南井大介作品の書評/レビュー

楠木統十郎の災難な日々 (2) 史上最悪のバカンス

バカンスのち戦場
評価:☆☆☆☆★
 受験生の楠木統十郎は、2ヶ月前に相馬優希と相馬和希の双子と共に、アノマリーという超常現象を処理する戦いに巻き込まれ、ネコ耳ロリの手によってエージェントに仕立て上げられてしまった。それから2ヶ月、時空間の操作が出来るのを良いことに、ネコ耳ロリは統十郎を様々な並行世界に叩き込み、エージェントとしてこき使い続けていた。
 そして夏休み。そんな悪魔の様なネコ耳ロリが、統十郎をバカンスに連れて行ってくれるなどと言いだす。罠の気配は濃厚なのだが、逆らうことも出来ず、優希と和希を連れて浜辺のバカンスへと繰り出すことになった。しかし案の定、夜に訪れた祭の会場で発生したクロストークという時空災害の解決に乗り出させられることとなってしまう。

 平和な町を舞台に巻き起こる、怪物と未来戦士の大銃撃戦。どちらも、普通の住民である真庭涼や真庭夕海、仙石静江の様な存在の犠牲を考慮することなく、効率的な解決を目指して虐殺が行われる。
 解決すれば一夜の悪夢として元通りになるとはいえ、何の罪もない人間が無意味に虐殺される光景には、無関心ではいられない。二度目の経験である優希と和希だけでなく、二ヶ月の経験を経た統十郎ですら、何とかするために動き出したいと感じてしまう。その過程で、ちょっと前の仕事で知り合ったエルフの女騎士ファトマ・クリシュナが登場したりして…。

 完全に巻き込まれた普通の高校生の視点で進むパニックものと、その事態を解決するために武力行使をするアクションものと、二つの軸で物語は進められる。その物語が合流する時、統十郎は大変気分の悪い思いをすることになる訳だが…。
 全く描かれたことのないエピソードを背景に登場するファトマの場違いっぷりがちょっと面白い。


楠木統十郎の災難な日々 ネギは世界を救う

せっかくの美少女ですが残念ながら
評価:☆☆☆☆☆
 県下一の進学校・星ヶ峰中央高校に通う楠木統十郎は、鶴見峠東高校に通う古馴染みの相馬和希・優希の双子と共に、気づいたら奇妙な場所にいた。そしてそこにいたネコ耳ロリは、このままでは君たちは死んでしまうと告げる。彼らの存在確定情報がアノマリーという世界のバグに飲み込まれてしまい、今の存在はその劣化コピーに過ぎないという。
 その状態から元に戻るためには、そのアノマリーを彼ら自身の手で倒さなければならない。そのための最終兵器として手渡されたのが、ネギだった。

 多元多層構造世界における、彼らのそれとは少し違う世界で、アノマリーが扮した統十郎の怨敵にして生徒会長の佐古竜輝を倒すため、街中に散らばった手がかりを、さながらゲームのように改修していく3人。しかし相手もそれを看過することはせず、しかも、まるで世界が面白がるかのように、様々に面白障害を繰り出してくるため、一筋縄ではいかない。
 そしてようやくたどり着いた最終目的地で、一体ネギはどんな役割を果たすのか!大概ロクでもない。

 よくある幼なじみとのラブの要素を排除したコメディとでもいうべきか。世界を賭けた勝負なのに、起きるイベントはしょうもないものばかり。美少女幼なじみも登場するのに、彼女と主人公との間は、思春期らしく上手くいかない。舞台はRPGのようであり、行動はバラエティ番組のようであり、キャラ心理は現実のような作品だ。
 個人的にはこういう作品は好きだけれど、多分、大ヒットはしない印象がある。それは、現代のメインとして求められる感性よりも、少し古い感じがするからだろう。それなのに、要素だけはいろいろと詰め込んであるところが、少しアンバランスな気もする。

