柳実冬貴作品の書評/レビュー

対魔導学園35試験小隊 5.百鬼の王

やり残した過去
評価:☆☆☆☆★
 草薙哮、西園寺うさぎ、杉波斑鳩、鳳桜花、《極光の魔女》二階堂マリの五人体制となった対魔導学園35試験小隊は、順調に取り締まりを執行しポイントを積み重ねていた。
 だが、そんな信頼関係を構築した隊員たちに、隊長のタケルは秘密を隠していた。それは妹の草薙キセキの存在だ。彼女はSS級危険指定の不確定古代属性「百鬼夜行」として、禁忌区画の最奥監獄で幽閉されているのだ。

 妹が異端審問会により幽閉されていると言うことは、タケルにとっては認めがたい状況でもある。同じような思いを抱えたことがある生徒会長の星白流は、そのことをついて、彼を反体制派へと勧誘する。
 一方、草薙キセキに対して人体実験を進める対魔導学園理事長の鳳颯月は、アルケミスト社の杉波朱雀と手を結び、更なる残虐な研究を行おうとしていた。そしてそれは、タケルに究極の選択を迫ることになる。

 そして物語は、魔導世界の真実へと突き進む。

対魔導学園35試験小隊 4. 愚者達の学園祭

壊される心
評価:☆☆☆★★
 進級に足りないポイントを獲得する必要に迫られている、草薙哮、西園寺うさぎ、杉波斑鳩、鳳桜花、《極光の魔女》二階堂マリが所属する対魔導学園35試験小隊にチャンスが訪れた。天明寺礼真が主導する魔女狩り祭という名の学園祭で稼いだお金は、ポイントに変換することができるのだ。
 浮かれ気分で盛り上がる学園だったが、その裏側では二つの事態が進展していた。ひとつは、西園寺うさぎが実家の都合で学校を辞めさせられ、天明寺礼真と政略結婚させられそうになっていたこと。もうひとつは、生徒会役員の泉堂静に連れられて行った先に潜む生徒会長の星白流から鳳桜花に語られた、メフィストという、他人の魂を乗っ取る魔女が学園に潜入しているということだ。

 何も知らない草薙哮は、目標に向けて女性陣に振り回されていたが、天明寺礼真に会う西園寺うさぎが怯えているのを見て、ようやく事態に気づき始める。

対魔導学園35試験小隊 3.錬金術師二人

巨乳の誘惑
評価:☆☆☆★★
 草薙哮、西園寺うさぎ、杉波斑鳩、鳳桜花が所属する対魔導学園35試験小隊は、進級のためのポイントが絶望的に不足していた。ポイント稼ぎのため、《極光の魔女》二階堂マリの情報を利用して、危険な「境界線」での任務を遂行しようと計画する。
 ところがそんなとき、メンバーの一人である杉波斑鳩が、対魔導学園理事長の鳳颯月に呼び出しを受ける。アルケミスト社のデザイナーズチャイルドである彼女は、アルケミスト社の第五研究所が画策しているという、エルフ復活計画に関与している疑いをかけられたのだ。

 その場はやり過ごしたものの、何か思うところがあった斑鳩は、小隊を一時抜け、アルケミスト社がある「境界線」へと向かう。そのことに気づいた草薙たちは、彼女を密かに追跡するのだった。だがそんな彼ら自身、理事寮の命を受けた鐵隼人の部下に尾行されていた。
 一方、アルケミスト社の第五研究所では、斑鳩にそっくりな杉波伊砂という少女が、幻想教団の死霊術師ホーンテッドと会合を持っていた。

対魔導学園35試験小隊 (2) 魔女争奪戦

貧乳投入
評価:☆☆☆★★
 多大な被害を出した英雄襲撃事件の最中に草薙哮が契約したレリックイーター《The Malleus Maleficarum Type-Twilight "Mistilteinn"》は、ラピスラズリという少女の形になって、タケルの妹ということで学園生活を過ごすことになった。鳳桜花や西園寺うさぎはそれが面白くなくて彼らが一緒にいることに反対するが、杉並斑鳩は構わず誘惑してしまえば良いと断言する。
 そんな微妙な雰囲気を壊すように《極光の魔女》二階堂マリがほとんどの記憶を失って学園に入学することになった。それを引き受けたのが第35試験小隊だ。出会った当初からマリと桜花はそりが合わず対立してしまい、タケルはその板挟みになって苦労することになる。

