森田陽一作品の書評/レビュー

双子と幼なじみの四人殺し (4)

内輪の争い
評価:☆☆☆☆★
 二年前の殺人事件が新山一縷と新山朽縷の共謀ではなく、朽縷の単独犯であったことを、菱川迷悟に一縷は暴露してしまった。そのことを朽縷に知られ、彼らの三人での生活は崩壊の時を迎える。
 バラバラになった状況を利用し、保健医の三川ミミは朽縷に接近、一縷と徹底的に争うように唆す。一方、一縷の許には菱川一途が接近し、迷悟に相応しいのは朽縷ではなく一縷であると、朽縷を排除するように仕向けるのだった。だがそんな状況にあって吉崎善果や胡桃沢美貴からの忠告にも拘わらず、迷悟は何も出来ず何も選べないでいた。

 シリーズ最終巻。最後は内輪もめという形になった。

双子と幼なじみの四人殺し (3)

絆の解れるとき
評価:☆☆☆☆★
 菱川迷悟は、新山一縷と新山朽縷を叔母の石上放歌が経営する旅館への旅行に誘った。何もないからつまらないと言っていた割に、楽しそうに海で泳いだりする一縷と朽縷だったが、そのビーチに保健医の三川ミミと生徒の吉崎善果がいたことできな臭いものを感じ出す。
 彼女たちは知らないことではあるが、元々この旅行には久保園秤に化けていた菱川一途の意図が隠されていた。旅行先にこの場所を選んだのは、一途に指示された迷悟なのだ。

 そして宿泊先の旅館で、海沼益のバラバラ死体を迷悟が発見し、彼らのいびつな共生関係は、突如として崩壊の危機を迎える。

 少なくともワイダニットのミステリーにはなり得ないのに、主人公の鈍感さが生むエアポケットを利用して話を組み立てている。ゆえに、犯人を暴くのではなく、その課程で巻き起こる混乱が物語の中心だ。  そしてその結果、三人の家族としての関係は、あっさりと崩壊することになる。
 全然関係ないけれど、日本では重婚は犯罪だけど、運用的にハーレムを築くことは不可能じゃないなと思った。要は子どもが生まれそうなときだけ、結婚してれば良いんじゃない?まあいまは、非嫡出子も嫡出子と同等の法的権利を持つから、益々、やりやすくなってるだろうけれど。

双子と幼なじみの四人殺し (2)

違う様に見えて一緒の異常さ
評価:☆☆☆☆★
 菱川迷悟と、新山一縷・新山朽縷の双子は、同じ家に暮らす幼なじみだが、ある重大な秘密を共有している。それは、一縷と朽縷が彼らの両親と迷悟の両親を自殺に見せかけて殺したということ。その動機は、思春期の少女らしい潔癖さによるものだったが、結果は重大だった。
 しかし、彼らの犯行は表沙汰にされず、その事実を知るのは、学校中に監視カメラを仕掛ける保健医の三川ミミなどごく少数だ。だが殺人者は殺人者を呼び寄せるのか、胡桃沢美貴と清水彦、吉崎善果に関わる殺人事件を解決することになった。

 そして再び学校で大量殺人事件が起こり、先の事件の関係者の一人、胡桃沢美貴が、人知れずその犯人に拉致監禁されてしまう。彼女とよくメールをする一縷は不信には思うが、朽縷が事件ではないというので特に騒がない。
 しかし何かきな臭い。そんな印象を迷悟が持ち始めた頃、一縷と朽縷の周りに、千歳泉というテニス部の先輩と、怪しい気配を持つ久保園秤という先輩が、時を前後して現れるようになる。

 前巻の異常ぶりを引き継ぎ、今巻ものっけから流血の嵐が吹き荒れる。しかし今回のメインヒロインは、一縷と朽縷ではない。彼女たちが暴れるより先に、事件はうやむやに消え去ってしまうことになるのだ。
 そんな物語におけるヒロインは、事件の犯人と、その犯人に拉致された胡桃沢美貴かもしれない。そして結末には、事件の動機が明かされることになるのだが…。

 正統派ミステリー風だとミミに思わせておいて、かなりご都合主義なミステリー風作品であることが暴露される構成となっている。
 前巻の流れを引き継ぐならば、三人の間に流れる異常な愛情的なものをもっとねちっこく描いて欲しかった気もする。まあその分は、他の異常な愛情がカバーしているということなのでしょうけれど。

双子と幼なじみの四人殺し

危ういのに確かな絆
評価:☆☆☆☆★
 高校生の菱川迷悟は、幼なじみの新山一縷と新山朽縷の双子と同居をしていた。一縷と朽縷は迷悟を、迷悟は一縷と朽縷を好きな、一見すると完全に良好な関係だ。だがその関係には生涯隠し通さなければならない秘密があった。
 そんな彼らの学校にいるいい加減な保健医の三川は、ただの保険医の女性ではなかった。学校中に監視カメラを仕掛け、おもしろいネタを探すという趣味を持っていた。そして彼女は、胡桃沢という校内アイドルに関する騒動のにおいをかぎつけることになる。それには、迷悟や一縷、朽縷も関わることになるのだ。

 お互いを好きな高校生が、一つ屋根の下で暮らしている。甘い、軽やかな、賑々しく幸せな空気が物語に漂うものと思いきや、どこかに陰を感じずにはいられない。それは、彼らの関係に呪いがかけられているからだろう。もはや誰にも解きようのないその呪いは、物語の後半で明らかになる。
 しかし、そんな呪いを乗り越えて、何とか幸せになる形を探し求めてさまよい歩く貪欲さがすさまじい。それはあらゆる障害を力で吹き飛ばし、幸運を手元にたぐり寄せようとするかに思える行為だ。だが結局それは寸前で断ち切られ、また新たな形を求めて試行錯誤を繰り返しているかに思える。

 いくつかの前提が崩れただけで、彼らの生活は一変してしまうだろう。そんな危うい綱の上で、まるで何もないように共同生活を送る奇妙さに、不思議な気分にさせられる。

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