彩崎廉作品の書評/レビュー

絶園のテンペスト THE CIVILIZATION BLASTER (10)(左有秀 / 城平京)

未来はそれでもやってくる
評価:☆☆☆☆★
 本編の事前談が2本と事後談が4本の短編集だ。本編は世界の展望みたいなところにスポットが当たって終わったので、登場人物たちにスポットを当てて物語を締めくくろうという試みの様だ。

「新しい彼女の話」
 古本探しの旅に出かけて帰りのバス代まで使ってしまった林美森は、延々と続く道を歩き疲れ、道端に座り込んでしまう。そんな彼女を覗き込んできた男が、不破真広だった。
 古い本の話題で盛りあがる。

「長靴をはいた猫」
 政界のフィクサーともいうべき祖父を亡くした早河巧は、祖父からの隠れ遺産を残される。その遺産は、エヴァンジェリン山本と言った。

「ファミレスの「りべさん」」
 ファミレスの店長は、ある日、鎖部葉風というバイトを採用する。超然としたかに見える彼女は、バイト仲間からりべさんと呼ばれていた。
 店長の別れた彼女の狂気を知る話。

「左門さんその日その日」
 エバンジェリン山本という妻を持つ鎖部左門は、日常をキチキチと暮らしていた。そんなちょっとおかしな日常。

「待つ女」
 羽村めぐむと別れた北千里桜子は、突如現れて夫を奪われたという木の前に佇む女性に出会う。しかし桜子は、彼女に、通説とは違う、ある仮説を抱くのだった。

「開幕・手を」
 鎖部葉風のバイト先を、滝川吉野が訪問する。

絶園のテンペスト THE CIVILIZATION BLASTER (9)(左有秀 / 城平京)

奇跡を期待しない未来
評価:☆☆☆☆☆
 《絶園の魔法使い》の力は不破愛花から羽村めぐむに引き渡された。はじまりの樹の側では鎖部の魔法も通じないため、《はじまりの姫宮》鎖部葉風の力も有効には使えない。不破愛花の死を無駄にしないために苦労の多い人生を歩むことを決意した不破真広と滝川吉野は、いま与えられた状況で最善の策を講じる。

 あらゆる意味で城平京を崩さない物語の終わり方だった。そこには奇跡もなければ全能者もいない。ただ、不完全な人間だけがいる物語だった。
 北千里桜子と林美森という新キャラが最後になって登場し、希望は未来に残されることになった。

 特別編として、事前・事後談を収録したコミックが一冊発売されるらしい。

絶園のテンペスト THE CIVILIZATION BLASTER (8)(左有秀 / 城平京)

つながるパズル
評価:☆☆☆☆☆
 不破愛花の死の真相を明らかにするため、《はじまりの姫宮》鎖部葉風は再び過去の世界へ飛び立った。不破愛花の死の現場を目撃し、犯人をその目で確かめるためだ。鎖部葉風が過去に旅立った直後、はじまりの樹は太平洋に巨大なその本体を表し、世界中の人々を圧倒する。
 絶園の樹復活のため、鎖部左門や鎖部一族が儀式を続行し、最後の絶園の果実の封印を解く頃、世界の首脳陣は意外な結論に達し、早河巧を困惑させる。そしてエヴァンジェリン山本が監視するネット上では、「最終試験仮説」という修正版のアイデアが広がりを見せ始めるのだった。

 一方、過去へと降り立った鎖部葉風は、不破愛花の死亡推定時刻の四時間前に、滝川吉野や不破真広が住んでいた街にたどりつく。そしてそこで偶然、焼き鳥を食べながら歩いている不破愛花と遭遇してしまうのだった。
 なぜ《絶園の魔法使い》羽村めぐむの力はあれほど弱いのか、そして誰が何のためにどうやって不破愛花を殺したのか?そしてはじまりの樹と絶園の樹の正体とは?全ての謎が明かされ、登場人物たちの選択の時を待っている。

 次巻がラストということで、これまで回想シーンでしか出番がなかった不破愛花が大活躍!彼女の人間臭さがバンバン出てきているよ。


 特に深い意味はないけれど、都築道夫「猫の舌に釘をうて」セバスチアン・ジャプリソ「シンデレラの罠」草野唯雄「陰の告発者」が紹介されている。

絶園のテンペスト THE CIVILIZATION BLASTER (7)(左有秀 / 城平京)

