物草純平作品の書評/レビュー

終奏のリフレイン

評価:☆☆☆☆☆


超飽和セカンドブレイヴズ ―勇者失格の少年―

評価:☆☆☆☆☆


ミス・ファーブルの蟲ノ荒園 (4)

旧大陸最後の戦い
評価:☆☆☆☆☆
 ブリュム・ド・シャルールのパリにおける最終作戦が開始された。ジャンヌ=アンリエット・カジミール・ファーブルとクロエ・エマニュエル・ド・ラ・ロシュジャクランはマルティナ・ロセリーニを取り戻すため、秋津慧太郎は薬丸自顕流を操るクリザリッドに借りを返し平和を守るため、戦いを挑む。

ミス・ファーブルの蟲ノ荒園 (3)

パリの剣聖たち
評価:☆☆☆☆☆
 聖カトリーヌ学園聖歌隊は、パリ公演に出発することになった。ジャンヌ=アンリエット・カジミール・ファーブルやクロエ・エマニュエル・ド・ラ・ロシュジャクラン、マルティナ・ロセリーニらの世話係としてついていくことになった秋津慧太郎は、車中でノエという少女と出会う。
 公演の合間、秋津慧太郎の左目の蟲の秘密を探るべく、アンリ・ファーブルの知人であるダーウィンの滞在するパリ大学を訪れた二人は、裸蟲(ミルメコレオ)のテロ組織であるブリュム・ド・シャルールの情報提供者を捕らえに来たエルネスト・オージェ・ド・ラ・ボーメスニル少佐と、それを監視していた私立探偵のフランソワ・ヴィドックに再開する。

 突然の逮捕劇の現場に、ブリュム・ド・シャルールの幹部である七星(コキシネル)のミハイールと雪蘭が推参、秋津慧太郎の振るう無垢嬢矩安の示現流と衝突することになってしまう。
 一方、クロエのもとには、婚約者を名乗る大富豪の青年アルテュール・リグワールが訪れていた。

 秋津慧太郎があり得ざる四人目かどうかを確かめるために、三蟲士(レ・トロワ・ムスクテール)の一人であるクリザリッドが訪れる時、彼の振るう業突丸重近の薬丸自顕流と、秋津慧太郎の剣が衝突する。

ミス・ファーブルの蟲ノ荒園 (2)

苦渋の決断
評価:☆☆☆☆☆
 開国した日本から欧州に渡る客船で裸蟲(ミルメコレオ)に襲われ、客船襲撃の容疑者とされてしまった秋津慧太郎は、蟲(ギヴル)好きの魔術師ジャンヌ=アンリエット・カジミール・ファーブルの勧めで、女装して聖カトリーヌ学園に入学した。頼れるのはジャンヌと腰に帯びる無垢嬢矩安だけだ。
 魔術の効果でほとんど疑われることもなく秘密の花園生活を過ごす慧太郎は、級長で騎士を目指すクロエ・エマニュエル・ド・ラ・ロシュジャクランと仲良くなるのだが、共に出かけた街でトラブルに巻き込まれる。

 転落して来た青年ヤニック・アルノーを助けようとしたら彼を殺そうとする死神とあだ名される裸蟲(ミルメコレオ)に襲われ、さらには彼の持つ魔本を狙ってヴァチカンの秘密部隊「ゲオルギウスの剣」の聖騎士ヴァレリオ・ベルスコーニと対立することになってしまったのだ。
 同級生で魔的なほど鮮烈な声を持つマルティナ・ロセリーニや私立探偵のフランソワ・ヴィドックも事件に加わり、彼らは厳しい決断を迫られることになる。

ミス・ファーブルの蟲ノ荒園(アルマス・ギヴル)

蟲にまつわる少女と少年
評価:☆☆☆☆★
 蟲(ギヴル)の侵攻を受け、ようやく開国を決意した日本は薩摩から、一人の少年が海を渡った。無垢嬢矩安を帯刀した彼の名は秋津慧太郎、見た目は少女のような長髪の優男だ。ところが、乗っていた客船が襲撃を受け、瀕死の男から託された、蜻蛉を封じた琥珀と共に海に落ちてしまう。
 流れ着いたフランス・ブルターニュ地方のフィニステール県をさまよい歩いていた秋津慧太郎は、巨大なダンゴムシの蟲と戦っている魔術師の少女ジャンヌ=アンリエット・カジミール・ファーブルと出会う。彼女に拾われた秋津慧太郎は、客船襲撃の容疑者として手配されていることを知り、アンリの提案で女装して聖カトリーヌ学園に転入して疑いを晴らすことになってしまう。

 級長のクロエ・エマニュエル・ド・ラ・ロシュジャクランから親切にされ、学園内ではアンリが他人を避けて暮している現状を知った慧太郎は、自身が異国へ来ている理由と重ね合わせ、アンリと衝突してしまうのだった。
 マルティナ・ロセリーニなどの影の協力もありながら、衝突しながらも仲直りを繰り返し、次第に仲を深めていくアンリと慧太郎は、私立探偵のフランソワ・ヴィドックの情報から、客船襲撃犯が蟲に寄生された人間である裸蟲(ミルメコレオ)のテロ組織であるブリュム・ド・シャルールと知る。彼らに対する弾圧の歴史を知り、自分の恨みと正義の乖離に悩みを覚えつつ、彼らの目的を阻止するために動き出す。

スクリューマン&フェアリーロリポップス (2)

