佐原ミズ作品の書評/レビュー

鉄楽レトラ (6)

再会する二人
評価:☆☆☆☆★
 藤本宝にレギュラー争奪戦が勃発。そして鉄宇から引き継いだバスケットシューズを失い、意気消沈してしまう。そのことを伝え聞いた鉄宇の取った行動は?  シリーズ最終巻。立ち絵の線がすごい。

鉄楽レトラ (5)

フラメンコの怪物
評価:☆☆☆☆★
 一ノ瀬鉄宇、市川円、菊池英がフラメンコを教わるタブラオ「al alba」の師匠である森野君枝の師匠であった河内美和が登場する。彼女は君枝が膝を壊す原因を作った人物だった。
 未だに後悔にさいなまれる君枝を見て、一ノ瀬鉄宇は彼女がよく口ずさむアレグリアスで河内美和の鼻を明かそうとする。

鉄楽レトラ (4)

狂おしい気持ち
評価:☆☆☆☆★
 一ノ瀬鉄宇、市川円、菊池英がフラメンコを教わるタブラオ「al alba」に、師匠の森野皐の祖母が戻ってくる。それを祝う会で、一ノ瀬鉄宇はフラメンコを披露することになる。
 なぜ自分なのか、その理由を知った時、一ノ瀬鉄宇は自分でも誰かに力を与えることが出来るという事実を知り、前向きな気持ちになっていくのだった。

 一方、市川円は、菊池英にけしかけられ、一目惚れした少女がバイトをする海の家でバイトをすることにする。相変わらず男に貢ぐ少女を見て狂おしい気持ちになる市川円を応援に行った一ノ瀬鉄宇らも、同じ店でバイトをすることになった。
 自分が好きな相手に認められたい。そうすることで初めて自分自身を認められる。他人からは無様にも見えることであれ、自分が自分であるためには重要なこともある。例えその結果が、自分に報いるものでないとしても。

鉄楽レトラ (3)

気力の源
評価:☆☆☆☆★
 タブラオ「al alba」と出会い、森野皐にフラメンコを教わることにした一ノ瀬鉄宇は、市川円らや菊池英を誘い、練習を始めた。しかし、全く振り付けが覚えられず、思うようにならない。
 そんなとき、菊池には他人から注目されると気を失ってしまうという症状があることが発覚する。少年時代、聖歌隊に入っていた菊池は、舞台上で声変わりをしてしまい、それまで褒めそやしていた人たちが手のひらを返すという目にあったことがあるからだ。

 図らずもそのことが全校生徒に知られてしまい、クラスメイトから嫌がらせを受けることになった菊池だが、それはあっさりとかわし、今度は菊池をかばった市川に矛先が向いてしまうのだった。

 あなたの支えになることは何ですか、というお話。相手は覚えていないような些細な出来事が、誰かにとってはとても大切なことであることはありうるわけで、自分も誰かの支えになっているかもしれないと思うだけで、鉄宇の気力は漲っていく。

鉄楽レトラ (2)

引っ張られて歩み出す
評価:☆☆☆☆★
 一ノ瀬鉄宇は中学時代に起こしたトラブルの影響から逃げるため、自宅から遠く離れた若葉台高校に進学した。そうしてずっと逃げ続けて終わるはずかもしれなかった彼の人生は、ふたつの再会によって変化していく。
 ひとつは、桜ノ宮女学院に進学した少女の藤本宝だ。中学時代、バレリーナを目指していた彼女は、にょきにょきと身長が伸びてしまい、その夢を諦めざるを得なくなる。そんな彼女を、鉄宇の何げない一言が救い、新たな夢を与えていたことを、今になってようやく彼は知ったのだ。
 もうひとつは、ずっと彼の側にいた。いつの頃からかあまり話をすることも、まとわりついてくることもなくなった妹の一ノ瀬銘椀だったが、彼女はずっと鉄宇のことを信じていた。そして彼女の顔につけられた傷の真相を知った時、ようやく鉄宇は立ち上がって進む決意をする。

 閉店したタブラオ「al alba」と出会い、そこでフラメンコを教わりたいと思った鉄宇は、複雑な経緯の末、中学生の森野皐にフラメンコを教わることになる。そこに彼の友人たちも集まって来て…。
 自分より先に進んでいる人間が努力を怠らないならば、遅れて出発した人間はその何倍も努力しなければ追いつくこともできない。そのためには、なりふり構う余裕もない。そうやって精一杯頑張る覚悟を新たにした鉄宇は、フラメンコの第一歩を踏み出した。

 鉄宇自身は内省的で自己完結しがちな性格なのだが、彼に関係する藤本宝や銘椀などの女性たちが彼に目指すべき指針を示してくれるので、迷いを振り切ることが出来る。だからこの主人公は、ヒロインたちに引っ張られていく主人公なのだ。
 でも彼がそうやって引っ張ってもらえるのは、彼が彼女たちを引っ張った時期があったから。その貯金を使い切る前に、彼女たちとの関係が切り替わる瞬間は来るのだろうか?

鉄楽レトラ (1)

見えていなかった事実に気付いたとき
評価:☆☆☆☆☆
 小学生の頃は優秀だったけれど、周囲が成長していくに従って埋没し、むしろ落ちこぼれの部類になってしまった。でも、優秀だった時のプライドが捨てられず、無駄に周囲の反発を招いてしまう。一ノ瀬鉄宇はそんな少年の一人だ。
 中学時代にトラブルを起こして不登校に。これから通う高校は、知っている人のいない、通学に二時間もかかる場所にある。そして妹である一ノ瀬銘椀とは、いつの頃からか疎遠になってしまった。だが環境の変化は新たなきっかけを生み、過去の出来事の新たな側面を彼に見せてくれる。それは、鉄宇に何かを始めさせるのに十分な理由を与えてくれるのだった。

 世界で自分はたった一人、孤独に、誰にも顧みられることもなく生きて来たのだと思った。しかし、その孤独な道すら、周囲の人の愛情によって作られたものだった。その事実を知ってまだ立ち上がらないのならば、それはもう終わりだ。だから鉄宇は新たに一歩を踏み出すのだ。

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