睦月貴作品の書評/レビュー

ラーナ神剣伝 III -聖女戴冠-

取り戻すための戦い
評価:☆☆☆☆★
 魔術師オファーラ・ゲルタ・アウリオラこと【黎明の七英雄】大魔術師ガライアンに弟子のナユ・アナッシャを拉致されたユオン・セナ・リ・デュナセリアは、反逆者ネイキス・フォン・タリゼ侯爵への対処を王女ソフィア・セムネ・ナム・オルカに託し、オファーラがいる王都へと向かった。
 一方、兄ネイキスとスケイル・ゼア・リヒト・オルカ公爵が殺し合うことを好まない近衛騎士レイラ・ミア・タリゼは、何とか兄に翻意を促したいと考えていた。しかし、父のガネスが戦線を離脱し裏切ったとの報が入り、途方に暮れてしまうのだった。

 ユオンのことを想う気持ちにつけ込まれ、ユオンと対立する道を選んだナユを取り戻すべく、単身、敵地へと乗り込んでいくユオンは、そこで彼岸の光景を見る。そこには、彼がかつて大切にしていた人の姿があったのだ。ユオンは過去と未来の選択を迫られることになる。
 一方、兄と恋人の狭間に揺れるレイラは、どちらを切り捨てることもなく、元通りの関係を取り戻したいと考えていた。しかしそれをあざ笑うように、事態はより複雑の度合いを増していく。

 突然開示される設定や、いまいち丁寧に心理描写を描き切れていないところはもったいないが、ひとまず完結と言うことらしい。正直、はっきりしない部分は残った気がするけれど。


ラーナ神剣伝 II -銀煌の円舞曲-

大切な者は側に置け
評価:☆☆☆☆☆
 剣士ユオン・セナ・リ・デュナセリアとその弟子のナユ・アナッシャは、オルカ王国の内乱において、正当王位継承者であるソフィア・セムネ・ナム・オルカに味方することとなった。反乱の首謀者はソフィアの近衛騎士レイラ・ミア・タリゼの兄にしてオルカの双璧と称されるネイキス・フォン・タリゼ侯爵だ。そしてその背後には、神代の時代から生きているという、ユオンにも因縁の深い魔術師オファーラ・ゲルタ・アウリオラがいる。
 もうひとりのオルカの双璧スケイル・ゼア・リヒト・オルカ公爵の行方と、兄の真意を確かめるため、敵陣への潜入を試みるレイラを助けるユオンとナユだったが、混乱の果て、ユオンと離れ離れになったナユは、たった一人でオファーラに対することを迫られる。

 子どもの頃に命を助けられ、これまで自分を鍛え上げてくれた師匠に対し、対等と認められ、必要とされたいと願うナユは、彼女を大切に思うが故に来県から遠ざけようとするユオンの意向に反し、逆に自ら渦中へと飛び込んでゆく。その痛々しいまでの決意と危うさは、見ていてハラハラさせられる。
 ユオンは、ナユの実力を認めつつも、やはり彼女を、危険の中心である自ら離れさせようとし、逆に彼女を危険にさらしてしまうのだ。何度同じ失敗をしても学ぶことができない愚かさと、それを取り返せてしまうのではないかと思わせる圧倒的な実力が彼の魅力だろう。

 ユオンを敵視するオファーラに狙われたナユの運命や如何に?

ラーナ神剣伝-放浪剣士と紅の弟子-

戦場で人を殺すことと、それで人を守ること
評価:☆☆☆☆★
 流浪の剣士ユオン・セナ・リ・デュナセリアとその弟子であるナユ・アナッシャは、伝説の七英雄の末裔であるオルカ王国王女ソフィア・セムネ・ナム・オルカと、その近衛騎士レイラ・ミア・タリゼリアーネ・インスファットが襲われているところを助ける。父王が魔術師オファーラ・ゲルタ・アウリオラを筆頭とする臣下に弑逆されて逃げていたのだ。
 実はソフィアとは過去に知己を得ていたユオンは、彼女を無事に親王派の拠点に送り届け、彼女を王城へと帰す約束をする。ユオンは、救国の英雄・白銀の守り刀の二つ名を持つ、隣国の王弟だったのだ。

 貴種流離譚の亜種の形式を持ったファンタジー。神話時代には魔術師も多くいたが現在は廃れ、白兵戦が戦闘の主流になっている。その中にあって、七英雄の末裔たちは、神の名残の力を受け継いでいる。
 圧倒的な個人戦力を持ちながら、それでも大切な人を守れなかった過去を持つがゆえに、誰かを守りたいという願望を強く持っている主人公と、彼に助けられたヒロインたちのその後の生き方を描いている。

 新書サイズのレーベルなどでよく繰り広げられる正統派のファンタジーであり、次巻以降への伏線も張りつつ、今巻でも見せ場を作って盛り上げている。逆に言えば、何か新味があるというわけでもない。思い悩む主人公の、安心できるファンタジーを読みたいという人にはオススメかもしれない。

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