覚悟に求められる代償
評価:☆☆☆☆☆
 長らく“ネジの悲鳴”に悩まされ無気力に生きてきた玖堂卓巳は、妖精郷(ティル・ナ・ノーグ)に住む翅族(アルフ)の王女であるロロット・ニエンテ・アートレイアからのキスを授かり、妖精使い(チェンジリング)となった。彼の能力は《矮小鬼工の職人団》という、小人たちを使役してあらゆるものを作り上げることが出来るという、例のないものだ。
 しかしその能力よりも問題なのは、ロロットが授けたキスは“比翼の騎士”という、人間が翅族に至る道を開くという特別なものであることだ。停滞し人間界との接触を嫌う妖精郷の有り様を変える起爆剤として悪を任じるロロットは、保守派のイグレンシア・ジュネビス・マカルパインの騎士《氾濫せし暴れ馬》アルマン・レイニードに命を狙われ、辛くも事態を収めることに成功した。

 そして、妖精郷各国のサミットが開催される予定の羽々根市に住み、改革派の実績を上げようとするロロットは、《菓子好きの誘い火》真崎燎と共に、玖堂卓巳の学校に転入することになった。燎は卓巳と同じクラスに転入してクラスメイトの深遙綾子に急接近され、ロロットは卓巳の妹の玖堂優乃のクラスに転入し、兄を渡すまいとする優乃と熱戦を繰り広げ、かつ、優乃の友人の佐伯ネアラと冷戦を繰り広げることになる。
 一方、王女と比翼の騎士に興味を持つ妖精郷各勢力は、妖精使いを羽々根市に次々送り込んでいた。そのうち、イングヴェイ・アラカスールとシャノン・ウィネカーが思慮浅くもハイジャックを引き起こしてしまったため、卓巳と燎はその収拾に奔走することになる。その間、留守番をしていたロロットは、自宅の屋根裏の隠し部屋を発見し、そこに緒原ラステルという少女が住んでいることを発見するのだった。

 今回は、無気力だった兄の変化に気づいた妹が、その変化を引き起こした少女に嫉妬し勝負を挑むという日常パートと、エリオット・キルガーロンら妖精使いとの戦いという非日常パートに分かれ、それがロロットや卓巳、ネアラをコアとして混じり合っていく様を描いている。日常と非日常が部分集合の構造となっているのだ。
 あちらとこちらで順調に世界観を拡張しつつ、新キャラを登場させて既存キャラの深掘りもしつつ、色々と盛り上がってきている印象を受ける。

スクリューマン&フェアリーロリポップス

疾走するエネルギー
評価:☆☆☆☆☆
 玖堂卓巳は幼少の頃の出来事がきっかけで、機械に触れると「ネジの悲鳴」を聞くようになった。もちろんそれは幻聴なのだが、機械という機械があまりに不完全で、それを締め付けるネジが軋んで悲鳴をあげているような錯覚に捕らわれるようになっていた。しかしその幻聴は、一人の少女との出会いで嘘のように消える。
 雨の日のバス停で隣に座った少女は、まるでピーターパンのような服装をして、彼との出会いを運命だというと、キスをしてきたのだ。彼女の背には、まるでティンカーベルのような、美しい翅が見えた気がした。

 そのまま走り去って消えてしまった彼女のことを思っていた彼の前に、アルマン・レイニードと名乗る紳士が現れる。アルマンは玖堂卓巳を「比翼の騎士」と言うと、水で象られた暴れ馬を嗾け、彼を襲ってきた。命からがら逃げ出した卓巳は、自分の周りにたくさんの小人たちがおり、彼らが何かを作り出す能力を持っていることに気づく。
 危ういところを現れた巨乳の少女の真崎燎に助けられ、案内された先には、彼にキスをした少女ロロット・ニエンテ・アートレイアがいた。彼女の説明によれば、彼女は妖精郷(ティル・ナ・ノーグ)という異世界から来た翅族(アルフ)であり、アルマンや燎は妖精使い(チェンジリング)という、アルフから祝福を受けて能力を発現させた人間だという。そして、卓巳も先日のキスが切っ掛けで、その能力「名づけられぬ不可思議なモノ―イット」を開花させていた。

 イグレンシア・ジュネビス・マカルパインの騎士《氾濫せし暴れ馬》アルマン・レイニード、ロロット・ニエンテ・アートレイアの従者《菓子好きの誘い火》真崎燎のように、玖堂卓巳のイットは《矮小鬼工の職人団》と名付けられた。そして彼は、アヴァロンの円卓十三翅族、王家の候補者たちのみが祝福を与えられる特別な妖精使い「比翼の騎士」になったと告げられる。
 だがその比翼の騎士はアルフから忌避される存在らしく、ミューニシア・マクネリーというアルフの手先の人間たちに、卓巳は狙われることになる。

 一言で言うと、疾走感のある物語だ。見た目は可愛らしいのだけれど、停滞を嫌う秩序の破壊者でもあり、自らの直感に従う情熱家でありながら、意外に思慮深く事を進める少女と、女流四段の将棋棋士を母に持ち、冷静な決断力と行動力を併せ持つ少年がであい、べたべたいちゃいちゃしながら、異世界の革命を目指して体制に挑むという、破天荒なファンタジーとなっている。
 決して緻密な構成というわけではないし、勢いでごまかしている展開もあるのだが、とにかく疾走感が小気味良いので、個人的にはそれは粗ではなく美点のようにも感じている。続巻に期待が持てる作品だ。

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