吉宗鋼紀作品の書評/レビュー

マブラヴ オルタネイティヴ トータル・イクリプス (6) 膺懲の火影

愚者たちの饗宴
評価:☆☆☆☆★
 アラスカ・ユーコン基地では、BETA戦後を見据えた戦術機同士の各国対抗戦ブルー・フラッグが開催されていた。アルゴス試験小隊のユウヤ・ブリッジス少尉は、戦闘の結果としてバオフェン試験小隊の崔亦菲中尉に懐かれながら、米国時代の仲間であったレオン・クゼ少尉やかつての恋人シャロン・エイム少尉との確執に悩まされていた。
 米国インフィニティーズに勝利しなければXFJ計画頓挫の可能性もある。篁唯依中尉は不知火弐型を生き残らせるため、全力を尽くすことを決意する。一方、イーダル試験小隊のクリスカ・ビャーチェノワ少尉は、ユウヤ・ブリッジス少尉の面影が脳裏にちらつき、演習に集中できない精神状態となっていた。

 BETAが全く登場せず、ひたすら人間同士の争いが描かれる。

マブラヴ オルタネイティヴ トータル・イクリプス (5) 蠱主の細瓮

また一段とラブコメ化
評価:☆☆☆☆☆
 カムチャッカにおけるソ連と米国の陰謀から生き延び、アラスカ・ユーコン基地へ帰還したアルゴス試験小隊の前に、また新たな政治的野合の結果が現れる。それは、BETA戦後を見据えた、対人類戦闘を前提とした、戦術機同士の各国対抗戦だ。そして篁唯依中尉のもとには、巌谷中佐から、その結果如何ではXFJ計画の中止もありえるとの忠告が届く。
 だが、不知火弐型を手に、日本との確執も乗り越えたユウヤ・ブリッジス少尉は、更なる開発向上に向け新たな努力を始めていた。そしてその変化は、彼の周囲にも変化をもたらすことになる。

 見ていて可愛そうなほどにユウヤを意識する篁唯依中尉、バオフェン試験小隊の崔亦菲中尉のユウヤへの急接近、イーダル試験小隊のクリスカ・ビャーチェノワ少尉の態度の変化、そして米国からやってくる教導隊の隊員たち。彼らとの関係は、また新たな火種も生んでいく。
 そしてはじまる、対抗戦、ブルー・フラッグ。その結果は、計画に、そして彼らの関係に何をもたらすのか?

 4巻までと比較して、格段にラブコメとしての要素がふんだんに盛り込まれるようになった。そしてユウヤは、日本嫌いの扱いづらいキャラから、ニブいラブコメの主人公へとクラスチェンジを果たす。そこに誰のどんな意図があるのかは知らない。
 ただ、戦術機自体に対する描写も、BETAという存在を置いておいてではあるが、また格段に作りこまれていっている気がする。それは素直に歓迎すべきことだろう。

 そして次巻以降では、いよいよ、米国チームとの確執が明らかにされていくのだと思う。

マブラヴ オルタネイティヴ トータル・イクリプス (4) 懺業の戦野

計画の斜め上を行く現実
評価:☆☆☆☆★
 アメリカとソビエトの一部が結託して、試製99型電磁投射砲の機密情報を奪うための大掛かりな作戦が発動された。BETAの侵攻を一部秘匿して、試験小隊と指揮陣を分断、砲を放棄せざるを得ない状況に追い込むという作戦だ。
 その目論見は上手く進むのだが、篁唯依中尉がただ一人、放棄された基地に残り、試製99型電磁投射砲の破壊に臨むことになったことから、計画には若干のずれが生じてくる。

 こうしてヒロインのピンチにヒーローが助けに来るという古典的構図が作られるわけだ。しかしどうしても、ユウヤ・ブリッジス少尉の行動は短絡的で好きになれない。彼の好意が機密漏えいのきっかけとなり、彼女の軍人生命にピリオドを打つ可能性だってあったのだから。
 中途半端に全部手に入れようという欲深さは、致命的な事態をもたらしそうで恐ろしい。

