美奈川護作品の書評/レビュー

星降プラネタリウム

評価:☆☆☆☆★

美の奇人たち 〜森之宮芸大前アパートの攻防〜

評価:☆☆☆☆★


弾丸スタントヒーローズ

評価:☆☆☆☆★


ギンカムロ

評価:☆☆☆☆★


スプラッシュ!

レースをする理由
評価:☆☆☆☆★
 剣道家だった父親が急死し、進学が厳しくなった渡来陸は、これまであまり交流のなかった母方の叔父でボートレーサーの新垣勝俊に示唆され、お金を稼ぐためにボートレーサーになることにした。
 一年後、ボートレーサー養成校である白波瀬の卒業レースで優勝し、プロとして出発することになったものの、直前、経済的に安定した相手との母親の再婚が決まり、実家にお金を入れる必要が無くなってしまう。さらには、師匠筋にあたる叔父の新垣勝俊が、青柳敏郎の起こした落水事故に巻き込まれ、右足に損傷を負い、音信不通となってしまうのだった。

 レースをするための理由を失くし、デビュー戦でフライングをしてしまい、成績不振のまま一年を過ごした渡来陸の前に、壱橋六花という女性が現れる。彼のファンだと名乗る彼女は、彼にサインを求めるのだった。
 ファンのために走る。三度、レースをする理由を得た渡来陸は、遂に初勝利を挙げ水神祭を行う。そして一年後、彼の前に再び現れた壱橋六花は、白波瀬の卒業レースで優勝した新人ボートレーサーとなっていた。

 訓練生時代は回想シーンのみ。持ちペラ制が無くなっていたというのを初めて知った。ボートレースは「モンキーターン(河合克敏)」くらいしか縁がないからな。

キーパーズ 碧山動物園日誌

動物への捨て身の愛
評価:☆☆☆☆☆
 日本で一番古い動物園である碧山動物園で、小学生の鳥羽晴樹はアムールヒョウのガイアと出会ってしまった。それから真っすぐに動物飼育員への道を目指した。そして運よく飼育員となったものの、彼に様々なことを教えてくれたガイアの飼育員の三園伊知郎は飼育員を辞めてしまっており、ガイアは寿命を迎えようとしている。
 そんな碧山動物園に、一人の販売員バイトがやってきた。彼女の名前は向島理央。彼女には不思議な能力があった。それは、動物の言葉を理解できるということ。彼女はソロモンの指環の持ち主だったのだ。

 言葉が通じなくとも、動物と人間の架け橋になる。それをプライドとしてきた鳥羽晴樹は彼女の能力を信じたくはなかったが、暴走するサラブレッドや、ただ一人の飼育員の指示しか聞かないアジアゾウ、遥か昔から動物園にいるガラパゴスゾウガメにまつわる出来事を経験していくうち、彼女の能力は本物としか思えないようになっていく。しかし…。

ドラフィル! (3) 竜ヶ坂商店街オーケストラの凱旋

家族の呪い
評価:☆☆☆☆☆
 竜ヶ坂商店街フィルハーモニーというアマオケの指揮者である一之瀬七緒の下でコンマスを務める藤間響介は、次の演奏会の新曲の選択に悩んでいた。
 そんなアマオケのある練習日、チェロ主席の駒沢の娘を預かったことが切っ掛けで、常任指揮者とコンマスは駒沢と恩師の確執の解決に関わることになる。

 さらには、七緒の路上駐車癖から始まる、巡査とイングリッシュ・ホルン奏者の椎名雪絵との関係や、七緒の義姉の一之瀬ゆかりと、かつての同士である高柳との関係を経て、最後の敵にあたることになる。
 叔父で楽器商の藤間薫に持ちかけられた、羽田野仁美所有の呪いのヴァイオリン「チェリーニ」のコピーにまつわる家族の秘密を解き明かすことで、英雄は凱旋し、王者は舞台を去ることになるのだ。

