一色まこと作品の書評/レビュー

ピアノの森―The perfect world of KAI (26)

阿字野が主役
評価:☆☆☆☆★
 ショパンコンクールで優勝したカイのもとに、阿字野の手術を依頼していた医者がやってくる。だがそのことを知った阿字野は、何故かためらいを見せるのだった。
 そして日本の森の端では異変が起きていた。

 シリーズ最終巻。最後の締めは阿字野が主役だ。これは良いのだが、森の端に関する締め方がいま一つだった。

ピアノの森―The perfect world of KAI (25)

発表の時
評価:☆☆☆☆☆
 ショパンコンクールファイナル、最後のコンテスタントであるレフ・シマノフスキの演奏が始まる。好調に始まった演奏だが、突如乱れが。そんな時、彼の前に姉のエミリアの幻影が現れる。
 そして最終審査の結果が発表される。次巻、最終巻。

 アレグラ・グラナドスの姐さんぷりが光る。

ピアノの森―The perfect world of KAI (24)

ピアノの森へ
評価:☆☆☆☆☆
 ショパンコンクールにおける一ノ瀬海の最後の演奏が始まった。雨宮修平が会場で見守る中、一ノ瀬海のピアノはコンサートホールを超えて街に響き、ピアノの森へと帰っていく。
 師匠である阿字野への感謝を胸にピアノを弾き終える一ノ瀬海に。聴衆は、オーケストラは、審査員はどんな反応を示すのか。

ピアノの森―The perfect world of KAI (23)

愛ある音楽
評価:☆☆☆☆★
 ショパンコンクールファイナルは、向井智の演奏から始まった。調律師を目指すという彼の演奏する協奏曲第2番ヘ短調作品21を、意外な思いを持って堪能する審査員は、満を持してパン・ウェイを迎える。彼の演奏するのは協奏曲第1番ホ短調作品11、一ノ瀬海と同じだ。  演奏前に心の師と仰ぐ阿字野壮介と初めて言葉を交わし、その閉ざされた心を解放されたパン・ウェイの弾くショパンは、それまでの堅い冷たさとは一変した、柔らかな愛を深く湛えていた。  あまりの素晴らしい演奏に、それを聴いた雨宮修平は、彼の優勝と一ノ瀬海の敗北を予感する。しかし、再会した丸山誉子の言葉を聞き、その思いを改めるのだった。  そしてその頃、演奏を直前に控えたカイは、レフ・シマノフスキをその控え室に迎える。

ピアノの森―The perfect world of KAI (22)

波乱と静寂
評価:☆☆☆☆★
 雨宮修平との関係を修復し、練習にも熱の入る一ノ瀬海だったが、彼の知らないところで、特ダネを狙うゴシップ記者は「森の端」にまでその取材の手を伸ばしていた。
 しかし中心地であるショパンコンクールの会場では、その権威により異分子は排除され、順調にファイナルの選考が進む。一時帰国したパン・ウェイが戻ってくるかを気にしつつも、繰り広げられるのはそれぞれに魅力ある演奏だ。

 そしてついに、最終日の演奏の幕が開く。

ピアノの森―The perfect world of KAI (21)

騒がしい周囲
評価:☆☆☆☆☆
 ショパン・コンクールはファイナルに突入する。一ノ瀬海の登場は3日目。雨宮修平との間に入ってしまった亀裂のため、カイは大切な練習にも身が入らない。もう一つの懸念は、3日後にはショパン・コンクールも終わり、阿字野との契約も満了してしまうということ。彼にとってのピアニストとしてのスタートは、悲しい別れに彩られるままになってしまうのか?
 一方、カイと決裂した修平は、猛烈に後悔していた。やつあたりの様な形で、やるせない気持ちをカイにぶつけてしまったからだ。何とかカイに復活してもらいたい。修平は自分の出来ることを捜し出す。

 ピアノ以外の盤外で、色々と騒がしくなって来た。ピアノの内容で十分にニュースを飾れるはずなのに、それ以外の要素で騒がれる展開が待っていそう。

ピアノの森―The perfect world of KAI (20)

勝敗の先に
評価:☆☆☆☆☆
 雨宮修平は、自分のピアノをつかんだ達成感を手にしながらも、ショパンコンクールの2次審査には落選してしまった。
 しかし彼は、無事にファイナル進出を果たした一ノ瀬海と出会ってしまい、達成感以上に、勝負に負けたばかりでなく、不当に憐れまれたという屈辱感に心を覆い尽くされてしまう。カイは本当に、心の底から、雨宮のピアノを称賛しているにも拘らず、雨宮自身がカイのピアノに負けていると思い込んでいるため、その気持ちは決して伝わらないのだ。

