椎橋寛作品の書評/レビュー
ぬらりひょんの孫 (20)
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百物語組の策略により、人間の敵にされてしまった奴良リクオは、彼を殺そうとする人間たちから狙われつつ、人間を殺す百物語組の幹部と戦い人間を守るという、困難な状況に置かれてしまった。奴良組幹部たちを各所に配し、百物語組の幹部を排除させようとするのだが、なかなか順調には進まない。そうこうしているうちに、やられる奴良組幹部も出てきてしまった。
一方、ネット世界で状況を中止する清継は、彼が敬愛する百鬼夜行の主が、そして彼の友人があっという間に世間からつまはじきにされ、狙われるようになることに憤りを隠せなくなっていた。そしてその思いの赴くまま、彼も行動を開始する。
街中に妖怪が散らばり、人間が妖怪に襲われる状況が出来てしまった。しかしデマが事実を上書きし、真の敵が見えなくなり、守ってくれる存在を敵として誤認させられる環境が作られる。一人の人間が全ての状況を一覧できない以上、断片的に入ってくる情報が全てであり、それがある程度に尤もらしく、それによって恐怖から逃れられるのならば、デマでも真実になってしまうのだ。
人間を守りたいと思いながら、人間から狙われるようになってしまったリクオ。だがそんなとき、彼を支えるのは普段から培ってきた絆なのである。
ぬらりひょんの孫 (19)
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奴良組二代目・鯉半の時代から続く、山ン本五郎左衛門との因縁は、三百年の時を超え、三代目リクオに困難をもたらす。それは四国の玉章の使った魔王の小槌、京都の羽衣狐を操っていた存在という形で過去に現れ、現在もまた、リクオが守ろうとする人間を巻き込んで、彼を追いこもうとする。
人間の中学生として、奴良組三代目として、ギリギリ両立させて来たリクオだったが、ついにその均衡は崩れ、彼に安寧の地は無くなったかのように見える。果たしてこの状況は永続するのか。その問いに対する答えを出すには、まず目の前の状況を切り抜けなければならない。
ぬらりひょんの孫 (18)
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奴良リクオ率いる三代目奴良組が敵対する百物語組の起源は、二代目・奴良鯉半にまで遡る。時は五代将軍・徳川綱吉の頃。開府以来、繁栄の一途をたどる江戸の町には、その光に比例するように、色濃く影も落とされていた。
奴良組のシマの中に現れる、人間を傷つける妖怪たち。その存在を、畏れを生み出しているのは、山ン本五郎左衛門という豪商だった。百物語を行って妖怪を生み出し、それに人を襲わせることで畏れを集める。それに賛同する人々を権力者の中に見出し、それを拡大していく。
そんな現状を江戸の町を遊び歩いていることで覚った奴良鯉半は、その根源を探る中で、百物語の妖怪を守る黒田坊に命を狙われるのだった。
このシリーズは、妖怪が悪さをするのではなく、その力にみせられた人間の欲望が最悪の妖怪を生み出していくという含みのある構成で、そのために山ン本五郎左衛門はちっぽけな人間らしい人間として描かれている。その落差から妖怪を産み出す心の闇が凄まじいのだ。
安定した売上があるからこそ許される、主役が登場しない展開。でも、羽衣狐の依代として利用された山吹乙女が幸せだった頃が見られるので良いかもしれない。
おまけもたくさん収録されている。
ぬらりひょんの孫 (17)
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奴良組の勢力範囲で頻発するシマ荒らし。猩影の依頼で調査に同行したリクオは、切り裂きとおりゃんせの怪の畏れの発生源へと到達する。しかしそこには、学校の先生までもが巻き込まれてしまっていた。
そして百物語組の影響は関西へも。京都にいる花開院ゆらの兄・竜二の通う学校でも、都市伝説が流行の兆しを見せていた。熱を帯びて来る都市伝説を鎮静化させるために赴いた先で、ゆらと竜二が見たものとは…。
相変わらずおまけのネームっぽいものがちょっと面白い。
ぬらりひょんの孫 (16)
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京都編クライマックス!遂に復活した鵺こと安倍晴明の圧倒的な実力の前に、なすすべもない奴良リクオたちにとっては幸運なことに、破滅まではしばしの猶予が与えられた。
その時間を生かすために、花開院の陰陽師たちは彼を倒す方法の研究にいそしみ、奴良組は妖怪としての畏を集め基盤の強化を図ることになる。
そんな訳で、三代目を襲名したリクオの下、幹部格となった若手妖怪たちが、それぞれのシマで地盤固めをする話が続きます。ところがその中で、何やら大きく黒い影が見え隠れ。それは、今後の展開にどのような影響を及ぼすのでしょうか?
