優木カズヒロ作品の書評/レビュー

シニガミライジング

転機を生む殺人
評価:☆☆☆☆★
 人間とは違うコトナリが多く暮らす中原の地で、怪異を狩る掃除屋をする星野伊佐美は、一家虐殺事件の生き残りである桜条凛を拾う。母親らの復讐を誓う桜条凛には、コトナリを完全に殺す死神の力が潜んでいた。
 桜条凛を助手として掃除屋をすることになった星野伊佐美は、死ねない自分を殺してもらうという希望を持ちながら、奇妙な共同生活に居心地の良さを感じるようになっていた。そんな時、桜条凛の一家虐殺事件には裏があることが明らかになる。

私と彼女と家族ごっこ

仮初めの関係
評価:☆☆☆☆★
 小学校教諭の鷹場季貴は、教え子の三好環姫に一目惚れしてしまい、告白をして両思いになった。そして、母親から愛情を注がれていない三好環姫を連れて駆け落ちすることにした。辿り着いたのは、恩師の聖橋万博が住むおんぼろアパート八十陰荘だ。
 そこに住む住民は、喧嘩屋の様なことをする和装女性の光元兎織や、元天才の遊び人の古塚弘巳、現天才の変わり者の定國八雲、浮き名を流す女性の伊浦真琴と変わり者揃いだった。

 ひとまず仮の落ち着き先を得た鷹場季貴だったが、そのうち、八十陰荘の住民たちに奇妙な現象が起き始める。それは互いを家族と誤認する現象だった。

 家族ごっことなっているが、基本的には個人と個人の関係に終始している。それも、緊急避難的に生まれた関係で、衝動的に流された部分が多々あり、本物の関係にはなりきれていない。そんな仮初めのものが、アクシデントを切っ掛けに本物へと変化して行くという話だろう。

ハロー、ジーニアス (3)

自分の力だけでは飛び越えられないバーも
評価:☆☆☆☆☆
 第二科学部に迫っていた廃部の危機はひとまず去った。雨降って地固まるというべきか、災い転じて福となすというべきか、ジーニアスの海竜王寺八葉にも同性の友人・有屋美月ができた。それは竹原高行にとっても良いことのはずだ。
 しかし、ひとつの変化は新たな変化をも引き起こす。まずは学生的に問題なのが、成績不良者に対する夏休みの補習が厳しくなったこと。一番まずいのは、赤点領域にいる有屋美月だ。そしてもうひとつは、海竜王寺八葉の体調不良。特化領域<ブランチ>が未だ定まらないことによる体調不良らしく、生体工学のジーニアスで八葉の知り合いのクリストファー・オランドが第三学園にやってくる。

 八葉を治療のためにフランスへ連れ去ろうとするオランドに対し、高行は八葉に海外にいって欲しくないと思いつつも、彼女の体調のことを思うとそれを素直に告げることもできない。そこで彼は、オランドとひとつの賭けをすることにしたのだった。

 大切だから側にいて欲しい。大切だから迷惑をかけたくない。対立する二つの思考のいたる結果は、結局は自分の心を殺し、相手を尊重するような答えを選び取ることになるのかもしれない。しかしここでひとつ確認すべきなのは、その二つの思考は本当に対立しているのかどうか、だ。
 もう少しよく考えてみよう。何か前提は間違っていないだろうか。上手く対立をすり抜ける答えがあるのではないだろうか。考えを避けてしまう部分に無理矢理押し入り得られるものは、自分を殺さず、相手を傷つけずに済む、とても都合の良い答えかも知れない。

 八葉も高行も、相手から未来を奪いたくない一心で、安易に身を引く答えに飛びつこうとした。それが相手のためなのだと信じた。だが、そうではないと彼らに気づかせてくれたのは、彼らが手に入れた他の人との絆がもたらしてくれたものだ。
 自分の利益に囚われず、本当に望む答えに挑む背中を押す。それが正しく友人の仕事なのだと思う。

ハロー、ジーニアス (2)

恐々と手を伸ばし始める少女たち
評価:☆☆☆☆★
 部長・海竜王寺八葉、副部長・竹原高行に加え、水泳部の有屋美月も入部し、部活動としての体裁を整えつつある、第二科学部。
 こうしてジーニアスの八葉は、確執のあった陸上部の伊佐勇里や灰塚清彦も含め、少しずつ他人との付き合い方を覚えていく。