 ライバル、好敵手というのは、敵であって敵ではない。そのままであればただひとり、孤独に歩まなければならない、目印もない遠き道を、自分と同じ目線で、同じ志を持って、同じ方向に歩んでくれる貴重な存在なのだ。それなのに、“敵”という面だけに着目してしまえば、結局は孤独に道を歩まざるを得なくなってしまう。それは、より辛く厳しい道のりだろう。
 修平の父・洋一郎も、カイの師匠である阿字野の影にとらわれ過ぎてしまい、本来ならば一流のピアニストとして、誰よりも自分の音楽をつかむ素晴らしさと、孤独と戦う辛さを分かちあえたはずなのに、そのチャンスを逃してしまった。

 だが、彼らは一つのステップを上がった、一流の存在だ。巷間に言われる様な、前髪しかない半端な幸運の女神しかいない世界に住んでいるわけではない。彼らが諦めず望み続ける限り、歴史という名の女神がその功績をたたえてくれるチャンスがある。
 いま、蒙は啓かれた。一度は敵として切り捨てた存在を、友人として取り戻す時が訪れるはずだ。

ピアノの森―The perfect world of KAI (19)

音を響かせる構成力と演出力
評価:☆☆☆☆☆
 18巻は雨宮修平の成長にスポットが当てられており、一ノ瀬海の活躍機会があまりなかったので、少し欲求不満に陥っていた。しかし今回は、それを取り返すかの様な、カイの演奏が力強く、そして情感豊かに奏でられる。
 コミックスの中から音を出すことはできないので、演奏の描写は構成力と演出力が全て。音は読者に想像で補ってもらい、演奏の世界観と演者の想いを表現する演出を行う。極端なことを言えば、音の想像などなくても良いし、想像だからこそ理想の音が出るともいえる。

 最後にファイナリストの発表がある。次巻ではどの様な展開となるのか楽しみだ。

ちなみに今回のカイの演奏は以下の通り:
・マズルカ 作品50 第1曲 ト長調、第2曲 変イ長調、第3曲 嬰ハ短調
・ポロネーズ第6番 変イ長調 作品53「英雄」
・ピアノソナタ第3番 ロ短調 作品58

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ピアノの森―The perfect world of KAI (18)

雨宮の音楽
評価:☆☆☆☆★
 大舞台で自分の音楽をつかみ始めた雨宮。
 多くの人はその演奏の変化を素直に喜ぶが、ただ一人、雨宮の父は演奏よりもコンクールの結果にとらわれてしまう。

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ピアノの森―The perfect world of KAI (17)

正しい演奏とは何か?
評価:☆☆☆☆☆
 これまでカイのピアノを通じて陰に陽に示されてきたと思うテーマが、シモン・ハウスネルという記者の質問を通じて言葉として示されている。すなわち、正しい演奏とは何か。演奏者と作曲者の関係はどうあるべきなのか。しかしその質問は、審査員たちの権威の前に阻まれる。
 そして、様々な演奏者たち。優劣をつけるために演奏する者。比較されることを嫌う者。他者の演奏を引き継ごうとする者。同じコンクールに出場している演奏者でも、その動機は全く別々だ。

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ピアノの森―The perfect world of KAI (16)

ピアノは叩けばだれにでも音が出せる楽器だ。だからこそ…
評価:☆☆☆☆★
 ショパン・コンクール一次審査、カイのプレリュードが演奏される。カイの置かれて来た逆境がどれほどピアノの音に織り込まれて来たかということを読者に提示しつつ、観客や審査員がその演奏に引き込まれていく様を描いている。そして審査結果の発表、様々な思惑をはらんで掲示される結果はいかに。
 丁寧に境遇などを紹介しているためもあって、展開はかなりゆっくりペースかも知れない。

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ピアノの森―The perfect world of KAI (5)

交点
評価:☆☆☆☆☆
「The Perfect World of KAI」
 サブタイトルでは一ノ瀬海ひとりの物語に見えてしまうけれど、実はそんなことは無い。雨宮修平は、一ノ瀬海を通して自分のピアノを聴き、そして絶望する。一ノ瀬海は、丸山誉子に出会うことで、自分のピアノを知る。だからこの作品は、ピアノの物語でもあり、出会いの物語でもある。

 これまでの海のピアノは、内向きのピアノだった。世の中に対する鬱屈した想いを晴らすためのピアノ。それが外向きに、人に聴かせるピアノに変化した。はじめて他者を意識し、他者を通じて自分を見ることを覚えたのでは無いだろうか。この他者を意識することが、海にはプラスに働いているのに、修平にはマイナスに働いていることは皮肉としか言いようが無い。もし修平がいなければ、海が表舞台に出ることは無かっただろうことを思えば…。

 この巻で、物語は一つの転換点を向かえる。

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