峰月皓作品の書評/レビュー
カエルの子は
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中堅リゾート会社が所有する小笠原諸島他人島は、日本国に対し独立を宣言した。彼らが掲げるのは、誰かの居場所となれる国だ。日本に生きづらくなった人は誰でも、国民となる権利がある。総理大臣は柳川登、17歳。それを支えるのは元アイドルの外務大臣である野原梢、考える前に行動するタイプの国土交通大臣の原田渉、格闘タイプの防衛大臣の酒匂信子、地権者である食料大臣の三鬼恵悟、医師免許をはく奪された医療大臣の須賀清史、元営業マンの内務大臣の目黒洋一だ。
もちろん、日本からの独立など簡単に受け入れられるわけもない。マスコミが食いつき始めるものの、日本政府からは半ば無視され、環境保護団体の急先鋒が糾弾に来たり、国民の増加に伴い利権を嗅ぎつけてくる業者がいたり、自然との闘いが繰り広げられたりする。
そして盛り上がった機運は、少しのきっかけで叩き落とされる。わずか7人で始めた国の興亡記だ。
なぜ彼らがそれをなすにいたったのか、人間サイドから描くというよりも、現象サイドから描いている感じがして、いまひとつ腑に落ちない。彼ら彼女らはそれぞれ思い悩んでここに至ったわけだが、それが言葉で説明されるだけで、描いているという感じではないのだ。結局、一巻で全てを描き切るには、あまりにも要素を盛り込み過ぎだった。
まあ要素はたくさんあっても良いかもしれないが、その中で重点的に描く要素を決め、そこだけにスポットを当てて描いた方が、まだ盛り上がった気がする。それぞれにちょっとずつ触れただけなので、今ひとつ消化不良の感が否めない。
カエルの子は
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芹沢晃は元バックパッカーで遊園地でカエルの着ぐるみを来てバイトをする30歳だ。当初はバイトで金をためてまた旅行に出るのが夢だったが、段々とその情熱も薄れて来た。バイト仲間の東恭二と着ぐるみを着て、笑顔が作れない社員の福田馨に叱られつつ仕事をし、バーのホステスの神崎澄子に軽口を叩いて家に帰る。そんな生活に満足していた。
そんな晃の許に、彼を父親だという少年アキラが訪ねてくる。母親の許を家出し、彼を探し求めてやって来たという。自分が父親という確信がない晃はそれを突き放そうとするのだが、馨に命じられ、警察に母親から捜索願が出されるまでの間、アキラの面倒を見ることになる。
しかし、着ぐるみで子どもからいたずらされるのに疲れて子ども嫌いになった晃には、アキラの面倒を見ることが面倒くさい。散々失敗を繰り返しながら、それでも彼を父と慕ってくるアキラに、徐々に情がわいてくる。
アキラを通じて、これまではほとんど人となりを知らなかった馨の生活も垣間見れ、徐々に話をするようにもなって来た頃、彼女に転属の話が舞い込んでくる。子ども商売なのに笑顔が出来ないせいでスタッフからは避けられている馨だったが、本当は人一倍の子ども好き。そんな彼女は遊園地を離れたくないはずなのだが、晃の失敗の尻拭いをするため、それを受け入れざるをえなくなるのだった。
遊園地を舞台に繰り広げられる、人と人とのつながりの物語。情熱を失った大人たちが、あるいは情熱を生かせない大人たちが、無鉄砲だが真っ直ぐな子どもに向き合うことで、失ったもの取り戻し、あるいは見つけられなかったものを見つけていく。
若い頃の晃は、相当なダメ人間だったと思います。主に下半身的に。
俺たちのコンビニ 新米店長と仲間たち
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東京でバイトしていたコンビニの店長に影響を受けた牧水良平は、実家の雑貨屋を母から譲り受け、コンビニとして再スタートさせることにした。恋人との別れ、信頼していた仲間の裏切り、業界大手のライバルチェーンとの対立、様々な困難を乗り越えて、ようやくオープンにまでこぎつけた。
石川県鳳島市という地方都市の弱みもあって、バイトに入ってくれるのは主婦と高校生がメイン。だが、一緒にトラブルを乗り越えた彼らは、頼りになる仲間でもある。だが、フルタイムで入れる人がいないという事実は、店長の良平に負担を強いることになる。それに追い打ちをかけるように、信頼できるスーパーバイザーも配置転換でいなくなってしまった。
自分独自の方法でコンビニを盛り上げようとするも、なかなか売上は伸びず、自社ブランドの新商品を売ろうとするSVとの確執も深まるばかり。そんなとき、とどめを刺す様に、バイトと客の間でトラブルが起こってしまう。
吹き荒れるバッシングの嵐に、売上は落ちる一方。しかも、信頼を築きつつあった周囲の店も離れて行ってしまう。このピンチを店長とバイトたちはどうやって乗り切るのか?
