本岡冬成作品の書評/レビュー

黄昏世界の絶対逃走 (2)

逃走以外の結末も見たい
評価:☆☆☆☆★
 黄昏のない世界と黄昏世界の境界線上で公共黄昏検疫局に勤務するシズマの仕事は、黄昏で死んだ人々を回収し埋葬することだ。ときには研究所の依頼で検体を集めたりもする。
 そんなシズマの生きがいは、妹のアオイに立派に成長してもらうこと。二人だけで暮らすその暮らし向きは楽とは言えないが、幸せな日々を送っていた。

 だがその日々は、シズマが仕事中にトワという少女を拾ったことから変わり始める。その少女は、アオイと瓜二つの姿をしていたのだ。見捨てることもできずに一緒に暮らすことになったトワは、これまでシズマとアオイが必死に蓋をしてきた想いを解き放たせることになる。

 まあなかなかしんどい話。でもこのしんどさの果てに何を描こうとしているかふわっと微妙な感じもする。

あそびの時間 暗黒遊戯昇天編

近道ではなく寄り道で
評価:☆☆☆☆★
 5年前にゲームセンターでボコボコに負けたことでゲーム嫌いとなった高校生の小鳥遊優征は、ゲームセンター「ミッドドリーム」通称ミドリの店長の春夏冬七海と知り合いになりたくて、バイトをすることにした。しかし、ゲーム好きな常連とゲーム嫌いな優征には微妙な距離感が漂う。
 だが、先輩バイトのキミマロやドロシー・アロンドラン、見雪夜子らと関わることで、ゲームセンターがゲーム好きという一点でのみ交わる優しい空間であることに気づき、失われた時間を取り戻していく気分になるのだった。

 そんなある日、ミドリに飛び込み客のノラクロがが現れ挑戦状を叩き付ける。彼女は5年前、優征がボコられたゲームセンターで、ボコられる前に優征がボコっていた当時9歳の幼女だったのだ。

 一枚のコインを投入しないと遊べないけれど、一枚のコインを投入するだけで仲間になれる。そんなゲームセンターという空間で生まれる友情の形を描いている。そこには年齢も性別も社会的立場もなく、ただゲーム好きという要素のみで評価される世界だ。
 しかし、社会の中の一要素として存在するゲームセンターは、社会との接点の持ち方を誤れば、単にワンコインを失う以上のリスクを払わなければならないこともある。そんなリスクを背負うことで周囲の期待に応えようとする少女は、ゲームにかかわらず寄り添ってくれる存在を見つけ出すことで、新たな自分の在り方を見いだすことになるのだ。

 というわけで、主人公は少年のようでいて、せいぜい触媒程度の役にしか立っていないという…。

黄昏世界の絶対逃走 (2)

評価:


黄昏世界の絶対逃走

自分の力で取り戻す未来
評価:☆☆☆★★
 かつての戦争で使用された兵器は、後の世界に“黄昏”を残した。それは人々の心に少しずつ蓄積していき、ある時、人の心を殺していく。精神の死は肉体の死だ。
 そんな黄昏世界においても、黄昏と無縁な場所もある。一部の大都市は「黄昏の君」という装置で黄昏を取り除き、普通の生活をしている。

 カラスは黄昏世界から大都市へと移り住むことに成功した便利屋の少年だ。革命家を名乗るカヤハラからの依頼で、廃棄される黄昏の君を奪取することになったカラスは、それが少女であることを知る。その無表情の金髪の少女マリアは、どこか、彼がかつて失って諦めた幼馴染の少女の面影を宿していた。
 マリアをカヤハラに引き渡すために黄昏世界を旅するカラスは、そこで彼が諦めた過去の残滓と再会する。それは、黄昏世界に希望を求めて旅する人々の姿をしていた。

 黄昏という、個人の力では抗しようもない存在に未来を奪われた少年が、同じように過去を奪われた少女と出会い、そして未来を取り戻していくというお話。
 黄昏世界の様子は彼らの旅の中で描かれるのだが、むしろ大都市の中で平穏に暮らす人々を描くことで、その差異を際立たせるやり方もあったのではないだろうか。

ホーム
inserted by FC2 system