おまけマンガで氷麗に気を使うリクオが面白い。そういうことをやっていると後で大変だよ。
ぬらりひょんの孫 (15)
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ついに羽衣狐悲願の鵺、安倍晴明復活の時が来た。彼が力を取り戻すのを妨げるべく、花開院の陰陽師たちと奴良組の構成員たちは攻め手を緩めない。
そんな戦いの中で、リクオの父にして奴良組二代目・鯉半と当代の羽衣狐の関係について、リクオと羽衣狐の間で微妙な記憶の齟齬があることが発覚する。
この事実は一体何を意味し、それが今後にどのような影響を与えるのか?
番外編として、リクオ以外の人間と妖怪の子・凛子が登場する「浮世絵中奇譚」と、そのこぼれ話である家長カナがリクオを変態と誤解するエピソード。他に、リクオが片手☆SIZEのマネージャーになる、夢の話が収録されている。
ぬらりひょんの孫 (14)
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鬼纏を習得して土蜘蛛と戦えるレベルになったリクオのもとに、遠野妖怪たちも集結する。そんな戦いが行われている裏では、弐條城で羽衣狐とぬらりひょんが400年ぶりの再会を果たしていた。
鵺の正体と、千年前の京都で起きた鵺誕生の物語が明らかになる。
リクオが新しい百鬼夜行を築き始めているのと同時に、ぬらりひょんは四百年前から続く奴良組と羽衣狐の因縁を断ち切るために弐條城に赴く。そこで今回の事件に秘められた陰謀が見え隠れするのだ。
一方で、鵺の意外な正体も分かってくる。妖怪と人間のクォーターであるリクオと、同じ様な立場の存在であるのだが、そこから目指した方向性はかなり違う。これから始まる戦いは、そういう思想の違いによる衝突という面もあるのかも知れない。
ぬらりひょんの孫 (13)
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牛鬼が奴良リクオを鍛えるために連れて行ってしまったため、主を失った奴良組の百鬼夜行は壊滅してしまいそうになる。しかし、何人かの妖怪の頑張りと、花開院ゆらと破軍、竜二や魔魅流の助力もあり、何とか京妖怪の鬼童丸や茨木童子の攻撃を凌ぐことに成功する。
その頃、修行中のリクオや鴆、そして花開院本家には、それぞれ別の敵が迫っていた。
本巻は羽衣狐が比較的お暇な感じです。強力な京妖怪に対抗するため、新たな畏を身につけたり、改めて協力関係を強力にするなど、攻撃側は準備にいそしんでいます。
前回と同様、奴良組主力妖怪の過去編も盛り込まれています。今回は青田坊。しょうけらの伝承と絡めて、面白いストーリーが展開されます。
カバー下の表紙には、十三代目の凄まじい適応力が垣間見えるおまけマンガが掲載されています。
ぬらりひょんの孫 (12)
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土蜘蛛に完敗し、つららを人質に取られてしまったリクオの前に、総大将がもっとも信頼する人物が現れ、彼を導こうとする。
一方、主を失った百鬼夜行はバラバラになる寸前。守るべきものを守れなかった自責の念に捕われた首無は、百鬼夜行を離れ、一人で京妖怪に戦いを挑む。それを追いかける毛倡妓、そして明かされる彼らの過去。
対象がパワーアップ修行中の間、これまで一歩控えているポジションにいた首無や毛倡妓がメインをはる。番外編も含め、江戸時代の彼らの姿が描かれていて、いつもとは違うしっとりとした雰囲気になっている気がする。ちょっと大人っぽいというか。
パワーアップしたリクオが活躍するのは次巻になりそう。
番外編では、ぬらりひょんと珱姫の新婚時代の姿が、表紙ではすっかり影を潜めた家長カナの読モデビューが描かれている。
ぬらりひょんの孫 (11)
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京都の入口にようやくたどり着いたリクオ率いる百鬼たちは、打倒した白蔵主の助言に従い、第一の封印である伏目稲荷の地に向かう。その頃、十三代目秀元の導きにより、花開院の陰陽師たちも伏目稲荷に向かっていた。
人間と妖怪、双方が集まる場所に降りたつ恐るべき怪異とは。
今回から「奴良組通信」第一号が織り込まれている。本体表紙のおまけも健在。
ぬらりひょんの孫 (10)
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第一から第三の「慶長の封印」を守護する花開院の陰陽師である秋房、雅次、波戸が羽衣狐一党に撃破され、ゆらや竜二、魔魅流が守護の前線に加わる。そして、魑魅魍魎あふれる街となった京都には、清十字団のメンバーたちも到着する。
一方、奴良リクオを筆頭とする奴良組京都侵攻部隊と、リクオについてきた遠野妖怪たちは、間もなく京都上空にさしかかる。だが、混成部隊の弱みが露見しようとしていた。
防戦一方だった花開院に予想外の助っ人が登場。約四百年のうちに失伝しかけていた「慶長の封印」の仕組みを生かし、反転攻勢のきっかけがつかめるのか、というのが興味深いところ。
そして、京妖怪と対等に戦うには必須能力である畏を、なぜリクオが遠野に行くまで身につけることができなかったのか?果たして奴良組の妖怪は京妖怪と渡り合える実力を持っているのか?という疑問も、今後の戦いの帰趨を占う上で重要なことだろう。