収束し始める物語
評価:☆☆☆☆☆
 《絶園の魔法使い》羽村めぐむのさりげない一言がきっかけで、滝川吉野の彼女が不破愛花であることが不破真広にばれてしまった。しかし真広は一向に行動を起こそうとせず、鎖部左門や早河巧をやきもきとさせる。
 《絶園の魔法使い》羽村めぐむと《はじまりの姫宮》鎖部葉風のバトルが日常の風景となり、絶対の存在と思われていたはじまりの樹に対抗する存在があるという事実は、世界に新たな局面を生まれさせ、人々の心境に変化を生じさせ始めていた。

 そんな中、鎖部葉風と会ったエヴァンジェリン山本は、はじまりの樹と絶園の樹に関する仮説を披露する。それはファンタジーをSFへと変貌させる仮説だった。

 登場人物たちが意図的に隠していた秘密は全て開示され、残る秘密は過去に置き去りにされた、誰も真実を知らない秘密だけとなった。それを開示するための手段が発表され、計画は実行に移されることとなる。
 「テンペスト-シェイクスピア全集 (8)」の筋書き通りの展開になるならば、あの人物がそういう風にならなければならないと思うのだが、その解は徹底的に否定されているしな。そこでさらなるどんでん返しがあるかどうかと言うとこかな。

絶園のテンペスト THE CIVILIZATION BLASTER (6)(左有秀 / 城平京)

正しさの正面衝突
評価:☆☆☆☆☆
 早河巧が防衛省内で復権したことで、《絶園の魔法使い》羽村めぐむによる「はじまりの樹」の枝の破壊がもたらした世論の変化は、彼に予算と人員をもたらした。それは彼が望む安定を作り出す大きな力ともなるが、妬みや疑心を招く結果ともなる。その積み重ねが、いつ足元をすくうかも分からない。
 一方、滝川吉野に色ボケしているかに見えていた《はじまりの姫宮》鎖部葉風だったが、吉野の彼女が不破愛花だと知ったことで、これまで以上に積極的に事態に介入する動機を持つこととなった。そして吉野と二人、早河たちとの連絡を絶ってしまう。

 滝川吉野がもう一人の《絶園の魔法使い》である可能性を疑っている鎖部左門やエヴァンジェリン山本は、不破真広と共に吉野の動向を探ろうとするが上手くいかない。そこに、星村潤一郎が、葉風の決断を携えてやってくる。
 全ては吉野の思い通りに進んでいるのではないか。そんな不安を持った山本を除く男四人は、吉野を掣肘するために吉野の彼女の身柄を抑えるべく、その正体の推理を始めるのだった。

 なんかアニメ化するらしいですな。今巻は行き詰る推理合戦とは縁が薄く、登場人物たちは一生懸命に頭を悩ませているのだけれど、そんなこと、知っている人はもう知っていることなのです。むしろ、魔法戦闘が今回のメインという、意外な展開になっているところが興味深い。

絶園のテンペスト THE CIVILIZATION BLASTER (5)(左有秀 / 城平京)

世界が混乱していても
評価:☆☆☆☆☆
 この世の理を司るという「はじまりの樹」と、破壊を司るという「絶園の樹」をめぐる騒動は、ラブコメ編へと突入する!

 時間の牢獄から救い出してくれた高校生・滝川吉野を供に連れて世界の現状を見まわる旅に出た「はじまりの姫宮」である鎖部葉風は、兄と慕う星村潤一郎からの示唆で、自分が吉野に恋をしていることを自覚する。そして、彼女が思いを募らせれば募らせるほど、吉野の彼女を「はじまりの樹」が排除してしまう可能性が高いことを悟る。
 一方、絶園の魔法使いと仮認定された羽村めぐむは、不破真広や鎖部左門、エヴァンジェリン山本らの許に送られ、魔法使いとしての訓練を受けることになる。そして、彼の絶園の魔法使いとしての破壊力の強大さを知った早河巧は、それを利用して世論を操作しようと目論む。

 読者は、滝川吉野の彼女が不破愛花であることを知っている。つまり、葉風が吉野に恋したことで「はじまりの樹」が愛花を殺した可能性があることを知っている。それなのに物語上は、吉野に恋した葉風が吉野の一挙一動に喜んだり落ち込んだりラブコメる様を見せられる訳だ。そのギャップが、すこしふしぎ。
 そしてその読者の認識に、いずれ葉風も追い付いてくる。その時に交わす吉野と葉風のやり取りは、深く、そしてどこか異常だ。魔法使いとして異常な能力を持つ葉風が、普通の高校生であったはずの吉野の異常さを心配するという構図になるところも、すこしふしぎ。

 そして早河の策動は、世界の様子をまた少しずつ変え出していく。

絶園のテンペスト THE CIVILIZATION BLASTER (4)(左有秀 / 城平京)

