水市恵作品の書評/レビュー

無作為抽出恋愛遊戯

誘導される恋心
評価:☆☆☆☆☆
 中高一貫校の中学三年生である愛須蒔也は、将来、自分は支配者になると考えている。周りの人間は、気づかずに意のままに操られるコマにすぎない。将来、他者を操る訓練のために考えたのが、乱数によって無作為に抽出された男子と女子を、互いの心理を操って、カップルにするというゲームだ。
 愛須蒔也がそのようなゲームを行っていると知っているのは、人間観察が趣味の高校一年生、浮島紅葉だけだ。彼女は彼のやり方を、ただ興味深く観察している。

 今回、ターゲットとして選ばれたのは、アイドルの王谷玲遠と、彼のファンの山原雛子だ。蒔也は、抜け駆け禁止を口実に互いを監視するファンクラブから雛子を切り離し、玲遠との接点を作ろうとする。
 そのうち、紅葉の友人で、高校からの編入組である小見里麦穂も、事情は知らされないながら、蒔也と関わるようになっていく。そして、幼馴染である飯泉芽依を通じて新たなターゲットと接触を図り、ゲームをクリアに向けて着実に進めていくのだ。

 やがて乱数の神は、小見里麦穂を次なるターゲットに選択する。

ドラゴンライズ (4) 長剣士と竜の嘘

嘘が真実に変わるとき
評価:☆☆☆☆★
 魔道師シェリー・モットレイは、竜王の封印を護っていた魔道師リサ・ガーティスと王宮警備隊隊長ハロルド・ガーティスことルゥ・ガーティスを退け、結界術師の才能あるカーネス・アルコットを利用して、竜王を復活させることに成功した。
 竜王が復活して天候を操り、しかし結界術を警戒して地上に降りてこないため、王都の戦力は有効に機能せず、竜王が起こす落雷で王都は大混乱に陥っていた。その情報を知った双剣士フレイクこと氷剣竜ゴーヴェドルは、ガルズムの拳闘士マッケルガーを失って落ち込む剣士ノラ・グライドの世話を魔道師アイ・グライドに任せ、カーネスを助けるために王都へと向かった。

 そして王都にたどり着いた氷剣竜ゴーヴェドルは、王宮警備隊チェルソ・ガルダーラに策略に利用され、カーネスの情報と引き替えに竜王と戦うことになる。一方、深く傷ついた劫火竜ウォーフィアは、その怪我を癒やすため、治癒専門の魔道師マリエル・ティリエを脅していた。

 シリーズ最終巻。いよいよ戦場は嘘の渦巻く王都へと移っていく。そこで利用されてしまうフレイクだが、最後の戦いは王都に取り残された、嘘を捨てた少女により、ノラの手へと託される。
 嘘が真実に変わる局面が二つほど描かれる訳だが、全編を通したテーマにするならば、もう少し分かりやすく描いた方が良かったようにも思う。

ドラゴンライズ (3) 王宮と竜の嘘

信頼を裏切る特権者たち
評価:☆☆☆☆★
 生まれ故郷から戦力を奪い、竜に滅ぼされる要因を作った王都に恨みを晴らすため、魔道師シェリー・モットレイは結界術師の卵であるカーネス・アルコットの力を利用して、王都に封印されている竜王を復活させる計画を立てた。
 劫火竜ウォーフィアと陰風竜シェルグーヴと手を結び、剣士ノラ・グライドと魔道師アイ・グライド、双剣士フレイクこと氷剣竜ゴーヴェドルに護られるカーネス・アルコットを拐かすために策を巡らす。結果、劫火竜ウォーフィアと陰風竜シェルグーヴに手傷を負わせることには成功したものの、カーネス・アルコットはシェリー・モットレイに連れ去られてしまった。

 ガルズムの拳闘士マッケルガーの協力を得て、剣士ノラ・グライドは妹との合流を目指す。しかし劫火竜ウォーフィアは地殻竜グルヴァーダを仲間に引き入れ、時間稼ぎをするのだった。

 王都を信頼するノラ・グライドだが、その高潔な精神は期待を裏切られる結果となってしまう。王都の内部では絶え間なく権力闘争が行われており、大陸最強の剣士といえども、その闘争の中では単なる人に引き戻されてしまうのだ。
 そんなわけで、大陸最強の剣士の噛ませ犬感が半端じゃない。やはり地方を切り捨てた中央を、作者的には許せなかったのかな?

ドラゴンライズ (2) 反逆者と竜の嘘

決意の意味と他者の思惑
評価:☆☆☆☆★
 結界術師の卵であるカーネス・アルコットを護衛する任務を王宮警備隊から引き継いだコーグスの剣士ノラ・グライドと魔道師アイ・グライドは、双剣士フレイクや氷剣竜ゴーヴェドル、カーネスの対竜結界の助力を得て、両親の仇である劫火竜ウォーフィアの右目に手傷を負わせ、退けることに成功した。
 しかし、カーネスを王宮に届けるまでは、再びウォーフィアが襲ってくることは覚悟しなければならない。馬車で王都に向かう途上で、シェリー・モットレイという凄腕の魔道師と知り合い、ウォーフィアの目を欺くため、ノラ&カーネス&ウォーフィア組とアイ&フレイク組に分かれて街道を進むことにするのだが、ウォーフィアも自分の傷を補うために、陰風竜シェルグーヴの協力を得ていたのだ。

 向かう途上に先回りされ、劫火の下に焼き払われる街々。その惨状が自分のせいで引き起こされること知り衝撃を受けるカーネスは、早く結界術師として一人前になって、竜を追い払えるようになりたいと願う。だがそれは…。

 展開は王道的なので、1巻と同様に驚きはないのだが、人間を障害物としか考えない大部分の竜と、人間大好きな竜という対立軸を設定し、かつ、その竜に好意を寄せる人間という構造を付与することで、単純な竜と人間の対立ではなく、様々な立場を乗せることに成功している。

ドラゴンライズ 双剣士と竜の嘘

種族を超える変わり者
評価:☆☆☆☆★
 高位の竜、劫火竜ウォーフィアと氷剣竜ゴーヴェドルを含む20以上の竜に襲われた町は、剣士グレー・グライドと魔道師サラ・グライドの犠牲を払い、何とか生き残った。氷剣竜ゴーヴェドルはいつの間にか消え、劫火竜ウォーフィアは深手を負って逃げ去った。その戦乱で傷ついたフレイクは、魔道師アイ・グライドに拾われ、その姉の剣士ノラ・グライドをリーダーとするギルドに入り、町を守る事となった。
 その町に、カーネス・アルコットという少女と、彼女を守る女魔道師が、三匹の中位の竜に追われて逃げ込んでくる。その竜を追い払ったグライドたちは、カーネスを王都へ連れて行く任務を引き継ぐことになるのだが…。

 いわゆる剣と魔法のファンタジーで、展開は冒頭から予想されるとおり。特に驚きは無い。

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