ぬらりひょんの孫 (9)
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ぬらりひょんに遠野へと叩き込まれたリクオは、イタクたち遠野妖怪の指導により、妖怪の妖怪たる所以を教えられ、自らの妖怪としての本質を考えさせられる。その修行の最中、京妖怪の一人が遠野を訪れる。
一方、羽衣狐の復活により、らせんの結界を次々と破られていく花開院は、分家の俊才たちの力を結集し、起死回生の一手を打とうとしていた。
京都という新たな戦いの舞台に立つためのリクオ自身の準備、そして、花開院に仕切られた京都に奴良組が入るための下準備が進められる巻。
ぬらりひょんの孫 (8)
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穏やかな日常も、その夜の部分である妖としての因縁も、ぬらりひょんの過去から現在へとつながっている。その内容は読んでいただければ良いとして、過去編の中で浮き彫りにされるのは、四百年という時間は妖怪にとっても長い時間だということだろう。
ぬらりひょんの百鬼夜行に連なる一ツ目の濁りのない瞳や、狒々の若々しい姿など、現在の変わり果てた姿からは想像するべくもない。妖怪ですら変わり果ててしまうというのに、式神破軍で再び出会えると言える花開院秀元は、人間として異質な存在なのかもしれない。
そして舞台は現代へと戻り、遠野&京都編へ。妖怪としてのステージを一段上がろうとするリクオと、本家へ戻ったゆらの姿が見られる。
ぬらりひょんの孫 (7)
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花開院ゆらの兄たちの登場により舞台の中心は四百年前の京都へと移り、若かりし頃のぬらりひょんと羽衣狐の因縁のはじまりが描かれる。青春18キップで京都まで移動するゆらは兄たちのいいおもちゃになっています。
これまではリクオが主役で、彼がほとんど人間だったこともあり、妖怪と人間が対立するという構図はほとんどなかった。しかし、人間を襲う羽衣狐が現れ、花開院流の陰陽術師が関わるのならば、いずれ人間と妖怪の違いは問題になってくるかもしれない。でも少年マンガという性格上、妖怪なのに人間を守るヒーローの奴良組という構図は崩れ様がないのかな?
ぬらりひょんの孫 (6)
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敗者の息子として生まれ、隠遁して暮らすには有り余る才気を持ってしまった妖怪の不運というべきか。自らの器も知らぬまま、身をもって教えてくれる者もおらず、結果、ただ力でねじ伏せるだけの生き方しかできなかった玉章。ぬらりひょんの孫として、その強さを間近で見て学ぶことができたリクオとの、成育環境の違いによる影響は否定できないだろう。今回の戦いの結末は、彼を一つ成長させたに違いない。
シリアスな戦いの後は清十字団の活動でちょっと和み…と思いきや、結構深い内容のストーリーになっている。ここで妖怪と人間のどっちがあくどいのだろうかと考えさせておいて、次に妖怪を絶対悪とみなす人たちを登場させる構成の妙がある。
おまけページには、玉章に魔王の小槌を渡した夜雀の主を示唆する情報も掲載されている。
ぬらりひょんの孫 (5)
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ぬらりひょんが不在のいま、玉章率いる四国八十八鬼夜行の襲撃に浮足立つ奴良組の構成員たち。彼らをまとめようと必死になるリクオだが、なかなか上手くいかない。そんなリクオに対し、鴆はとある一言を告げる。
ついに対決は総力戦の様相を呈してくる。人間にも妖怪にも同じ態度で臨むリクオと、力のみを信奉し全てをコマとして扱う玉章。リクオに対するそれぞれの想いが、形としても変化してきていることは、結果に何か影響を及ぼすのだろうか。
ところで、番外編のゆらはかなり壊れているね。
ぬらりひょんの孫 (4)
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奴良組の幹部を襲っているだけだった四国の妖怪たちが、人間もその対象とし始め、そしてついにリクオの学校にまで来るようになる。クラスメイトにまで被害が及ぶ状況になったリクオの対策とは。
妖怪であるがゆえに人間とはなれなかった犬神。そしてその犬神を使役し、人間と妖怪の枠を超えた頂点に立とうとする玉章。同じように妖怪の血を引きながらも人間であろうとし、それでいて妖怪も守ろうとするリクオ。二人の百鬼夜行の行く道が交差し、次巻では衝突します。
ぬらりひょんの孫 (3)
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牛鬼との闘いに決着もつき、奴良組を継ぐ決心を固めたリクオ。組の内部も何とかまとめ、若頭に就任したものの、その裏では、四国からの刺客が迫っていた。幹部の殺害に動揺する組員たち。そして、ぬらりひょんと花開院ゆらの前にも刺客が現れた。
牛鬼の件で妖怪サイドに傾いた話の流れを、カナのストーリーで人間側に戻しておいて、新たな展開へと突入しました。戦闘シーンでの緊張感と、生活感あふれるコメディ的な部分の落差が、飽きさせない展開を作っている気がします。
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