若干、ご都合主義を感じるところもあるが、コンビニを舞台とした青春物語が繰り広げられる。
俺のコンビニ
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東京でコンビニの雇われ店長になる予定だった牧水良平は、大手コンビニの本部と対立したオーナーが過労で倒れたことで、その将来を失ってしまう。
失意のままの帰郷。やる気をなくしてぶらぶらする彼の目に映ったのは、経営不振にあえぐ実家の商店と、近隣に進出してくることになった、良平の将来を奪った大手コンビニ。再び闘争心に火をつけられた良平は、実家をコンビニに改装することを決心する。
渋る母親を説得し、加盟するコンビニチェーンも決めた良平だが、若者がほとんどいない地元のため、バイト面接は難航する。ようやく決まったのは、本部からの斡旋で来た1人の経験者と、4人の高校生たち。彼らのコンビニ開店の奮闘が始まる。
大学生によるコンビニ立ち上げ物語なんだけれど、主にはバイト候補生たちの人間物語という雰囲気になっている。問題がある子を立ち直らせていったり、頑なな子を解きほぐしていったり、ようやくまとまってきたかなと思ったところで起きるカタルシス。
大手コンビニ本部に対する不満や、それを平然と受け入れる周囲に対するやるせなさみたいなものが当初にはあったはずなのだが、その感情はいつの間にか薄れていき、開店のための作業に忙殺されていく。それはとても現実的な反応だとは思いつつも、物語の構成としては尻すぼみ的な印象も受けた。この解決の代わりとなる出来事が盛り込まれるのだけれど、ある程度そのことは予想しつつも、流れから言うと唐突な印象を受けた。
もし続編があるのならば、今回積み残した部分に言及するような展開があっても良いと思う。
前作についても思ったけれど、クライマックス近辺まで一定の傾斜が続いて、突然最後でまとめに入るようなストーリー展開スタイルの気がする。
君に続く線路
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1930年頃、北の炭鉱山と麓を結ぶ路線があった。息吹山炭鉱線と呼ばれる急勾配のその路線には、途中、息吹山隧道(ずいどう)がある。息吹山保線区の保線手である所田三郎は、息吹山新線の工事監督という本来業務を差し置いて、隧道内の点検に来ていた。
そこにやってくる、一本の臨時列車。その列車が通り過ぎた後には、一人の少女が倒れていた。その少女、東雲櫻子は、政略結婚が嫌で父親とけんかになり、その後、偶然の事故で列車から投げ出されてしまったのだった。
旅客列車が来るまでの三日間、工事宿舎で暮らすことになった櫻子は、飯場を取り仕切るトメという女性の手伝いをすることになる。これまで自分が暮らしてきた世界との違いに戸惑いながらも、社会を構成する人にはそれぞれの役割があることに気づかされていく。
愚直なまでに自分の仕事に取り組む三郎と、世間知らずであることを自覚していく櫻子、そして、怪しげな行動をとるトメという三人が出会い、櫻子が変わっていく過程で、三郎自身も過去の呪縛から解き放たれていく。
一方で、櫻子の父親サイドでも、見合い相手の一族とのやり取りが描かれるのだが、こちらは冗長な部分と不足している部分があり、全体的に中途半端な気がしなくもない。わかりやすさという点で言えば、もっと徹底的にしても良かったと思う。
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