 シリーズ完結。

ドラフィル! (2) 竜ヶ坂商店街オーケストラの革命

音楽でしか消せないしこり
評価:☆☆☆☆☆
 竜ヶ坂商店街フィルハーモニーというアマオケの指揮者である一之瀬七緒の下でコンマスを続けることにした藤間響介に、父親の藤間統から電話がかかってくる。それは彼に弦を置く様に告げるものだった。
 せっかく、車椅子の指揮者をネタに取り上げたい新聞社が取材に来たおかげでドラフィルの名前が売れてきて、次回公演も評判となり始めていたにもかかわらず、肝心のコンマスは精神的なダメージでまともな演奏も出来ない。そこで七緒は、響介の奮起を促すため、彼自身が再度立ち上がるために弾かなければならない曲目を、彼自身に選ばせる。

 そんな個人的な問題を抱えつつも、ドラフィルのメンバーにも問題が絶えない。商工会の副会長がドラフィルに反対を表明したり、新ティンパニ奏者の兄弟間の不和が発覚したり、ヴィオラ奏者の高坂幸の母娘の問題が明かされたり、それぞれの問題の根幹には音楽が大きく関わっている。
 ゆえに常任指揮者とコンマスは、音楽によってその問題の本質を理解し、音楽によってそれを緩和する解を示すのだ。

 示された解が正しいかどうかは必ずしも重要ではない。関係者がそれに納得し、受け入れることが出来れば、それには意味がある。それが他者を理解すると言うことなのだから。
 仮にこの作品に続巻があるとすれば、次の相手はこれまでで最も手強いことだろう。

ドラフィル! 竜ヶ坂商店街オーケストラの英雄

夢を手放しかけた青年の覚醒
評価:☆☆☆☆☆
 藤間響介の音楽を変えたのは、十年前のフォルテの重音だ。東亜音楽コンクールヴァイオリン部門本選で聴いた、ブラームスのヴァイオリン協奏曲ニ長調第三楽章、樋山ゆかりという3歳ほど年上の少女が響かせた、規格外の音に、音楽の可能性を見せつけられたのだ。だが現実は、帝真音大ヴァイオリン学科を卒業しても、藤間響介にプロオケの就職先はなく、これまで多大な援助をしてきた父親にも見限られてしまった。
 そんな彼のもとに、叔父で楽器商の藤間薫から、竜ヶ坂商店街フィルハーモニーというアマオケがコンマスを募集しているという話を持ってくる。公民館というバイト先もセットになっており、行くあてもない響介は、叔父から借り受けている愛器のカルロ・ランドルフィと共に、その寂れた町へと向かった。

 そんな彼を迎えたのは、一之瀬七緒という、車椅子の女性だった。車椅子とは思えないとてつもない行動力を見せつける彼女は、響介のコンマス就任試験だと言い、とある課題を出す。実は常任指揮者である彼女の、指揮者としての天才的な才能を見せつけられた響介は、竜ヶ坂商店街の人々との交流を通じ、彼女のタクトにぶつける自分の音楽を見つけ出していくのだが…。
 トランペットの首席奏者である81歳の増田源次郎と孫の吹子の確執、和菓子屋の未亡人・畑山彩花が抱える息子・和樹に対する不安、元コンミスの野村美咲が父親に抱く心残り。そんな様々な気持ちのズレを、七緒に導かれるように、響介は音楽を使って調律していく。そしてその果てに、ドラフィルを創設した城英音大の元学生にまつわる音楽の呪いを解く役を担うことになる。

 子どもの頃から音楽一筋に打ち込んできたにも拘わらず、才能がないことで音楽の道に残れなかったと思っている青年と、突然の事故でそれまでの音楽の道を奪われたにも拘わらず、折れずに自分の音楽を貫こうとする女性の出会いと成長を描く物語だ。
 才能というのは確かに存在するけれど、それが左右する領域まで人と引き上げるのは、ただひたすらに努力し続けられることだと思う。そのことに気づいて実行できるならば、大概のことは成し遂げられると思うのだ。…もちろん、それでは届かない領域というのも確かにあるとは思うけどね。

 本書は四章構成になっているのだが、各章の構成が巧みになされていると思う。そしてそれを一つ一つ積み上げていくと、全体を解き明かす構成になっているのだ。尤も、全体の方は各章の構成に比べれば、少し劣る気もするけれど。
 音に魅了され、音に縛られ、音に傷つけられ、それでも音を手放すことが出来ない人々を、音の聞こえない文字で上手く表現している気がする。まあ、登場する曲を知っている方がより伝わりやすいとは思うので、どこかで聴いてみるのも良いだろう。

超特急便ガール!!