 そんな中、理事長の鳳颯月は、マリを囮として、幻想教団を引きずりだそうとしていた。そして対魔導捜査一課第零殲滅機動隊エクゼの隊長の鐵隼人を動員して、幻想教団敵地斥候部隊隊長の死霊術師ホーンテッドと魔導遺産ダーインスレイヴを生け捕りにしようとするのだった。

 大切なものを守るために利用された魔女と大切なものを守ることができなかった少年との出会い、魔女の犯罪を憎む少女と犯罪を犯さざるを得なかった魔女の少女との出会いを描く。
 ぽっと出のキャラクターがやられても特に何も感じないから、そこに何かを感じさせたいなら、捨て駒にするためのキャラを育てる努力も必要かもしれない。重いテーマなのに全体的に軽すぎる。

対魔導学園35試験小隊 (1) 英雄召喚

掌の上で踊る少年少女
評価:☆☆☆☆★
 「魔女狩り戦争」の災禍を経て、全ての魔女、幻想生物、魔導遺産は、法の下、異端審問会により管理されていた。その異端審問官を養成する対魔導学園の第35試験小隊は、通称雑魚小隊と呼ばれている。
 隊長の草薙タケルは、銃器による対魔が全盛の時代にあって剣に固執する変わり者。杉並斑鳩は整備の腕前は超一流だが、すぐに兵器を魔改造するので扱いづらい。西園寺うさぎは射撃の腕前は超一流だが、精神がもろくて実戦投入は難しい。そんな、他の生徒から蔑視されている小隊に理事長の鳳颯月の養子であり、《魔女狩り》の資格をはく奪された鳳桜花が加入する。

 法の下に裁きを与えなければならない容疑者に対して、独断専行して死をもたらすことから《紅蓮姫》と呼ばれて敬遠されていた鳳桜花は、とにかく他人となれ合うことを嫌う。何とか小隊の仲間として扱いたいタケルだったが、逆に彼女から、小隊メンバーの異端審問官としての適性の無さを糾弾されてしまうのだった。

 聖杯は求めないけれど英霊が召喚されたり、学園ラブコメしながら戦争したり、ツンツンしながらデレデレしたりする作品。

Re: バカは世界を救えるか? (5)

心を折る真実
評価:☆☆☆★★
 幼なじみの浅野広美を奪われ怒りに燃える佐藤光一の前に現れた、木漏れ日現象を起こした元凶。それは木漏れ日現象が始まった世界の佐藤光一だった。彼はアルカナから「導きし者」を奪って真実を知り、その悲劇を回避するために56億の世界で悲劇を繰り返して来たという。
 元凶の佐藤光一に消されたアルカナが残してくれた最後の希望「堕天教典」を託された佐藤光一だが、真実を知ったいま、アルルを守り世界を救うという心意気はほとんど折れかけていた。そんな男の子に勇気を与えるのは女の子の役目。間宮薫がとった行動とは…?

 他者の奇蹟の劣化コピーという貧弱なネメシスを用いて全ての世界とアルルを救うという約束をした少年が、挫折と絶望を繰り返しながらやり遂げるというお話。しかしハーレムエンドを許さない女の子たちとの戦いは続く。

Re: バカは世界を救えるか? (4)

本物のヒーローとしての目覚め
評価:☆☆☆☆★
 もうすぐクリスマスイブ。周囲が浮かれたり嫉妬に駆られたりする中、佐藤光一は調子が悪かった。真っ白く脱色した髪も根元が黒くなり、目には隈が浮かぶ。それだけ、シェード司令の能登原明日菜が告げた、この世界が二週目だという事実が衝撃だったのだ。
 何がショックかと言えば、あれだけ自信満々にしていたのに、一週目の自分が結局、アルルも世界も守れなかったという事実。その落ち込みぶりに追い打ちをかけるように、幼なじみの広美との関係も少しおかしくなってしまう。

 そんなとき、光一の前に現れたのは、シェード防諜班班長にして、元オーロラの巫女だった月陽奏麻だった。木漏れ日現象の元凶でもある人物とつながりのある彼女は、彼にある仕掛けをしてくる。その結果おきる悲劇は、光一を打ちのめすのに十分な出来事だった。
 日常と非日常の間に生きることを決意した光一が知る、木漏れ日現象の真実とは…。次巻が最終巻らしいです。

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Re: バカは世界を救えるか? (3)

