山口幸三郎作品の書評/レビュー

探偵・日暮旅人の望む物

戻る日常
評価:☆☆☆☆★
 見生美月の妄執は、日暮旅人の雪路照之への復讐を強要していた。爆弾テロリストに仕立て上げられつつある日暮旅人は、拉致された灯衣と陽子を救出するため、最後の戦いに挑む。
 シリーズ最終巻。

探偵・日暮旅人の笑い物

最後に向けての準備
評価:☆☆☆☆★
 日暮旅人の視力の低下が明らかになってきた。その来たるべき日を思い、日暮旅人は山川陽子に別れを告げる。それに対する彼女の答えとは?

探偵・日暮旅人の壊れ物

黒い旅人
評価:☆☆☆☆★
 日暮旅人が所長を務める探偵事務所を見城美月という美しい女性が訪ねてくる。彼女は旅人が中学生時代の生徒会長で、旅人と特別な交流があったらしい。見城美月は、山川陽子をやさしい目で見る日暮旅人を見て、そんな旅人は見たくなかったという捨て台詞と、自分の連絡先、そしてかつての旅人の養父であった甲斐義秀が危篤だという情報を残して去っていく。
 見城美月と再会した日暮旅人は、かつての暗さを取り戻しつつあった。一緒に仕事をする雪路雅彦には、そんな旅人が少し危うく怖い。そしてしばらくすると、旅人は百代灯衣を置き、事務所から姿を消してしまう。

ハレルヤ・ヴァンプ II

執念の奪還
評価:☆☆☆☆☆
 筐会の聖殲士(ナーバ)を養成する機関である森星学園神学部だった大道晴夜は、吸血鬼の始祖アルカテア・ディンケルホーファーと出会い、吸血鬼グリオ・ヘルツルに殺されかけたところを助けられ、テアの眷属となった。
 結果、エンマ・アズナブルはグリオに殺され、天草レオは手足をもぎ取られ、幼馴染のユウリは自閉し、チーコ・エンヴィスとは会えない立場に置かれてしまった。そして、吸血衝動を抑え込み、人間に戻ろうとする彼を監視するのは、生徒会長リライラ・ボーグ、副会長ジョイ・アイスマン、エスメラルダ、龍飛蕾のクルセイダーズだ。

 グリオ・ヘルツルの失敗を受け、始祖回収のため送り込まれたのは、真祖のインゴルフ・フォン・ピケ伯爵だ。人間を蔑視する彼は、学園を派手に巻き込んで、始祖を回収しようとする。
 そして学園長ローズ・ホルネイの前には、教会からピエルマルコ・ソルディーニという使者が訪れていた。介入の口実を与えないため、学園長は始祖を学園内に匿っていた事実を隠匿し、事態を沈静化させるという難しい舵取りを迫られていた。

 前巻でキャラを大量脱落させたかに思われたが、あらゆる裏技を駆使し、それを取り戻す展開に持ってきている。おかげでキャラ数激減ということは避けられたようだ。そして主人公は吸血鬼としての自覚を新たにし、彼の帰還をもっとも望む人間は、その渇望を利用されるようになる。次巻、舞台は海外へと移る。

探偵・日暮旅人の宝物

癒やされるためのはじまり
評価:☆☆☆☆☆
 両親の謀殺事件に対する決着をつけ、日暮旅人は改めて探偵として暮らし始めた。雪路雅彦や山川陽子、百代灯衣との関係もこれまで通りだ。
 そんな旅人が関わる、そしてこれまで関わってきた事件のいくつかがここに明らかにされる。

 シリーズを通す謎には決着をつけ、第2章として新シリーズが始まったという位置づけらしいが、前シリーズの補足的なエピソードもいくつか収録されている。
 そして今巻の最後では、何やら次巻の展開に不安を持たせる人物が登場する。その人物はどんな目的で探偵事務所を監視しているのだろう?

ハレルヤ・ヴァンプ

偽りと現実が生む悲哀
評価:☆☆☆☆★
 森星学園神学部は、筐会の聖殲士(ナーバ)を養成する機関だ。身寄りのない子どもたちを教会が集め、その子たちを教育して、吸血鬼と戦える人材に育て上げるのである。もちろん、生身の人間が吸血鬼と戦えるわけもない。教会から祝福を受けた子どもたちは、その身に聖獣(ヴィアツァ)を宿し、その聖獣を吸血鬼に立ち向かわせる。
 だが、誰でも祝福を受ければ聖獣を宿せるはずなのに、大道晴夜だけはそれが出来ない。それなのに、吸血鬼すら倒す聖獣の攻撃が全く効かないのだ。でも、それでは吸血鬼と戦う聖殲士にはなれない。それでも、幼なじみのユウリとの約束を守るため、天草レオ、エンマ・アズナブル、チーコ・エンヴィスらの幼なじみと共に、日々、生徒会長リライラ・ボーグの訓練に励んでいた。