なぜ彼女は運ぶのか?
評価:☆☆☆☆☆
 創業50年超の大手商社・大湊商事をとある理由で退社し、バイク便・ユーサービスのハンドキャリー便を担当することにした吉原陶子は、亡くなったユーサービス前社長・如月悠の何らかの不思議な力によって、思いの残った荷物の届け先まで瞬間移動してしまうという能力を得てしまった。
 その能力の原因であるはずの、如月悠の想い残りの荷物を届けてその能力もなくなるかと思ったものの、まだなくならない。おかげでいきなり東京から沖縄に飛ばされたりして、甚だ使い勝手が悪い。何せ思う通りにならないのだ。

 今回もそういう思いの残された荷物が複数登場する。離婚した妻に引き取られた娘へのクリスマスプレゼント、夢のこもったデモテープ、二年遅れのチケット。そういった荷物を、新たに加わった自転車便の佐古田丈らと届けながら、最後に試練として与えられるのが、彼女が前職を退職する理由となった会社・サーバーローゼズからのヘッドハンティングだ。
 職業に貴賎はないといいながら、一流企業の人間がそうでない人間を見下したり憐れんだりするような現実もある。何を以って会社となり、何を以って働くか。吉原陶子は自分に問いかけることになる。

特急便ガール!

急いで確実に届けたい想い
評価:☆☆☆☆★
 一流企業の大湊商事を一身上の都合で退社した吉岡陶子は、元同僚の三村誠の紹介で、バイク便ユーサービスのハンドキャリー担当として入社することになる。
 ハンドキャリーとは名前の通り、いかなるルートを用いても最短で荷物を運ぶ仕事のことだ。都内の運搬はバイク便が担当するため、彼女が担当するのは国内の長距離便。新幹線や飛行機、そして最後は陸上の中距離で培った脚を駆使して、お客さまへ荷物を届けるのだ。

 そんな彼女の同僚は、社長で配車担当の如月紘一郎に、バイク便担当の如月沙織と菅野亮也、そして広報部長の大谷真治ことオカメインコの大谷さんだ。
 一癖も二癖もある同僚たちを相手に、負けん気と意地でハンドキャリーをこなす陶子は、突然ある特殊能力に目覚めてしまう。想いのこもった荷物の場合、その荷物が届きたい先に瞬間移動してしまうのだ。

 なぜそんな能力に目覚めてしまったのか。その事実は物語が進むにつれて明らかになってくる。前半の方で気づくかも知れない描写不足も、実は後半に向けての伏線だということも分かってくる。ちょっと突飛な設定さえ気にしなければ、荷物にこめられた物語は面白いと思う。
 ただ、社会人としてどうなのかなという言動と、著名な作曲家であるベドルジハ・スメタナの名前を間違えているところはいただけない。特に後者は編集・校正の問題だと思うのだが、教養を問われそう。

   bk1
   
   amazon
   

ヴァンダル画廊街の奇跡 (3)

母への憧憬が作り出す未来
評価:☆☆☆☆☆
 世界政府がレナード・ウィンズベルを処刑した理由と反政府団体DESTの指導者UMA暗殺の関係が分かり、エナ・ウィンズベルの母で行方不明となっているイソラ・ウィンズベル/川澄伊空と、新たに名乗りを上げたUMA/アンノウンとの関係が新たな謎として残った。その謎を明らかにするため、エナやハルク、ネーヴォは、イソラの研究内容を知るため、世界政府が管轄する図書館への潜入を試みる。
 一方、国際刑事警察機構ヴァンダル班のサムソン・ゲティスバーグとカッツェ・シュミットは、文化制定局局長アナベル・カーライトの指揮の下、情報に自由にアクセスできる立場を生かして、アンノウンの正体に迫っていた。
 アンノウンの正体とは、そしてイソラの目指したものとは何だったのか?エナの原初の記憶がそれを解き明かす。

