三上延作品の書評/レビュー

ビブリア古書堂の事件手帖 〜扉子と不思議な客人たち〜

評価:☆☆☆☆☆

ビブリア古書堂の事件手帖 (7) ~栞子さんと果てない舞台~

評価:☆☆☆☆☆

ビブリア古書堂の事件手帖 (6) ~栞子さんと巡るさだめ~

人類みな親戚
評価:☆☆☆☆☆
 太宰治の「晩年」を巡り、古書にまつわるドロドロとした人間関係が描かれる。人類みな親戚という感じ。

第一章「走れメロス」
 釈放された田中から、祖父の晩年を探して欲しいという依頼が届く。

第二章「駈込み訴え」
 田中の祖父も関わっていた、太宰の稀覯本盗難事件の真相を暴く。

第三章「晩年」
 栞子の祖母が修行していた古書店店主とその家族たち。そして意外な血縁が…。

ビブリア古書堂の事件手帖 (5) ~栞子さんと繋がりの時~

甘い誘惑
評価:☆☆☆☆☆
 篠川栞子に告白した五浦大輔だったが、五月の終わりまで返事を待って欲しいと言われる。その間の出来事が描かれる。

リチャード・ブローティガン「愛のゆくえ」
 告白の答えは?

「彷書月刊」
 ビブリア古書堂に年配の婦人から雑誌が持ち込まれる。ところが、近隣の古書店にも同じ人物が訪れ、一定期間後に同じ雑誌を買い取るという奇妙な行動を取っているらしい。その真意とは?

断章:小山清「落穂拾ひ・聖アンデルセン」
 彷書月刊にまつわる不思議の後日談。

手塚治虫「ブラック・ジャック」
 篠川栞子の友人で、古書店仲間の滝野蓮杖の妹である滝野リュウから依頼が持ち込まれる。部活の後輩の真壁菜名子の父親の蔵書である「ブラック・ジャック」の一部の巻が無くなったという。父親は同じ巻を何冊も持っていた。そこに秘められた青春の物語とは?

断章:小沼丹「黒いハンカチ」
 篠川智恵子への連絡手段が明らかに。

寺山修二「われに五月を」
 かつて篠川栞子に出入り禁止を言い渡された門野澄夫がやってくる。篠川智恵子から紹介されたという。急逝した兄が彼に本を遺したらしいのだが、これまでの行状が悪すぎたので遺族に信じてもらえず困っているという。本当は断りたいところなのだが、母からの依頼であるため仕方なく引き受けるのだが。

断章:木津豊太郎「詩集 普通の鶏」
 母からの二度目の誘惑。

ビブリア古書堂の事件手帖 (4) ~栞子さんと二つの顔~

残された思いを暴く心
評価:☆☆☆☆☆
 江戸川乱歩の著作がテーマとなっている。

 ビブリア古書堂に篠川智恵子を頼る客がやってくる。江戸川乱歩の蔵書を売る代わりに、謎を解いてほしいという。その謎とは、金庫の暗証文字を調べて欲しいというものだった。
 依頼者は来城慶子。故人である鹿山明の妾であり、鹿山が残した思いを受け取りたいという。そのためには、暗証文字を知ると共に、鹿山の息子から金庫の鍵を借り受けなければならない。

 その依頼を受けることにした篠川栞子は、五浦大輔と共に、鍵のありかを求めて鹿山邸を訪れる。そこには意外な人の人生が関わっていた。

 篠川智恵子が本格的に登場し、篠川栞子にアプローチをしてくる。篠川栞子と五浦大輔の関係にも変化の兆しが見え始める。

ビブリア古書堂の事件手帖 (3) ~栞子さんと消えない絆~

痕跡から浮かび上がる人物像
評価:☆☆☆☆☆
 北鎌倉駅ほど近くにあるビブリア古書堂の店長である篠川栞子に心惹かれた五浦大輔は、店員として勤めることになった。この店には、古書だけでなく、古書にまつわる相談も数多く持ちかけられる。
 普段は無口な栞子も、本のことになると途端に饒舌になり、本にまつわるわずかな手がかりから、驚きの真相を導き出してしまう女性となるのだった。


ロバート・F・ヤング「たんぽぽ娘」(集英社文庫)
 栞子の母である篠川智恵子を憎んでいるらしいヒトリ書房の井上太一郎から、栞子は古書を盗んだ疑いをかけられてしまった。現場は古書市場だ。
 栞子の幼なじみである滝野蓮杖のとりなしを受けつつ、消去法から彼女は真相に至ることになる。


「タヌキとワニと犬が出てくる、絵本みたいなの」
 坂口昌志の妻の坂口しのぶから、一冊の本を探して欲しいと言う依頼が舞い込む。しかし彼女は、その本のタイトルも作者も出版社すら覚えていないらしい。わずかに覚えているのは、断片的な内容だけ。
 その手がかりを求め、しのぶと彼女から依頼を受けた栞子たちは、絶縁中の彼女の実家に赴く。そこで明らかになる、言葉とは裏腹の親の想いとは?


