萬屋直人作品の書評/レビュー

旅に出よう、滅びゆく世界の果てまで。

自らの足跡を刻み込む
評価:☆☆☆☆☆
 一切、固有名詞は登場しないのだけれど、北の大地をスーパーカブで旅する少年と少女。学校の制服を着用し、どこにでもいるような二人の旅する日常は、固有名詞が喪われ存在すらも徐々に消えていくという、非日常の現象が支配する世界にある。二人の呼び名が少年と少女なのも、既に名前が喪われてしまっているためだ。
 ある日、自分という存在が世界に何も残さず忽然と消えてしまうかもしれない。そんな恐怖におびえながら、しかしそれを表には出すことなく旅する二人には、様々な人々との出会いが待っている。そしてそこには、逃れ様のない運命に流されながらも、自分の生き方を貫こうとする前向きさがある。

 旅とは未だ見ぬ地に自らの足跡を刻み込もうとする行為のようなもの。自分と他人を識別するものが失われた世界で自分らしさを残すことができるのか。そんな二人の旅はまだまだ続くはず。

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