小さな魔女と空飛ぶ狐

科学者の戦争責任とラブコメ
評価:☆☆☆☆★
 夜間戦闘飛行の巧者で敵からも狐と呼ばれるクラウゼ・シュナウファー中尉は、ある日、惰性と義務で続ける戦闘飛行から帰還した途端、本国へ召還される。帰国した先で待っていたのは、親衛隊少佐で元主家の令嬢であり、子どもの頃からの姉貴分であった、イングリッド・フォン・ヴィッツレーベン。彼女がクラウゼに示した新たな任務は、戦争の帰趨を握るという天才少女アンナリーサ・フォン・ラムシュタインのサポートだった。

 架空の国家群が対立する世界にあって、小国の資源所有権を巡り内戦という名の大国同士による代理戦争が行われており、クラウゼはその戦場を飛び交う電子兵装を備えたジェット機のパイロットだ。
 一方、アンナリーサは天才科学者であり、軍に協力して兵器の開発を行うことになる。クラウゼはそんな彼女のサポート役だ。天才少女ゆえのプライドの高さや、それに起因するベテラン技術者との対立。そんな問題をクラウゼが影から捌きながら、アンナリーサは敵国の科学者と競うように大量破壊兵器を開発していく。

 そんな彼女のライバルとなるのは、敵国の科学者ルイ・シャルル・ド・アジャンクール。彼は30年前の大戦で軍に協力した故に心を病み、狂人科学者として隠棲していたが、彼のところに派遣された新任少尉エマ・フォンクの復讐に手を貸すために再び兵器開発に手を染める。

 まるでおもちゃの様に兵器を開発し、その兵器が多くの他国の人を殺す。そんな現状に罪悪感を感じることもないアンナリーサだが、とある事件を通じて彼女の心情は一変する。そして、同時にアジャンクールの心情を一変させた出来事が、世界の転換点となった。

 科学者の戦争責任や倫理という視点を入れながら、一人のパイロットと一人の少女を取り巻く人間と世界を描いている。テーマとしては重くて文章も硬い感じがするけれど、登場するキャラクターたちのやりとりはラブコメ的要素を含んでいる。
 最近評判になっている様な舞台設定の中で、作者らしさを追求した感じがする。シリアスとコメディの区切りがもう少し明確になった方が、展開に落差がついて面白くなるような気はした。

 ところで作者は、リーマン幾何学や一般相対性理論に興味があるのだろうか?

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ピクシー・ワークス

技術的興味だけで暴走する女子高生
評価:☆☆☆★★
 25年くらい未来の世界。成績は優秀だけれどトラブルばかり起こす女子高生三人組が所属する天文部に、15年前に墜ちた無人戦闘機のAIを復元する依頼が来る。目的は、老い先短い老人が戦争で子供たちを奪われた恨みを晴らすため、所属不明機を首都上空に飛ばして経済的混乱を引き起こし国に打撃を与えること。三人は、単純に技術的好奇心に基づき、その依頼を受ける。
 本作は、その過程で生じる友情物語や、空中戦の様子などを描いている。一応、男の子キャラも一人登場するのだけれど、どちらかというと恋愛系よりもキャットファイト的な側面の方が強い。

 依頼者は血を流さない復讐というお題目を免罪符としている。しかし、経済戦争はホットではないけれど、企業倒産などが起きれば首をくくる奴もいる。赤い血は見えないだけで、やっぱり血は流れると思う。
 金もあり、人脈も権力もある老人が、何故に正攻法で国を変えようと努力をしなかったのかが理解できない。それに、いかに自らの死が近いとはいえ、目の前にニンジンをぶら下げて高校生をつり、テロを首謀させるやり口が気に食わない。

 そんな訳で、今回のやり方はあまり好きにはなれないが、物語の背景には、戦争による遺伝的後遺症やそれを引き起こした者たちへの責任追及みたいな題材もあり、その辺は興味深い。結局、パイロットになった子以外あまり目立たない展開になってしまったので、他の二人の特性が引き立つエピソードを織り交ぜて次につなげれば、面白くなるかもしれません。

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