牢獄を破ったのは誰だ?
評価:☆☆☆☆☆
 はじまりの樹による文明崩壊を防ぐため、絶園の樹を復活させて拮抗状態を生み出そうとした鎖部左門は、はじまりの姫宮・鎖部葉風を時間の牢獄に閉じ込めた。しかし、妹・愛花を殺した犯人を捜す不破真広と、実は愛花の彼氏だった滝川吉野の介入によって、その牢獄は破られる一歩手前まで来ていた。
 はじまりの樹の示す理の強力さと、それに対抗しうる破壊を振りまく絶園の樹の力のいずれかは、時間すら超えて愛花を殺したのかもしれない。しかしどちらが殺したのかは分からない。その拮抗状態が今しばらく続くと思われた時、無人島の葉風の前に、有り得ないものがもたらされる。

 エヴァンジェリン山本の裏にいた早河巧や、絶園の樹の魔法使い候補として羽村めぐむという新しいキャラクターが登場する。しかし、いまいち描き分けがはっきりしなくて分かりづらい絵の気がするよ。
 「生活習慣病には魔法も効かない」みたいな台詞は、いかにも城平京っぽい。だけど、こんなに理詰めに考えられる高校生ならば、学校になんて行く必要がないな。明らかに教師より優秀だよ。

絶園のテンペスト THE CIVILIZATION BLASTER (3)(城平京)

テンポ早くないですか?
評価:☆☆☆☆★
 富士山の麓で対峙する、左門と真広。葉風が時間の檻に囚われてもう戻ることができなくなったいま、彼らが対立する理由はなくなった。
 それは本当だろうか?本当にこれで良いのか?吉野は現状に何か違和感を感じる。そしてその感覚を信じて、ひとつの策を弄するのだった。それは果たして、はじまりの樹の理の示すものなのか?

 全体的に展開のテンポが早い気がする。もうちょっと丹念に伏線を構築してから開示した方が良いネタもあった様な気がするし、デウス・エクス・マキナ、あるいは狂言回しの様に機能する愛花のキャラ構築を丁寧にしても良い気がする。
 もしかするとこれも予定通りなのかも知れないけれど、誰にも感情移入しきれないうちに物語が展開してしまっている気がするんだよなあ。何か事情があるのかな?

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絶園のテンペスト THE CIVILIZATION BLASTER (2)(城平京)

絶望、そして反転して希望へ?
評価:☆☆☆☆★
 この世の理を守るはじまりの樹とそれを破壊する絶園の樹。はじまりの樹の目覚めを促す鎖部葉風と、絶園の樹の復活を図る鎖部左門。それぞれがそれぞれの理に従って、それぞれの目的を達するために他者を使役する。
 一次的には葉風の手先となっているように見える不破真広だが、彼の頭の中にあるのはこの世界のことではなく、この世界から失われた妹・愛花の復讐のみ。ゆえにその論理は他者には計り知れず、どれほど緻密な計画も破綻させる要因となってしまう。

 彼らについてきているだけに見える滝川吉野だが、彼には彼の守るべきものがあり、それを実現するための覚悟もある。その彼が新たに見つけた、絶望を反転させる方法とは何なのか?
 ついに鎖部の本拠に乗り込んだふたりは、衝撃の事実と魔法の理外さを思い知らされる。

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絶園のテンペスト THE CIVILIZATION BLASTER (1)(城平京)

孤島のお姫様と復讐の高校生
評価:☆☆☆☆★
 高校生・滝川吉野の友人・不破真広は、一か月前に姿を消した。彼の妹・愛花と両親を惨殺した犯人を見つけるために旅に出たのだ。
 ところが、吉野が愛花の墓参りをしているとき、エヴァンジェリン山本と名乗る女性が現れ、彼に銃を突きつけて、真広の行方を吐く様に強要してきた。真広の行く先々で、黒鉄病という生物が金属化する現象が起きているというのだ。

 そのとき、偶然帰還した真広により助けられた吉野は、黒鉄病の裏に、鎖部一族という魔法使いが関わっていることを教えられる。真広は、無人島に封印された一族の当主・鎖部葉風の手助けをして、一族の暴走を止める代わりに、妹たちを殺した犯人を突き止めてもらう契約を葉風と結んでいたのだった。
 成り行きと自分の思いもあり、自ら事態の中心へ飛び込む覚悟を決めた吉野は、葉風の協力を得て敵の本拠地を絞り込みながらも、事態に何か明らかにされていない事実が隠されている雰囲気を感じるのだった。


 城平京原作の作品を見逃していたのは不覚としか言いようがない。相変わらず、設定に謎を置いておいて後でどんでん返しを狙っているのが感じられる構成になっている。
 あと、女性の絵が昔の岡崎武士っぽい感じもする気がする。

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