森橋ビンゴ作品の書評/レビュー

この恋と、その未来。 ―三年目 そして―

評価:☆☆☆☆☆


この恋と、その未来。 ―二年目 秋冬―

評価:☆☆☆☆☆


この恋と、その未来。 -二年目 春夏-

評価:☆☆☆☆☆


この恋と、その未来。 -一年目 冬-

評価:☆☆☆☆☆


この恋と、その未来。 -一年目 夏秋-

評価:☆☆☆☆☆


この恋と、その未来。 -一年目 春-

評価:☆☆☆☆☆


東雲侑子は全ての小説をあいしつづける

愛と進路
評価:☆☆☆☆☆
 東雲侑子と本当の恋人になり、三年生になった三並英太は進路のことで悩みを抱えていた。彼女は大学に進学することを決めており、かつ、作家の西園幽子でもあるという特別な存在。翻って自分は、兄の三並景介に劣等感を抱き、その彼女の有美に恋をしてグダグダしていただけの、何もない高校生に過ぎない。どうすればずっと彼女の側にいることが出来るのか、その問いが頭の中で燻っている。
 彼女との仲は順調だ。合間合間に二人で出掛けては楽しく過ごしている。出会ったばかりの頃の東雲侑子を思えば、今の三並英太との関係は、どこにでもいる彼氏彼女と言って差し支えないだろう。そんな彼女に振り回されるひとつひとつに、幸せを感じて仕方がない。

 だからこそ、ずっと一緒にいるだけでは、彼女のためにならない気がする。平凡な男では、いつ捨てられてもおかしくない。そんな悩みを抱える三並英太には、様々な恋愛相談が持ちかけられるようになった。
 教育実習生の桐山に告白されたという喜多川絵夢。後輩に恋に落ちたという副島ユカ。パン屋の店主にほのかな想いを寄せる司書の椎名。有賀と上田という二人の男との関係に悩む遠藤律子。そんな他人の恋愛事情は、三並英太にも、そして東雲侑子にも、確実に影響を与えていた。

 その果てに、三並英太はひとつの決断を下す。それが自分の、何より彼女のためになるという核心を持って下す決断。それは、幸せの中にある高校生二人に、どんな未来をもたらすのか。

 特にライトノベルという型にこだわらなくとも、高校生の恋愛ものとして面白ければそれで良いと思う。シリーズ最終巻。ちょっと有川浩っぽい。

東雲侑子は恋愛小説をあいしはじめる

どうやって伝えるか
評価:☆☆☆☆☆
 三並英太は東雲侑子と“付き合って”いる。元々は、西園幽子という作家が東雲侑子だと気づいた三並英太が、短編小説しか書けないという彼女のために、その作風を広げるための仮想彼氏として付き合い始めたのがきっかけだ。紆余曲折の末、彼らは一応付き合っていることになっているはずだが、実は互いにその思いを口にしたことはない。
 そんなある日、クラスメイトの喜多川絵夢に、東雲侑子が小説家だと言うことを知られてしまう。そして喜多川絵夢は東雲侑子に演劇の脚本を書いて欲しいと依頼する。

 一方、三並家でもトラブルが発生していた。兄の景介とその彼女である有美の関係がこじれている。景介が他の女と会っていたことが原因らしい。そのうち、いつも家に来ていた有美が、家に寄りつかなくなってしまう。
 そして三並英太と東雲侑子の関係も、小説や脚本の進行の遅れの影響もあり、徐々に疎遠になってきていた。そこに、三並英太は喜多川絵夢からの告白を受けてしまう。

 言葉にしなければ伝わらない。でも全てを言葉にすれば良いというものではない。後者の姿勢を持つ人が相手の場合、その行動に不安を抱いてしまうことも多い。特にそれが好きな人であれば尚更だ。不安が不信を呼ぶようになれば、どれほど強固だった関係も、たやすく壊れてしまう。
 だからこそ、その前に適切にケアをしなければならない。それをどんな形でするかはセンスだろうし、それによって相手を惹き付ける度合いも変わるのだろう。その意味で、景介らが取った行動は、当事者にとってはとても心に響く行動だったと思う。

東雲侑子は短編小説をあいしている

緩やかに変わる心
評価:☆☆☆☆☆
 三並英太は高校生にして人生に熱を失っていた。その理由のひとつは彼の家にいる。兄・景介の彼女である有美だ。英太が小学生のころから家に出入りしていた彼女に密かに恋をし、そしてその時点から失恋をしていた。そんな経験が、彼から熱を奪ってしまったのだと思う。
 そんな英太が図書委員をやっている理由、それは図書委員が一番楽だからだ。クラブ活動が義務付けられている学校で、図書委員をやっていればクラブに入らなくてもよい。そして図書委員は、週二回の窓口業務をこなせば良かった。

 図書委員における彼のパートナーの東雲侑子は、いつも黙々と本を読んでいる。窓口でも、教室でも、帰宅時の路上でもだ。ある日、英太は彼女が西園幽子という名前で小説家デビューしていることを知る。
 英太があるお願いをしたことから、その見返りに、彼女の取材活動の一環として付き合っているふりをすることになった。一緒に帰ったり、デートに行ったり、家に遊びに呼んだりしているうちに、彼は自分の心が変化していることに気づく。これまで無意識に避けていた有美に、普通に接しられる様になったのだ。

 激しく何かが変化するのではなく、静かに、密やかに、自分でも気づかない間に変化していく心が物語の中心にある。その変化を、章ごとに差し込まれる西園幽子の短編「ロミエマリガナの開かれた世界」が表現している。
 英太が侑子に魅かれるのは分からなくもないが、一方で侑子が英太に魅かれる理由が今のところ明らかになっていない気がする。そのあたりをフォローしつつ、次巻を楽しみにしたい。

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