 自分の考えを他者へと完璧に伝えることは難しい。特に言葉、文章でそれを伝えようとすることは困難だ。これは、例えば、メールで解釈の余地のある文章を送ってしまい、ミスコミュニケーションが起きた経験などを思い起こせばよいかも知れない。
 絵画は文章に比べれば、情報がまぎれる余地は大分少ない。何せ、イメージを共有するために開発されたツールだからだ。そこには言葉には乗せきれない情報も載せることが出来る。しかしそれでも、見た者の解釈を許すことは確かだ。

 だが、その余地を極限まで減らせるテーマがある。それは人類普遍の命題、例えば神の奇跡や、母の無償の愛という様なものだ。本巻では宗教画が多く登場する。ボクは宗教に造詣が深いわけではないが、少し考えて見たい。
 旧約の時代、神と人間には直接的な関わりがあった。しかし新約の時代に入り、神はその代理人たる天使や、聖母を介して生まれたイエスを通じてしか関わりを持とうとしなくなった。自然、神は人間から遠くなったが、代わりに人間が神を産む、あるいは神になるというシステムが存在することが示された。しかし、こうして生まれた神は無限の存在にはなり得ない。人という枷を背負った以上、死も切り離せないものとなった。
 母が子に示す無償の愛は、神が人を照らす慈悲に似ている。母から生まれたものは、母なる大地へと還る。そして新たな生命の糧となる。人は無限の命を失った代わりに、母という存在を通じて無限の循環を得た。この循環による進歩が人間に許される神の慈悲なのかも知れない。

 母への憧憬という要素を上手く組み上げて、綺麗に物語は完結したように思う。

   bk1
   
   amazon
   

ヴァンダル画廊街の奇跡 (2)

胎動
評価:☆☆☆☆☆
 大切なものを権力に奪われた時にどうするか。涙を飲んで諦めるか、代わりのものを見つけて慰めとするか、はたまた、取り戻そうと行動するか。これは取り戻そうと行動する人たちの物語。ただし、取り戻そうとするものや取り戻すための手段の選び方は、それぞれ少しずつ異なっている。

 世界政府のお膝元、スイス・ベルンで時を止めようとしていた時計塔と、新たに時を刻み始める時計に関するエピソードの第一章から始まり、オークションにかけられる一台のピアノとハルクの関係が詳らかにされることによって一人の女性の止まった時間が動き出す第二章。そして、第三章からはDESTに関係する人々が登場する。
 養父から刺青の技術と一枚の絵を引き継いだ赤羽慶太、DESTの旧指導者UMAを名乗る赤い目の少年。彼らが受け継いだ4枚の絵が、DESTの今後の行動を指し示す。

 今回は、ヴァンダル自身の行動よりも、彼らに対抗するように動く周囲の人々が物語の中心にいる。今後は、今回登場した人々がそれぞれ干渉し合いながら、世界のあるべき姿を求めて行動していくのだろう。

   bk1
   
   amazon
   

ヴァンダル画廊街の奇跡

世界を変える一枚の絵
評価:☆☆☆☆☆
 思想の多様化が対立を生み戦争を起こす。ゆえに争いの元となる思想を、そしてそれを表現する芸術を規制すべし。このような理念の下に世界政府が制定したプロパガンダ撤廃令により、過去の偉大な芸術家が生み出した音楽や絵画のほとんどが、人々の目に触れることは無くなった。
 そんな世界において、「芸術に、その自由を!」という言葉と共に、規制対象の絵画の模写を建物をキャンバスに描くアート・テロリストがいる。ヴァンダルと呼ばれる彼らは、誰の心にもある一枚の絵をひとつずつ世界に取り戻していく。

 世界中の各都市と、そこにある美術館に封印されている絵画、そしてそれを大切に思い生きている誰か、そこに秘められた物語をひも解きながら、とある目的を果たすために活動する少女とAI、半サイボーグの活躍を描く短編連作。
 一話一話がしっとりとした雰囲気のやさしい作品でありながら、その裏面では平和に潜む矛盾という命題を突きつけつつ、物語は進んでいく。絵を大切に思う気持ちが感じられる作品。

   bk1
   
   amazon
   
ホーム
inserted by FC2 system inserted by FC2 system