渡来ななみ作品の書評/レビュー

さくらが咲いたら逢いましょう

評価:☆☆☆☆★

想い出の色、あなたに残します

固定される心
評価:☆☆☆☆★
 高瀬亘理が発明した魂を抽出する技法は命髄学と名付けられたものの、日本では一般には知られていなかった。末期がんの患者である和葉みさきは、主治医の紹介を受け、高瀬命髄学研究所を訪れる。
 そこで魂を抽出する方法について説明を受け、その色に込められた思いを知ったみさきは、恋人である昌樹の思いが本物であることを初めて確信するのであった。

 研究所に寄宿してボランティアをすることになったみさきは、様々な理由で研究所を訪れる人たちと出会う。

葵くんとシュレーディンガーの彼女たち

真の幼馴染は誰だ?
評価:☆☆☆☆★
 物心ついた頃から、自分は相楽葵だったり、江村葵だったりした。両親が離婚し、父親に引き取られた自分と、母親に引き取られた自分がいたのだ。物理的に行ったり来たりしていたというわけではない。長じて理解したことではあるが、自分は眠る度に並行世界を行き来する生活を送っていたのだ。
 その顕著な違いは、隣に住んでいるのが誰かということだ。朝目覚めて窓の外を見て、その部屋にかかっているカーテンで、自分が今どの並行世界にいるのかに気づく。子どもの頃には、それは毎日違っており、たくさんの種類があったが、高校生になった今では、おおよそ2種類に絞られている。つまり、幼馴染が篠崎真宝(まほう)か遠藤微笑(ほえむ)で、自分のいる世界が決まっているのだ。

 そんな夢みたいな世界を生きているせいか分からないが、葵にとっては眠っている時が至福の時だ。その葵が珍しく早起きしたことで、世界に異変が生じ始める。そして、多元世界観測者だという、新たな幼馴染の鏡舞花がいる並行世界で目が覚めることになり、真宝の世界と微笑の世界でも変化が起き始めるのだった。

 どう見てもギャルゲー設定なのだけれど、ラブコメ分エロコメ分は薄め。眠るの大好きな主人公なのに、演劇で熱血青春しちゃう感じ。

天体少年。 さよならの軌道、さかさまの七夜

瞬間にして永遠の恋
評価:☆☆☆☆☆
 兄の北斗と妹のすぴかは母の安西なつめを選び日本で生活しているにもかかわらず、天文学者である父の如月大祐を選び、中学校にも通わず南の島で宇宙を眺めることを選んだ如月海良は、父の助手の滝沢美穂や田代ゆきに勉強を教えてもらいつつ、しかし、同い年の子供たちとは交流することなく生活していた。
 そんなある日、彼女の前に、τ-38502aw、タウと名乗る少年が現れる。彼は未来で彼女と知り合い、七日間を過ごして来たといい、名残惜しげな、愛おしげな表情をしながら、別れを告げて消えていく。タウは、ミラとは逆の流れの時間を進む、ダークマターでできた不可視の天体なのだ。

 はじめて出会った少年から向けられた親密な表情に戸惑いながら、ミラはタウとの七日間を過ごし始める。夜の間だけ人間の姿をとれるというタウど時間を過ごすうちに、タウに心惹かれていくことを自覚していく海良だったが、逆にタウは、海良と初めて出会う瞬間へと向かっていき、段々と海良との距離を感じさせる態度を取っていくようになるのだ。
 ちょうど真ん中、互いが互いを等分に知る瞬間のみが、彼女たちが共に恋人同士となれるとき。それより前も後ろも、どちらかの心の距離が遠くなっていくのだ。

 最初で最後、七日間に限られることが既に決まっている恋。後は互いに、もう出会えないことを知りながら、思い出だけを抱えていくしかない。でも、タウは出会えてよかったという言葉を残して去っていく。はたして七日目に海良に去来する思いとは?

 すごく好きなんだけれど、相手は自分のことをまだ知らない。そんな矛盾した状況に対応しなければならない感情を抑える気遣いが切ない。相手の気持ちは離れて行き始めているのにそれを必死に追いかけるというのは現実の恋愛でもあり得る状況なのだが、同じ現象であっても、この設定の中ではそれはとても煌めいて見えるのが不思議。
 よくこんな変な設定を考えたなあ。

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