それが夢では価値がない
評価:☆☆☆☆★
 佐藤光一が学校へ行くと、いつもとは違って周囲の人たちが変だった。浅野広美はドSどころか泣き虫になっているし、チダイはちょんまげ侍になっている。間宮薫は色々と大きくなっているし、桐咲兎乃は色々と控えめになっている。そして何より、アルルがいないし、誰もそんな変化を不思議に思っていないことが変すぎる!
 ふだんは中二病をこじらせている佐藤光一が一番まともだという変な状況。しかし周りはその変さをふつうだと思っているので、やっぱり変なのは佐藤光一。そんなおかしな状況を創り出しているネメシス《幸福夢幻》が生み出す、幸せな夢に呑み込む力に屈しそうになった彼の前に現れたのは、能力泥棒・秋雨心路が現れる。アルルやシェード指令の能登原明日菜と合流し、脱出しようと試みるのだが、幸せな夢におぼれた能力者たちが、彼らの前に立ちふさがる。

 ネメシスという特殊能力を持っている人たちは、辛い現実を否定したいと思っていたり、能力の代償であるアンチテーゼを否定したいと思っていたりする。だからこそ、それが実現された幸せな夢の中はとても居心地が良い。それをあえて否定して、現実でより良い世界を取り戻そうとするのが、夢に呑みこまれなかった能力者たちだ。
 今回は間宮薫たちシェード特務班の活躍はほとんどない。中心は佐藤光一と秋雨心路、そしてシェード指令の能登原明日菜だ。隠されたつらい現実が夢の中で明らかになることにより、物語に新しい展開が生まれる。

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Re: バカは世界を救えるか? (2)

オリジナル能力者の登場
評価:☆☆☆★★
 佐藤光一の通う学校にも学園祭の季節が訪れる。初めて通う学校、そして初めての学園祭に、アルルは期待でいっぱい。しかし、オーロラという組織がシェードのメンバーたちを襲い、アルルに迫って来る。加えて、光一が間違えられた能力泥棒本人が彼の前に立ちふさがる。
 最弱のコピー能力を駆使して、最強の能力者に立ち向かうことが出来るのか。そして、光一から見ても怪しげな少女が登場する。

 前半の学園生活シーンを受けて、後半のバトルシーンへとつながるのだが、前半でイマイチ乗り切れなかったので、後半まで間延びした様な印象を受けてしまった。もう少しテンポ良く進んだ方が個人的には良かった。ポイントでは面白い部分もあるのだけれど、全体での相乗効果が生まれていない感じがする。
 光一視点で描き続けられるのは結構キツイので、別キャラ視点で光一を見るのも面白い描き方ではないかと思う。

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Re: バカは世界を救えるか?

素直に応援しにくい
評価:☆☆☆★★
 自分には特別な力があると言い張って、髪を銀色にし、蒼緋のカラーコンタクトでオッドアイを演出し、意味深な言動をして、そのイタさを幼なじみ少女に罵倒される高校二年生、佐藤光一は、同じクラスのちびっ娘、間宮薫の尾行中に、敵に襲われる不思議なお姫さまアルルと「木漏れ日現象」と呼ばれる超常現象に遭遇する。
 異能力を授かった喜び勇んだのも束の間、あまりの能力のしょぼさにアルルを救う役には立たず、敵にボコボコにされた光一は、アルルを守護する集団シェードの一員だった間宮薫に救われる。その後ちょっとした行き違いから実力者と誤解され、シェードの一員となる光一は、木漏れ日現象とアルルに隠された秘密を知ることになる。

 設定的にはセカイ系の王道パターンでありながら、主人公は英雄とは真逆の位置にいる普通の人というところに特色があるかもしれない。だが、主人公本人は才能もそれほどなく、あまり努力というものをしないのだけれど、その周囲には頑張りやさんや努力家がいて彼女らに触発されるが急に立派になることはできないというのは、最近よく見られるパターンである気がする。
 個人的には主人公にはある種の格好良さを求めたいので、一見ダメダメそうであっても、どこかは突き抜けていて欲しい。その点、佐藤光一も突き抜けているといえば突き抜けているのだけれど、相当に他力本願で、努力らしい努力もあまりしないので、素直に応援しにくい気がしないでもない。

 最後の展開からみて、今後は学園ラブコメ風になりそう。周囲の人間は色々と面白いので、今回とは違った面白さが楽しめるようになるかもしれない。

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