 そんな5月、第二科学部が入居する三十八・三十九仮説部室棟に、立ち退き騒動が持ち上がる。十年前の古証文を持ちだして来た課外活動統括委員会、学生自治会の自警団の様な組織が、部室長屋を取り壊そうというのだ。
 その背景には、ジーニアスの八葉を利用したい学園都市運営機構の思惑が見え隠れしていた。

 そんな権力の横暴には従えないと、有屋美月は、反対署名集めのためのバザー開催を提案する。それにのった部室長屋入居メンバーたちはノリノリでバザーを成功に導き、無事に必要な署名を集めることに成功する。
 しかし、統括委員会の宮野真琴から、副委員長の寺尾荘司が、その署名を無効化する策略を仕掛けていることを告げられるのだった。

 前巻は八葉と高行の関係構築に費やされたように、今巻は八葉と美月の関係構築を描くことに費やされる。
 ジーニアスとして周囲から規定されてしまっていて自由がない八葉と、周囲からの期待がない分、理想の自分を求めて五里霧中にある美月がそれぞれ抱える悩み。その背景には、自分の可能性が数値化され、それに縛られることが当たり前となっている世界観がある。そんな彼女たちが、高行という人間と、今回の騒動を通じて、深く結びついていくのだ。

 展開が見え見えの部分はあるかもしれないが、こうして第二科学部は立ちあがった。さて次はどんな展開になるのかが楽しみだ。

   bk1
   
   amazon
   

ハロー、ジーニアス

期待に応えられない恐怖と絶対の孤独
評価:☆☆☆☆☆
 各国が少子化問題を抱えるようになった世界では、その代わりであるかの様に、ジーニアスと名付けられた、これまでとは脳構造からして違う天才たちが生まれる様になった。彼らは生まれた瞬間から自らの特化領域を持ち、その分野において圧倒的な成果を生み出し世界をリードしていく。
 そんな世界で、竹原高行はひざの故障でハイジャンプを辞めざるを得なくなる。特待生としての価値もなくなったため、学園を退学しようとしていたところ、彼の前に一人のジーニアスが現れる。海竜王子八葉と名乗るその少女は、そんな高行を自分が主宰する第二科学部へと勧誘する。
 勧誘の理由は釈然としないものの、好奇心と怖いもの見たさもあって、退学までの残りの一ヶ月を第二科学部で過ごす事にする。しかし、高行がハイジャンプときっちり決別できていなかったことが、彼らの活動に致命的な障害をもたらすことになるのだった。

 才能や資質が生まれた瞬間からある程度は判別できてしまうようになった世界。少子化世界ゆえ、子どもたちは比較的早く社会の一員となることが求められ、それを実現するために、選別された才能の予言を受け入れ、その道に進むようになる。これは普通の人間でもそうなのだが、八葉はその筆頭格だろう。まさに世界の変革者として期待され、あるいは疎まれている。そしてそれに応えられないことは恐怖でしかない。
 対して高行は、自らの意思によってハイジャンプを選び、そしてそれだけに打ち込み、トップクラスの成績を残してきた。それゆえ、その拠り所をなくした瞬間に進むべき道がなくなる恐怖を感じ、それを他者から突きつけられることを怖れて、自ら身を引こうとする。
 この両者の感じる恐怖は、全く方向性が違うようでありながら、性質的には良く似ている。その目は他者を意識していながら、自らは孤独を感じているのだ。これは、そんな二人が自分たちの本質に気づき理解していく物語であるとも思う。

 中盤過ぎまでは、イベント発生型ストーリー展開というか、まずイベントが発生するカットがあって、そこから会話が発生するという様な、ある種のゲームの様な進行の仕方になっていることが特徴である気がする。しかし、終盤になってからは様々なキャラクターの筋が終結し、きっちり物語を終わらせるために転がり始めた印象がある。おかげで、次の展開への広がりが生まれたと思う。
 続巻があるかどうかは分からないが、個人的には読んでみたい。

   bk1
   
   amazon
   
ホーム
inserted by FC2 system