 そんなある日、門限を破り外に出た晴夜たちは、吸血鬼グリオ・ヘルツルと遭遇してしまう。両親を吸血鬼に殺されたエンマが止めるのも聞かず飛びかかってしまい、ユウリとチーコ、そして傷ついたレオだけを逃がすことに成功した晴夜は、血を吸い殺されてしまう。
 次に目を覚ましたとき、彼が見たのは、以前、道案内をした少女アルカテア・ディンケルホーファーだった。実は真祖の始祖だという彼女は、他の吸血鬼から狙われる存在だという。彼女の眷属となった晴夜は、級友たちから命を狙われつつ、彼女を護ることになる。

 もう少し吸血鬼の存在を明らかにしてから、晴夜がテアと出会う構成にした方が、それまで教えられてきたことと現実のギャップをより明確に表現できたような気がする。今の状態だとそのギャップが実感を伴って分かりづらいため、単なるボーイ・ミーツ・ガールにとどまり、その影にある陰謀をあまり上手く示唆出来ていない印象を受けた。
 基本的に、かつての仲間たちと争う展開に持って行きたいのだとは思うが、最後、仲間になる人たちがそれまであまりに馴染みがなさ過ぎる人たちで、唐突感がありすぎるようにも思う。

探偵★日暮旅人の贈り物

長い旅路の果てに
評価:☆☆☆☆★
 日暮旅人が五感を視覚で代替する能力を得たのは、幼稚園の頃に誘拐され、ロストと名付けられた麻薬の人体実験に使われたからだ。そしてその原因は、父・日暮英一が、秘書を務めていた市長・雪路照之の不正を意図せず暴いてしまったからだ。そしれ彼は、事実隠ぺいのために、妻・璃子と共に事故死に見せかけて殺された。
 旅人を誘拐した犯人である白石警部は、突然目の前に現れ、自身の罪を知る旅人に恐れおののき、彼が大切にしていると思われる、娘の百代灯衣の幼稚園の先生にして、かつての幼なじみの山川陽子を誘拐し、旅人を誘い出そうとした。しかし、それを旅人の両親を殺害した犯人である暴力団の熊谷に横からさらわれ、逆に、白石警部の息子まで人質になってしまう。

 何かが動いていることを察した旅人の相棒である雪路雅彦と、彼に接触して来た増子すみれ警部補は、過去の事件の真相を記してあるという「山田手帳」を求めて探し歩く。

 シリーズ完結巻。ほぼ救いのない結末でびっくりした。旅人が元の暮らしをする決断をしたところは救いだが、両親の死の真相は白日の下にさらされず、犯人や黒幕たちは罪も問われずこれからも生きていき、そして旅人の異常は悪化する一途であることが明らかにされる。
 しかし、そこに至るまでの過程で、旅人がどれほどの要素を考慮に入れて身近な人間を集めていたのか、そしてその想いは一体どんなものだったのか、あらゆるポイントで想像する余地を残した結末と考えれば、それほど悪いものでもないのかもしれない。

 しかしやはり、分かりやすい救いがあった方が、フィクションとしては安心して楽しめるという気もする。

探偵・日暮旅人の忘れ物

目を閉じれば無いのと同じ
評価:☆☆☆☆☆
 視覚以外の五感を持たない代わりに、その他の感覚を視て補うことができる能力を持つ日暮旅人。彼のその能力は幼少期に巻き込まれた事件の後遺症であり、それが現在探偵として探し物をしている動機でもある。
 今回はいつものようにしんみりしたハートウォーミングなエピソードから始まって、目的実現のための道具の準備、雪路雅彦との出会い、そしてついに過去の事件の真相が明らかになる端緒までたどり着く。つまりは次巻へ続くということだが…。

 人生全てを歪められた旅人にとって、復讐をすることが生きる目的。しかしそれは、人との出会いで変わっていくこともできるはず。それなのにそのぬくもりは、旅人の肌には伝わらない。彼が目を閉じてしまえば、彼にはそれは存在しないことと同じなのだ。
 彼の目に復讐以外が映る日はやってくるのか?次巻が最終巻らしい。

探偵★日暮旅人の失くし物

旅人が見る人と人の絆の姿
評価:☆☆☆☆★
 視覚以外の五感を失った代わりに、その感覚を視覚で把握できる能力に目覚めている日暮旅人と、彼に関わる人々を描く物語。連作短編になっており、今回は「老舗の味」「死体の行方」「母の顔」「罪の匂い」を収録している。1本目と3本目は前巻の雰囲気に近いけれど、2本目と4本目は少し暴力の香りがする。
 老舗の味は街の小さな洋食屋に関わる、母の顔はシングルマザーに関わる、親と子の物語という共通点がある。また、死体の行方と罪の匂いには、友人同士の関係という共通点があると思う。こう考えると、人と人の関係がテーマと言えるかもしれない。