マブラヴ オルタネイティヴ トータル・イクリプス (3) 虚耗の檻穽

成果が導く新たな陰謀
評価:☆☆☆☆★
 試製99型電磁投射砲の威力により、一躍英雄として扱われるようになったユウヤ・ブリッジス少尉だったが、自身は近接格闘戦による、本当の自分自身の実力を試したい焦りに囚われていた。
 そして試製99型電磁投射砲の威力は、彼ら試験部隊だけの問題ではなく、日本帝国で、ソビエト中枢で、そしてアメリカで、それぞの思惑に基づく策動を始めさせていた。

 ユウヤ・ブリッジス少尉のパイロットとしての成長と、篁唯依中尉の少女的な側面が前面に押し出される。

マブラヴ オルタネイティヴ トータル・イクリプス (2) 宿命の動輪

南の島での和解
評価:☆☆☆☆★
 篁唯依中尉の荒療治もあって、試験衛士として一皮むけつつあるユウヤ・ブリッジス少尉だったが、それで全てのわだかまりが消えたわけではない。むやみに突っかかることはなくとも、微妙な距離感が出来つつあった。
 そしてそれは、唯依にとっても無縁ではない。不知火弐式完成のためとはいえ、むやみにテストパイロットたちのプライドをへし折る様なやり方に、自己嫌悪を抱いていた。そんなとき彼らに、南の島での耐久試験実施の命令が下る。

 非日常にあって普段とは異なる相手の側面を知り、協力せざるを得ない環境に置かれることで距離が縮まっていく。そんな誰かの思惑に乗せられ、唯依とユウヤはちょっとおかしなことになる。
 一方、政治的思惑は、また別の状況を招きもする。それが、用意が十分でない段階での実戦投入試験だ。唯依は、テストパイロットたちを無事に帰すため、本国にかなり無理な要求をすることになる。

 視点がはっきりしなくて、若干読みづらいところもあった。

マブラヴ オルタネイティヴ トータル・イクリプス (1) 朧月の衛士

存亡の危機に瀕しても未だ
評価:☆☆☆☆★
 BETAと名付けられた異星起源の生命体により、人類は存亡の危機に陥っていた。2001年、30年に及ぶ抵抗戦争は、ユーラシア大陸をほぼ制圧され、人口は10億人にまで激減、わずかに横浜で反撃ののろしをあげるものの、未だ不利な状況は覆せないでいた。しかしそんな戦況にあって、人類の剣として活躍するのが、人型兵器・戦術歩行戦闘機である。

 日本帝国斯衛軍中尉・篁唯依は、帝国陸軍中佐・巌谷榮二の特命を受け、次期主力機開発までの対応策として、戦術歩行戦闘機・不知火のバージョンアップを行うため、アラスカ・ユーコン基地の試作機開発部隊に出向することとなった。
 同じころ、アメリカ合衆国陸軍少尉のユウヤ・ブリッジスは、ユーコン基地のアルゴス試験小隊へ転属となるのだった。

 現在とは違う歴史を辿った並行世界の物語。人類が存亡の危機に瀕していても、東西の対立は未だ続いており、しかし、同じ基地において別個に試験機の開発を行っている。当然、テストパイロット同士の関係も悪く、イーダル試験小隊に所属するソヴィエト連邦陸軍少尉・クリスカ・ビャーチェノワらとの間には、挑発といがみ合いが絶えない。
 そこに来て、日本人のハーフでありながら日本人を憎むユウヤと、生粋の日本人である唯依が出会うため、また別の火種も生まれてしまうのだ。

 とはいえ、人類の敵と戦うという大目標の下、それぞれの利害関係はありつつも、お互いのことを認めつつ、少しずつ歩み寄っていく姿を描いているのだと思う。

ホーム
inserted by FC2 system