松時ノ介作品の書評/レビュー

サムライブラッド (2) ~神花襲来~

上には上がいる
評価:☆☆☆☆☆
 織田幕府開府以来、未だ合格者のいない一級武資試験を合格し、仮一級武資となった竜は、将軍家指南役の浅井家の当主となった。本来ならば即、浅井花鳥との婚礼と行きたいところなのだが、花鳥の覚悟が未だ定まらず、手も出していないのが現状だ。浅井家が絶えれば幕府も滅びる本命的殺の縁の最後の生き残りである花鳥には早く子を成して欲しいのが織田信雪の本音なのだが、竜も天位五行という、未だ顕現した者がいない陰陽術の使い手となったため、竜の子孫も増やしたいという色気もある。
 門下生もいなくなってしまい、暇になった花鳥に、信雪は竜を連れて堺の陰陽寮へと行くように命じる。堺には嫌な思い出がある花鳥は渋るのだが、直前に門下生となった坂本龍真も連れ、堺へと行くことになった。そして彼女たちには内密に、信雪と徳川慶福も同行する。

 たどり着いた堺で彼女たちを迎えたのは、横井正楠の弟子である山岡鉄宗だ。そして、堺の街を騒がせていた辻殴りが鉄宗らを襲ってきたことで、信雪の二番目の姉の織田二紗子も一行に加わることとなる。

 一巻は竜にまつわる勝負が中心だったため、幕末っぽい展開はあまり見られなかったが、今回は幕府の根幹が揺らぐ尊王論が台頭していることをまざまざと見せつける展開となっている。そしてその陰には、織田幕府が推奨してきた実力主義の歪が見られるのだった。
 今回の敵役である花魁の音夢が規格外過ぎて、登場人物たちの実力ランキングが混乱してきてしまった。前巻では竜は最強の部類に入った感じだったのだが、今巻ではそんな彼をも上回る実力者が続々登場する。

 そして次巻では、幕末を揺るがす事件が起きるのであった。

サムライブラッド~天守無双~

異人少女の婿取り
評価:☆☆☆☆☆
 織田信長が天守幕府を開いて三百年。皇神を王とし織田家が政軍を担う体制は、幕府に仕える「資」と、手に職を持つ「任」、それら資格のない「民」、そして身体欠損を持つ「待人」という身分制度により維持されていた。
 政軍家指南役である浅井道場は、その祖に浅井長政を持ち、政の一線からは退きながらも、幕府を支える人材を輩出する道場として、細々と生きながらえていた。しかし、その当主である浅井元ノ介が急死し、一人娘である浅井花鳥は、女子の最上級である三級武資ではあるものの、道場を継ぐ二級武資には及ばず、跡継ぎになることは出来ない。

 そこで、二級以上の武資を婿にとり、浅井道場を継いでもらおうとするのだが、肝心の婿が見つからない。何故なら彼女は、当時には珍しい異人の母を持つ女性であり、銀髪の美少女だったのだ。ゆえに、現代的な感覚とは異なり、通常の男は彼女を娶ることに尻込みしてしまう。
 だが、次期政軍候補である織田信雪には、織田家として浅井家を絶えさせられない理由があった。ゆえに、妻とした花鳥の親友の前田利理や羽柴小鈴を使わし、彼女の婿捜しに協力することになる。

 それでも花鳥の婿となる男は見つからない。そんなとき、待人の一座で芸を披露する盲目の美少年、竜の技を目にしてしまう。彼は何の基礎も無く、武資の氣による攻撃をいなし、有り余るほどの陰陽術の才能の片鱗を見せつけていたのだ。
 最後の大博打として、竜を一ヶ月半で鍛え上げ、一級武資の山辺旺正、田柿一郎、柴田憲和との対戦による資格試験に挑み、彼を一級武資に仕立て上げ、婿として迎え入れることを試みる。

 織田信長が幕府を開くIFの歴史物かと思わせつつ、陰陽術に基づく資格制度を基礎として、織田幕府の命運と、浅井道場の存亡、そしてハーフ少女の婿取りの行方を描く作品。ビジュアル的には美少年と美少女なのだが、少年が盲目だったり、少女が異人として忌避されていたり、障害が多いところが挑戦的とも言える。
 まだまだ伸びしろがありそうな設定なので、今後の展開に期待したい。第6回HJ文庫大賞金賞受賞作品だ。

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