武蔵野司作品の書評/レビュー

生徒会に行きましょう!! (1) 私に清き一票を入れなさい

女性首相に、わたしはなる!
評価:☆☆☆★★
 幕張渚の夢は、幼なじみの秋葉千鶴を初の女性総理大臣にすること。彼らの原点は、政治家だった千鶴の叔父・新町雅人の生き様だろう。その夢の実現のために、かつての有力政治家・稲毛雅夫が新しい政治家を育てるために設立した私立八重洲高等学校に、もう一人の幼なじみの塩見みなとと共に入学した。
 しかし、校内にかつての理想はなく、そこは現実の政治のミニチュア。政治家の息子たちである自由生徒党の平井一也と生徒主義党の市川翔太が談合し、安定した二大政党制で利権をほしいままにしていた。

 ゴシップ誌と化した新聞部の中島櫻に乗せられ、学校内のことを何も調べずに勢いだけで既存政治勢力に宣戦布告してしまった千鶴をサポートすべく渚も努力するのだが、既存の権力基盤は強固で、そこから抜け出そうと思っても、仲間に不利益を及ぼすことを恐れて行動できない泥沼に、上級生たちは埋もれていた。
 そして出る杭は打たれるとばかりに、千鶴たちは自主退学に追い込まれそうになってしまう。

 リーダーに最も必要な要素は、目指すべきヴィジョンとそれを実現しようとする行動力だと思う。その点で、千鶴には行動力はあるがヴィジョンがない。総理大臣になるという手段が目的化しているという、政治家にしたら最低な種類の人間という気がする。それがヒロインなのだからがっかりだ。
 そんな訳で、担がれる政治家には不満だらけ。それなのに、秘書役の渚は冷静沈着な参謀タイプに描かれているところが奇妙。どうしても男の子の方を上位に置きたかったの?と思ってしまう。彼が千鶴に心酔する動機が曖昧すぎる。あえてそれに名づけるなら、好意でしかないだろう。

 政治家は職業であるべきではない。職業にすれば、生活のために政治を行う人間が出ることを防ぐことができない。それに、民主主義の根幹を描こうとしているはずなのに、その主体であるはずの民衆が描かれないのも疑問だ。悪い権力者と、それに対抗する新勢力という紋切り型では、現代政治の病巣に切り込むことが出来ないのは、現実の政治家とマスコミの関係を見れば想像がつくこと。
 中途半端な覚悟で政治ものに突っ込むのなら、それはより政治離れを起こさせる結果にしか結び付かないと思う。少なくとも、作者の理念を見せて欲しい。それは、この学園を設立した学園長にも言えることだが。彼は現状に何も疑問を抱かないのか?

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