宮澤賢治「春と修羅」(関根書店)
 篠川智恵子の同級生だと言う玉岡聡子から、盗まれた本を探して欲しいと言う依頼が入る。そこで栞子たちが見るのは、本に愛着を抱き、そのためならば他のものを犠牲に出来る人の姿だった。


「王さまのみみはロバのみみ」(ポプラ社)
 折々で見え隠れする母の痕跡を追い、そこから母に至る道を見出そうとしているかに見える栞子。そんな彼女の側にいる妹の篠川文香は、姉に秘密を隠し持っていた。

ビブリア古書堂の事件手帖 (2) 栞子さんと謎めく日常

秘密の扉を開くための手順
評価:☆☆☆☆☆
 色々あって、結局、ビブリア古書堂に再就職した五浦大輔は、店長の篠川栞子のもとで仕事を覚え始めていた。互いが互いのことを意識しているのは確実なのだけれど、特に関係が進展するということもない。
 そして今日も、本にまつわる謎がビブリア古書堂へと持ち込まれる。アントニィ・バージェス「時計仕掛けのオレンジ」(ハヤカワ文庫NV)の感想文を書いた小菅奈緒の妹・結衣についての謎。五浦大輔の昔の彼女である高坂晶穂の父が残した福田定一「名言随筆 サラリーマン」(六月社)にまつわる親の思い。査定中の本を置いたまま消えてしまった客が告げた、足塚不二雄「UTOPIA 最後の世界大戦」(鶴書房)に関する過去。そして、篠川栞子の母・篠川智恵子が残した坂口三千代「クラクラ日記」(文藝春秋)。

 前巻よりもこちらの方が、柱となるストーリーがある分、ずっと好みだ。本に魅了され、本を憎み、しかし本を捨てることもできず、普通の生活の方を犠牲にする。そんな、一般的な感覚から見れば異常な、しかし本好きには理解可能な考え方を持つヒロインを、比較的中立的な立場の主人公が追いかけることで、その奇妙な世界が徐々に明らかになっていく。
 そしてその過程の積み上げが、短編の構成とぴったり一致していて小気味よい。まあ、あざとすぎるという見方も出来なくはないけど。例えるならば、秘密の扉を開くために、主人公が順番に鍵を手に入れていくという様な演出なのだ。

 それにしても、自転車で何十キロも走りまわって本を買いに行くとか、あまりにも懐かし過ぎる感情だ。

ビブリア古書堂の事件手帖―栞子さんと奇妙な客人たち

本が取り持つ人と人
評価:☆☆☆☆☆
 北鎌倉駅のほど近くに、時代がかった古書店がある。ビブリア古書堂という名前の古書店だ。五浦大輔は、祖母の遺品の本を整理していた際に出て来た夏目漱石「漱石全集・新書版」第八巻(岩波書店)を持って、初めてその店に入った。
 応対に出たのは女子高生の篠川文香だ。万事大雑把な彼女は、入院中の姉・篠川栞子が鑑定をしてくれるからと言い、大鮒の病院の場所を教えてくれた。その入院先にいたのは、彼が一度だけ、高校時代に見かけた女性だった。

 幼少期の出来事がきっかけで、読書が好きなのに本を読めなくなった主人公が、書痴と読んでも良い美女と出会う。そしてその彼女は、彼が持ち込んだ本に残されたわずかな手がかりから、五浦家の隠された秘密を暴いていく。
 その結果、古書店で働くことになった大輔は、持ちこまれた古書を入院中の栞子のもとへと運び、古書に込められた物語を解き明かす手伝いをすることになる。

 今回登場する本は、前の本以外に、小山清「落穂拾ひ・聖アンデルセン」(新潮文庫)、ヴィノグラードフ・クジミン「論理学入門」(青木文庫)、太宰治「晩年」(砂小屋書房)。それぞれの本にまつわり、女子高生の想いや、紳士の悩み、蒐書狂の妄執など様々な物語が栞子により解き明かされていく、いわゆる安楽椅子探偵ものだ。
 要素に分解すれば、入院中の美女が謎を解き明かす展開だと上遠野浩平「しずるさんシリーズ」、過去の名作を底本としたミステリだと野村美月「文学少女シリーズ」などが類作として挙げられよう。

 普段は人見知りが激しくてほとんど話さないのに、本のことになると饒舌に語りだす栞子と、本好きなのに本を読めない、本好きを好きになるのに本好きには好かれない宿命を背負った大輔の生み出すもどかしい空気感と、それなのになぜかほとんど初めから大輔に好意を持っているらしい栞子の奇妙なアンバランスが魅力的だ。また、埋もれた名作を世に出す役割も担っていると思う。
 ただ、次巻以降、栞子と大輔の間にあった秘密が消えてしまうので、そのことが今の空気感にどんな影響を及ぼすかは疑問だ。

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