎那が転校してきたからだ。颯太の飼主(マリア)様を自称する冬原琴音はナイフを抜き、伊波蒼斗は妹の緋香里と共に、颯太が危機に陥るのを楽しんでいる。
 そして椎那は颯太が住むおんぼろアパートの風楽荘へ押しかけ、琴音や剣見崎咲も一緒に住む流れになってしまう。一方、緋香里の目を盗んで、蒼斗は双葉楓のお見舞いにやってきていた。そんなこととは知らず、緋香里は桃色合体の秘策を練っていたのだが、偶然出会った連続誘拐犯のピエロを利用し、ストックホルム効果を狙い出す。
 そこに、本庄理科雄や、担任の五十嵐清四郎と副担任の神々廻真、五十嵐の息子の薫も巻き込み、街外れの洋館で、大騒動が起きることになる。

 一巻と同様、群像劇的に物語は進行するのだが、柱として連続誘拐事件があり、そこに様々なエピソードを携えてキャラクターが参加する形になっているので、一巻よりは読みやすくなっている気がする。一方で、颯太のハーレム展開がメインとなったため、桃色合体の脅威は薄れている気がするが…。
 キャラクターがたくさん増えて、全員をいっぺんに活躍する形式は、これからもっと困難になっていきそうな気がする。

俺の彼女は飼主(マリア)様、妹はご主人様

タイトルとはちょっと違う
評価:☆☆☆☆★
 桜坂学園に通う伊波蒼斗、園城颯太、冬原琴音の3人は少し変わっている。伊波蒼斗は妹の緋香里から異常なまで愛されていて、彼女は常に桃色合体のチャンスを狙っている。ついでに二人とも、ちょっとした超能力者だ。まあ本編にはあまり関係ない。園城颯太は10歳から家出をこじらせて、いまでは調律師という裏社会のなんでも屋で生計を立てている。基本的にバカだ。冬原琴音は実家がサーカス団で、なにかあると胸元に仕込んだナイフを抜く。幼少の頃に颯太とある約束をしたのだが、颯太は覚えていない。
 そんな風に浮いた4人が遊んでいればただの残念系ラブコメになるはずなのだが、そこには混乱に拍車をかける要素が絡み合ってくる。颯太が仕事で助けた君子蘭女学院に通うお嬢さま・剣見崎咲とその執事の柳田國男。蒼斗が接触したクラスメイトの双葉楓。理科準備室に暮らすクラスメイトの本庄理科雄。それに担任の五十嵐清四郎と副担任の神々廻真。そんなメンツに加え、ジェニファーというマクガフィンを巡る争奪戦、咲の告白イベント、緋香里の桃色攻撃という出来事が入り混じり合いながら、それぞれが引き金となり、結果に影響を与え、最後に収束していく。まあいわゆる群像劇というやつだ。

 かなり短いスパンで描写が切り替わるのだが、基本的に3本のストーリーラインを押さえておけば混乱することはないと思う。ただ個人的には、琴音ストーリーをメインに据え、他の3本をサブにして整理した方が、1本の小説として綺麗にまとまった様な気はする。このままだと、3本の短編がシャッフルして混ぜられた作品という印象が強い。
 あともう一つ言えば、タイトルは内容をほとんど反映していないと思う。タイトルを先行させ過ぎたのではないだろうか。

 第2回ネクストファンタジア大賞銀賞受賞作「恋心ハイウェイ」を改稿・改題してデビュー。

ホーム
inserted by FC2 system