水沢黄平作品の書評/レビュー
ごめんねツーちゃん 1/14569
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「サンタはオフになにするの?」黛ツバサはそんな疑問を当たり前のように口にする高校生だ。彼女は記憶症候群という病気を抱え、完全記憶と、その弊害である14569の人格を持っていた。
イブは、14569の人格の中で無垢なツバサを守ろうとする、ただひとりの少女だった。
藍沢ナオが出会う、様々な人々。女の子たちをとっかえひっかえしながら、ツバサと共感する部分も持つ先輩、ユキムラ。そのユキムラに好意を寄せる織原真由美。ツバサの友人のハズキやホタル。そして、ワダツミトーコという、ツバサの中の強力な人格。
そういった人々と、幽かに触れ合うように関わりあいながら、決定的な別れへと物語は進んでいく。
全体的に淡く優しげな雰囲気があり、ひとつの恋愛未満の関係を軸としながら、その周囲の人々の関係と対比しつつ、ままならない人の心を描いている。ふんわり青春物語という印象を受けた。
ただ、特に後半は時系列が前後することが多く、時系列を把握しづらい部分も見受けられた。また、本作の雰囲気とは対極にありそうなよくある学園ものにありがちな展開は、存在がほのめかされながらもほとんどカットになっているのだが、それならば仄めかす必要はどこにあったのかという疑問も抱いた。短編集みたいな形で、別に刊行するのだろうか?
雰囲気の作り方は上手いと思うのだが、売れ筋の展開に対する未練も感じられ、どちらつかずの様な気がしなくもない。
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