 旅人が彼の持つ能力を使って、物事の善悪・大きさにかかわらず解決していく過程で、彼が過去に出会った、五感を失くした事件にかかわる事実が少しずつ浮かび上がって来るという構成になっている。
 前巻よりアクションが多くなった印象があるので、前巻の雰囲気が特に好きだった人には少し違和感があるかもしれない。しかし、旅人が被害にあった事件に元々バイオレンスの要素がある様なので、今回の雰囲気がこの物語のデフォルトなのかもしれない。

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探偵★日暮旅人の探し物

他人のためには取り戻せるのに自分には取り戻せない大切なもの
評価:☆☆☆☆★
 日暮旅人は他の人に見えないものが見える。それは声であり匂いであり味であり感触である。彼は視覚以外の五感を失った代わりに、他の感覚を目で見ることが出来るのだ。彼はその能力を利用して、誰かの大切な探し物を見つける探偵をしている。
 彼の娘である百代灯衣が通う保育園の保育士である山川陽子は、ある日、子どもの頃から大切に持っているキーホルダーを失くしてしまう。そこから、旅人と彼の能力、そして彼が関わってきた事件を知っていくのだが、その先には彼女に関係のある事件も待っているようで、というお話。

 探偵ものだけれど、アクションもなければ、この巻では犯人すら登場しない。現れるのは、何かを大切にしてきた人と、その大切なものだけだ。旅人はその大切なものを大切に思う人の手に取り戻していく。
 また、ある意味では、保育士の日常を描く物語と言えるかも知れない。この、陽子が働き、灯衣が通う場所、というだけだと思っていた保育園が、旅人の目的にとっても重要なものになっていくのは意外だった。
 初めは短編で様々な事件が起きる物語だと思っていたのだけれど、何人かの依頼人が登場するのは確かながら、その背景には旅人と陽子に関わる過去の何かが横たわっている、長大な物語らしい。そしてその話は次に続く。

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神のまにまに! (3) 真曜お嬢様と神芝居

神様に振り回される人間の事情
評価:☆☆☆☆☆
 「神権」の提唱者である嵐ノ宮家のお嬢様、真曜とその執事続木が起こした神様の誘拐事件。嵐ノ宮家が神権に反したとあっては反神権団体の格好の的になってしまう。こっそりと事件の解決を命じられた人永は、真曜お嬢様の家庭教師として嵐ノ宮家に潜入する。ところが、高慢で我がままと思っていたお嬢様にも事情があって…。

 神様は圧倒的な力で自分の思うままに行動するから良いけれど、それに振り回される人間は力の差を強く感じざるを得ない。それに対して人間が身を守る方法は少ない。諦めて受け入れるか、笑ってごまかすか、開き直るか。まれには、無理を承知で力で対抗しようと思うものもいるかもしれない。  前2巻は神様側の事情に品部人永が振り回されるという展開だったけれど、今回は少し視点を変えて、神様に関わったことがある人間側から見たお話になっている。

 短編の「天啓」も掲載。

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神のまにまに! (2) 咲姫様の神芝居

悲恋モノでも描き方では笑いが起きる
評価:☆☆☆☆★
 男女の仲を裂くという信仰を持つ咲姫の、一種の悲恋物語ということが出来るはずなのだけれど、人永とヘッポコ様のやり取りが暗さを取り払ってしまうので、そんな雰囲気はなくなってしまう。構図的に言うと、この一人と一柱も咲姫と同じなんですけどね。
 今後の展開の持って行き方は色々あるという幅広さがあるのにも拘らず、もし同じパターンが何回も続くならば、飽きちゃうかもしんない。器用貧乏みたいな?

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神のまにまに! カグツチ様の神芝居

日本らしく人間くさい神様がいっぱい登場
評価:☆☆☆★★
 22年前、神様たちが人間の前に姿を現し「神権」を主張して社会にとけ込んだ日本。でも、人間にないがしろにされた神様たちは、もう疲れた!と宣言して姿を隠してしまった。以前と同じ世界に戻っただけと思った人間だったけれど、これまでは神様たちのご利益で豊作や豊漁が保証されていた土地で収穫が減りだした。
 困った政府は、文化庁の外郭団体として神様たちを説得するための機関を設立。その職員として、民間から一人の青年を採用した。彼は、何故か子供の頃から、頭の上にちんまい神様が鎮座ましましていたのだ。

 主人公である品部人永は、神様に好かれてしまったため、人間の女の人にもてない。でも代わりに、近づいてくる神様は美人ばかり。上司も美人で、キャラクターを前面に出した作品という感じなのだけれど、本当は人永のすごさも見せたいみたい。でも、それを描くあたりでは別のひとがもっと目立ってしまっているので、あんまり上手くいっていない感じ。キャラ重視で行くならそれでも良いかもだけど、人間と神様、どちらをプッシュするのか決めた方が良い気もする。

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